神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

文字の大きさ
16 / 26

第16話 夜、星明かりの下で - 後編

しおりを挟む
 「――で、リュミナと出会って、旅に出たってわけ」

 そう締めくくると、焚火の音が静かに弾けた。
 炎の赤が夜空に溶け、わずかな沈黙が落ちる。

「……ぐすっ……ぐ、ぐうぅ……!」

 隣から聞こえたのは、まるで牛の鳴き声みたいな嗚咽。
 エルドが鼻を真っ赤にして、涙と鼻水を一緒に流していた。

「お、お前……! なんてカッケエ男なんだ……! クソッ、早く言いやがれ……!」
「泣いてる……!? な、なんでだよ。普通の話だよ」
「いや! 泣くしかねぇだろ、こんなの……!」

 肩を震わせて号泣する彼の横で、リュミナは目をぱちぱちと瞬かせていた。

「……でも、ランド。女神の加護を受けてたなんて、すごい話ね」
「そうだね」

 セラも小さく頷く。

「確かに家族の話は感動的だけど、それよりボクは女神の祝福そっちに興味があるよ」

 俺は肩をすくめた。

「確かに凄い力だけど、まだ上手く使いこなせないんだ。破壊も創造も、これまで2回ずつ使ったけど……どっちも勝手に出た」
「勝手に、って……」

 リュミナが笑いを堪えきれず吹き出す。
 
「でもまあ、やたら強い魔法を使うと思ってたけど……そういうことだったのね。納得したわ」

 言いながら、焚火の枝を突いた。
 火花が跳ねて明るくなった炎に、三人の顔が照らし出される。
 エルドはまだ鼻をすすりながら、笑っていた。

「……いい家族だな」

 焚き火の炎を見つめながら、エルドがぽつりと漏らした。

「ちょっと、似てるかもしれねえ。俺もガキの頃、満足に飯を食えなかったんだ」
「エルドも?」
「ああ。ただしアンタと違って、誰かの世話をする必要が無かった分、マシかもしれねえな。……俺は、孤児だったんだ」

 炎がぱちりと弾けた。
 いつも強気な彼が、ほんの少し目を伏せる。

「王都の外れのスラムで生まれた。親の顔も知らねぇ。奪われんのが当たり前で、明日生きてる保証もなかった。同じような生まれの仲間もいたけど……ある日、ソイツはいなくなった。ま、大方盗みに入った先で捕まったか、魔物にやられたかだ」

 飄々とした口調だったが、その奥に沈んだ痛みは隠せなかった。
 誰も言葉を挟めない。
 焚き火の光が彼の横顔を照らし、影を長く引き伸ばしている。

「だから、強くなるしかなかった。力さえあれば、幸せになれると思ってた。……でも、さっきの話を聞いて、間違いに気づいたよ」
「間違い?」

 俺が問う。
 エルドは苦笑し、拳を焚き火の明かりにかざした。

「幸せになるために力が欲しかったのに、いつの間にか、力を得ることが目的になってた。あくまで手段だってのに……馬鹿だな、俺は」

 しばらく沈黙が流れ、炎のはぜる音だけが響いた。
 エルドは肩をすくめて笑う。

「悪かったな。色々、偉そうに言って」
「そ、そんな……気にしないでくれ。エルドの力があったから、こんなに楽にここまで進んでこれたんだ」
「いや、言わせてくれ。おっさんがいなきゃ、大事なことを忘れたままだった」

 エルドの声は、どこか晴れやかだった。
 そんな彼の言葉を、セラが静かに聞いていた。
 焚火の揺らぎが瞳に映り、淡い橙が反射する。

「……じゃあボクも、話しておくべきかな」
「ん?」
「ボクがことを避けて来た理由を」

 少し間を置き、セラは小さく息をついた。
 
「ボクのこの魔法は、学生時代に身に着けたものなんだ」
「学校に通ってたの? 魔法の?」
「うん。聞いたことあるかな。……王立魔法学院。ボクは、そこの特待生だったんだよ」
「おっ……王立魔法学院!?」

 リュミナが目を丸くする。
 俺はエルドに視線を向けるが、彼は小首を傾げていた。

「そんなに驚くようなことなのか?」
「そりゃあもう……! 王立魔法学院って言えば、一流の魔法使いを数多く輩出してる学校で、卒業生は高ランク冒険者とか王宮勤めとか……とにかく超名門よ!」
「へえ……そりゃすごいな」
「そこの特待生って……確かに凄い魔法だとは思ってたけど、まさかね」

 セラは淡く光を反射する杖の魔石を見つめ、口を開く。

「ただ、一年の時に退学したんだ。……いや、退学というのが正しいね」
「退学……させられた?」
「うん。王立魔法学院って、生徒の殆どが貴族の子供なんだ。魔法使いって、血統社会な部分もあるし。でもボクは何の変哲もない一般家庭出身。そんなボクが主席で特待生に選ばれたもんだから、周囲の反感を買っちゃってね」

 そこでセラは言葉を区切り、肩をすくめた。

「出るわ出るわ、身に覚えのない窃盗、暴行、いじめ、その他諸々の非道な行為。……全部、ボクを陥れようとした貴族の坊ちゃんたちがでっちあげた、真っ赤な嘘なんだけどね」
「嘘、まさか、それで……?」

 こくりと頷くセラ。

「結局一年も通えずに、退学になったよ。高い入学金を工面してくれた家族に合わせる顔も無くて、飛び出るように冒険者になったんだ」
「……酷いな」
「誰かを信じても、それはいつか壊れると思ってた。……でも、今の二人の話を聞いてると…………もう一回信じてもいいのかなって、そう思った」

 焚火の光が、彼女の頬を柔らかく照らす。
 俺は何も言わなかった。ただ、その言葉を受け止めるようにうなずく。
 それだけで十分だった。

 「……次は、お前の番か?」

 そう問いかけたエルドの視線の先には、リュミナ。
 彼女は慌てて両手をぶんぶん振る。

「わ、私は何も無いの。記憶が無い。でも、冒険者になりたいって想いだけは強く覚えてて……ランドを村から無理やり引っ張り出して、アグネアの街に来たのよ」

 エルドがふっと笑って、親指を立てた。

「そうか! なら、ここからを作っていけばいいな!」
「うん……!」

 リュミナが嬉しそうに笑う。
 静かに流れる時間。
 俺は焚火に新しい薪を一本くべて、ゆっくりと息を吐く。

「皆、今日はありがとな。それと、ゴメン。明日は……ちゃんととして、この依頼に挑もう」

 ぱち、と火花が弾けた。
 その光が、四人の顔を順に照らす。
 冷たい夜気の中、『明日こそは』という確かな熱意が、俺たちの心に滾っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...