神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

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第15話 夜、星明かりの下で - 前編

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 ぱち、ぱち、と乾いた音が耳の奥で跳ねた。
 目を開けると、夜空があった。
 星が痛いほど澄んでいる。
 頬を撫でる風が冷たくて、ようやく自分が外にいると気づく。

「いっ……つ」

 背中がずきりと主張した。
 包帯の締め付けに、湿った薬草の匂い……これは、手当ての跡。
 体を少しだけ起こすと、焚火の向こうに三つの影。

 リュミナが小鍋をかき混ぜている。
 エルドは腕を組み、火を睨むように見つめている。
 セラは少し離れた岩に腰を掛け、杖の先についた青い魔石を静かに磨いていた。
 誰も喋らない。焚火の爆ぜる音だけが、やたらと大きい。
 俺は息を整え、上体を支えながら、できるだけ普通の声を出す。

「……外まで、運んでくれたのか」

 三人の肩が、同時にわずかに跳ねた。
 最初に振り返ったのはリュミナだ。ぱっと目が潤む。

「ランド! よかった……! もう、死んじゃったかと思ったんだから!」

 彼女が駆け寄ろうとした瞬間、エルドが短く制した。

「動かすな。まだ背中の傷が痛むだろ」
「う……そうね、ゴメンなさい」
「ホラ。これ、飲める?」

 セラがこちらへやってきて、水筒を差し出す。
 口に含むと、生ぬるい水が喉を優しく滑り落ちた。
 
「ぷは……。生き返ったよ」

 そう呟いて、俺は息を吐き、頭を下げた。

「すまなかった」

 三人の視線が、はっきりとこちらへ向く。

「リーダーとして、動きが鈍かった。皆の力を活かせなかった。全部、俺の未熟さのせいだ」
「はぁ?」

 エルドが眉を吊り上げる。

「何言ってんだよ。おっさんが飛び込まなかったら、この氷女は今ごろ……」
「……認めたくないけど、同意見」

 セラが静かに言う。

「責任を負うべきなのはボクたち。あなたはむしろ、ボクを守ってくれた」
「違う。導けなかったのは、俺だ」

 言葉に嘘はなかった。
 しん、と夜が深くなる。焚火の赤が揺れる。

「……いや、俺だ。俺が、悪かったよ」

 沈黙を破ったのは、意外にもエルドだった。
 大きく鼻から息を吐き、火を見つめたまま、ぼそりと言う。

「突っ走って、仲間の位置も見ないで前に出た」

 セラが視線を伏せる。

「ボクも。結果さえ出せば正しいと思ってた。皆の声を無視してた」

 その言葉に、リュミナが両手を腰に当てる。

「はいはい! その話は後にしよ。まずはご飯! できたわよ!」

 小鍋がどさっと置かれ、湯気がふわりと立つ。
 ふわりと……立った瞬間、なんとも言えない香りが鼻を刺した。
 香草と焦げのマリアージュ。

「どうぞ!」

 木椀を配るリュミナの顔は満点の自信。
 俺たちは顔を見合わせ、そっと一口。

 ――沈黙。

「………………すごい、な」

 俺は言葉を探して、やっと呟く。

「……ああ。すげえよ」
「確かに。凄いね」

 エルドとセラも続く。

「な、なによ……しょうがないじゃない、料理なんてやったことないんだから! 頑張ったのに!」

 リュミナがぷんすかと頬を膨らませる。

「ぶはっ! なんだそれ、お前ホントに冒険者か?」
「……ふふ、逆ギレだね」

 エルドが思わず吹き出し、セラの口元もわずかにゆるんだ。
 空気が少しだけ温くなる。

「はは……やれやれ、貸してみろ」

 俺は椀と鍋を受け取り、手元の塩をひとつまみ。
 焦げの苦味を切るために水で伸ばし、火から外して余熱で落ち着かせる。
 香草は刻んで、最後に指先で潰して香りだけを立てる。
 焚火の端で、湯気の匂いがふっと変わった。

「はい、食べてみて」
「お、おう……やけに手際良かったな」

 エルドが恐る恐る口をつけ、目を丸くする。

「うっ……ま!」
「そんなに? 大げさだな……え、美味しい……!」

 セラも二口、三口と連続で食べ進める。

「うう……悔しいけど、美味しい。魔法みたいね……」

 リュミナは両手で椀を抱え、涙を浮かべた目で俺を見上げる。

「なんてことない、家庭の知恵だよ」

 俺は苦笑しながら、焚火の明かりに視線を落とす。

「昔、妹が料理を始めたばかりの頃、よくこうやって直してた。本人にバレないように、こっそりな」
「へえ。おっさん、妹がいたのか」

 エルドが身を乗り出す。

「弟もいる。家では台所も俺の担当でさ。母親が、少し体が弱かったから」

 そこで一度、言葉を切る。
 湯気が、夜の冷たさの中に白く溶けていく。
 星が瞬いた。焚火がぱちりと弾けた。

「そう、か。その……いや」

 エルドが、何か言いかけてやめる。
 セラは視線を落とし、椀の中をじっと見つめている。
 リュミナが、いつもの大きな声で言った。

「……私も、詳しくは聞いて無いわね。ねぇ、もっと教えて。ランドの話」

 俺はうなずき、少しだけ姿勢を正した。
 この夜のあたたかさを壊さないように、静かに、ゆっくりと。
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