神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

文字の大きさ
18 / 26

第18話 ネームド討伐

しおりを挟む
 開幕から全力だった。
 エルドが突進し、巨斧を振り下ろす。
 だが、金属のような鱗が火花を散らし、斧は弾かれた。
 エルドは体をふらつかせながら、舌打ちする。

「くそっ、硬ぇ……!」
「なら、これを喰らえ! 氷射アイスピアス!」

 続けてセラの魔法陣が展開。
 氷の矢が飛び出し、グラトンの顔面に直撃――したかに見えた。
 しかし体を覆う熱気に飲まれ、一瞬で蒸発した。

「そんな……ボクの魔法が……!?」
「次はこっちよ! ハアッ!」

 リュミナも動く。
 足を狙って横から斬りつけるが、刃が弾かれ、剣先が欠けた。

「うっ……うそ……!? 金属を切ってるみたい……!」

 力の差が、嫌でも突きつけられる。

「ボロロロロロ……!」

 グラトンが低く咆哮した。それだけで肺が震える。
 次の瞬間、口の奥が真紅に染まった。
 
「フザけんなよ! 火息ブレスは無いんじゃなかったのか……!」
「――まずい! 下がれっ!!」

 爆発にも似た咆哮。熱風が坑道を薙ぎ、岩が溶け、空気が焼けた。
 地面が波打ち、粉塵が炎のように舞い上がる。
 俺は考えるより早く、仲間の前に飛び出していた。
 怖いとか、死ぬとか、そんな考えは一切なかった。
 ただ、守りたい。
 それだけが頭にあった。

 ――ドクン

 視界が白く弾け、胸の奥で何かが爆ぜる。

「――創造クリエト!」

 次の瞬間、俺の前に光の壁が立ち上がった。
 炎がぶつかり、轟音が走る。壁が震え、空気が軋む。
 その向こうで、爆発が何度も弾けた。

「っ……な、なんだ、コレ……」
「……そういうことか。コレが、神から貰った力……」

 エルドとセラが目を見開く。
 自分でも何をしたのか、何を創り出したのかわからない。
 けれど、無我夢中で。
 仲間を守りたいという、それだけの気持ちで放った魔法は、一時的にではあるが、俺たちを危機から救ってくれた。

「ぐっ……う……」

 バシュンという音とともに壁が消える。
 残ったのは焦げた空気と、ひどい頭痛だった。
 世界がぐらぐら揺れて見える。呼吸するたびに胸が痛い。
 頭の奥で何かがきしむような感覚。精神が、擦り切れていく。

「ランド!」
「だ、大丈夫だ……ちょっと……頭が、重いだけだ……」

 息を整えながら立ち上がる。
 リュミナの肩越しに見たグラトンの姿は、これだけ戦闘を経ても傷一つついていない。
 むしろ怒りを増して、再びブレスを溜め始めている。
 まだ、終わらない。

「――ブシャアアアアアッ!」

 もう一度、口から吐き出される高熱波。

「く、くそ……! 創造クリエト……!」

 …………何も、起こらない。
 込めようとした魔力が霧散していく。
 やはり、まだ俺には使いこなせない。

「一人にばっか、頑張らせないよ!」

 セラが前に出た。両手で杖を握り、魔力を凝縮する。

氷雪壁フロストウォール!」

 氷の壁が次々に生まれる。
 だが、それはグラトンのブレスに触れた瞬間に溶けていく。
 それでもセラは、壁を出し続けた。
 溶けては作り、溶けては作り。
 そのたびに彼女の細い体は震え、呼吸が荒くなる。

「お、お前限界だろ……! もうやめろって!」
「バカ! ……や、やめたら……全員、死ぬって……!」
「っ……」

 その通り。
 セラの生み出す氷の防壁しか、俺たちに奴のブレスを止める術はない。

「くうっ……でも、もう……もたないっ……!」

 魔力の限界。
 当然だ、あれほど大きな質量の氷を、連続で作り出しているのだから。
 セラの防壁の再生速度が落ちる。
 勢いを増した赤熱が、坑道全体を真紅に染めていく。

 全員が、その真っ赤な光を見た。そして理解した。
 死が、目の前に迫っていることを。

 やばい。皆、死ぬ。
 俺が、守らなきゃ。
 俺が――!

 喉の奥から熱い何かがこみ上げる。
 胸が焼けるように痛い。
 足が勝手に前へ出る。

「お、おい! おっさん!」
「……どこ、行くの……後ろに、下がって……!」
「ランド! 何してるの!」

 仲間が俺を呼ぶ。
 確かに死ぬのは怖い。
 でも、それ以上に、仲間を失う方が怖い。

 俺に、やれるのか。
 いや、やれるかじゃない。やるんだ。

 俺の中で何かがはじけた。
 視界の端が白く染まり、音が遠のく。
 呼吸のたびに、血の味が広がった。
 腕が裂け、掌から光が噴き出す。

 この灼熱も。
 恐怖も。
 仲間を脅かす全てを。

 ……壊せ。

「――破壊デストラ

 漆黒の閃光が走り、空間が一瞬、歪んだ。
 グラトンの口から放たれたブレスが、まるで吸い込まれるように消えた。
 黒い光が坑道を貫き、熱も音も全部――消えた。

 次の瞬間、爆風。
 世界が一度ひっくり返ったような衝撃。
 地面が割れ、粉塵が舞う。
 俺は体ごと吹き飛ばされ、岩に叩きつけられた。

「カハッ……!」

 息ができない。
 手足が痺れ、指先の感覚がなかった。
 全身の筋肉が悲鳴を上げる。
 これが、破壊の反動。身体が壊れるような痛み。

「ランドっ!」

 リュミナの声が遠くで響く。
 揺れる視界の向こうで、グラトンがゆっくりと崩れていった。
 胸部に黒い穴が開き、赤熱した肉体がぼろぼろと零れ落ちる。
 巨体が膝をつき、地響きとともに倒れ込んだ。
 熱が抜け、空気が冷えていく。

「終わった、のか……?」

 エルドの声が、かすかに震えていた。
 誰もすぐには答えられない。
 ただ息づがいだけが、静かに聞こえる。
 ようやく戦いが終わったのだと、頭ではわかっても実感が追いつかない。
 駆け寄って来たリュミナが、俺の腕を掴む。

「無茶しすぎだよ……!」
「……悪い。けど、守れたろ」

 そう言うのが精一杯だった。声がかすれていた。
 セラは杖に体重を預けて、ゆっくりと歩く。

「……全員、生きてるね」

 その言葉に、ようやく少しだけ肩の力が抜けた。
 エルドが斧を拾い上げ、倒れたグラトンの額へ歩いていく。

「こいつが討伐証明、だな」

 重い音を立てて、黒銀色の角をバキンと折り取る。
 煙のような熱気が散り、角が鈍く光った。

「は、はは……やった」

 俺は震える腕を掲げ、親指を立てる。

「ははっ! おっさん――いや、リーダー。……最高だよ、アンタ」

 エルドはそう言って、俺の右肩を抱いて持ち上げる。

「痛っ!? く……もっと、ゆっくり頼む……」
 
 全身に稲妻のような激痛が走った。
 女神が言っていたことを思い出す。
 扱う力が大きければ大きいほど、反動も大きくなると。

「ほんと、無茶苦茶なパーティだね。……でも、ま。次も楽しみだよ」

 左肩にセラが回って、俺の体を支えた。

「があっ……! ほ、本当痛いんだ――」
「――よしっ! とっととギルドに戻って、打ち上げしま……しょ!」
 
 台詞と同時、バシーンと背中を叩かれる。

「ぐはあっ!?」

 薄暗い坑道の奥で、俺たちの笑い声だけが明るく響いた。
 
 英雄団。初めての依頼。そしてネームド討伐。
 
 長い長い夜の果てに、ようやく朝が見えた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...