神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

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最終話 俺の青春は

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「――はい。それでは書類を受け付けました。これで、パーティ名が『英雄団』から『リスタート』へ正式に変更されました」

 マリアの穏やかな声が、ギルドのロビーに響いた。
 昼下がりの光が差し込み、床に長い影を作っている。
 周囲には他の冒険者たちもちらほらいるが、今のロビーの主役は俺たちだ。

「ありがとうございます」

 俺が頭を下げると、マリアは小さく笑った。

「ふふ、リスタートですか。良い名前ですね。……私は英雄団も好きでしたけれど」
「はは、あれは勢いで決めたんですよ。こっちのほうが、今の俺たちには合ってる気がします」

 いつも通りの声で会話する。
 けれどその背後で、ひそひそ囁く者たちがいる。

「え……アレ、どう思う?」
「成功……した……のかしら?」
「うーん、それにしてはいつも通りすぎる気がする」
「そうだよなぁ。恋人になったってんなら、もっとこう……なあ」
「でも、失敗したようには見えないわよ。あんまり落ち込んでないもん」
「うん。もしダメだったなら、『終わりだ……』とか言い出しそうだもんね」
「ぶはっ! 言いそう!」

 後ろを振り返らなくても分かる。
 あの三人だ。
 ったく、好き勝手言ってくれやがって。
 俺はため息を一つついて、後方のパーティメンバーたちに声をかける。

「おーい、皆ー。集まってくれー」

 三人ともビクッと肩を震わせ、パタパタと駆けてくる。

「お、おう! なんだ、次の依頼か?」
「その通り。皆の意見を聞かせてくれ」

 掲示板から数枚の紙を持ってきて広げる。
 俺は慎重に目を通しながら、言葉を選んだ。

「Dランクになって、受けられる依頼の幅も広がったけど……手強そうなのが多いな。まずは手堅く、安全そうなやつから――」
「なに言ってんだよ!」

 エルドが即座に割り込む。

「せっかくランク上がったんだ、デカいの行こうぜ!」
「え、ボクは反対だな」

 腕を組んだまま淡々と反論するのはセラ。

「見たところ、楽に儲けられる割の良い仕事が増えてる。先にそっちで慣らしてからの方がいいよ」
「私はエルドに賛成! でっかい仕事の方が、気持ちも上がるもん!」

 子供みたいな意見のリュミナ。
 三人三様の意見がぶつかって、俺は頭をかいた。

「うーん……困ったな。個人的にはセラ寄りの意見なんだけど……」

 その時、受付カウンターの向こうからマリアが声をかけてきた。

「今日は一旦、依頼はやめておいた方がいいんじゃないでしょうか」

 全員が一斉に振り向く。
 マリアは穏やかに続けた。

「見たところ、前回のグラトン討伐で装備もだいぶ傷んでいますし……それに、ランドさん」
「は、はい」
「――そろそろ、自分専用の武器を買ってください」

 ピシッと音がした気がした。
 俺以外の三人が、一斉に絶句している。

「……えっ?」
「おい待て、お前まさか……」
「共用の武器、まだ使ってるの?」
「Dランクで!?」

 みんなの視線が突き刺さる。
 俺は思わず苦笑いして、首をすくめた。

「いや、買おうとは思ってたんだ。金もそこそこ溜まってきたし。ただ……色々目移りしちゃって、決められなくて……」

 リュミナが両手を腰に当てて言い放つ。

「ありえない! 今日は買い物に行くわよ! 装備を整える準備日ね!」
「異議なし! おっさんに武器の買い方を教えてやる!」
「……仕方ないね」

 いつの間にか全会一致だ。
 俺は頭を掻きながら、マリアの方を向いた。

「そ、そうか……意見がまとまって良かった。あ、でも念のため、新しい武器を借りてもいいですか?」
「え? 買いに行くんじゃないんですか?」
「いや、もちろん買います。今日買うんですけど、万が一何かあった時に武器なしじゃちょっと……」

 マリアは呆れたようにため息をつきながらも、笑ってギルド共用の剣を差し出した。

「まったく。ちゃっかりしてるんですから、ランドさん」
「ありがとう、
「あ……」
「「「え?」」」

 言った瞬間、空気が止まった。
 後ろの三人が同時に疑問の声をあげる。
 マリアさんがわずかに目を見開き、俺は口を開けたまま固まった。

「……ははーん、なるほどねぇ」
「なんだ。バッチリ成功したんだ」
「ふーん。……良かったじゃない。私に何の報告も無いのはどうかと思うけどね!」

 三人の視線が痛い。
 顔が熱くなっていく。
 そんな中、ずいっとエルドがこちらに身を寄せて来た。

「……おっさん、冒険者を辞めるとか言い出さないよな?」
「は?」

 俺は思わず聞き返した。

「だってよ、守るものができたらさ、危険な仕事やめて落ち着くってパターンもあるだろ?」

 言われて、初めて気づいた。
 確かに、もう『守るべきもの』ができた。
 なら、危険な仕事をやめる選択も、あるのかもしれない。
 それこそ、マリアが本心では冒険者を辞めてほしいと思っている可能性だって十分にある。
 けれど、自分でも驚くほど、迷いはなかった。

「……やめないさ」

 仲間たちが一斉にこちらを見る。
 俺は笑って言った。

「俺は死ぬまで冒険者だよ」

 一瞬の沈黙のあと、エルドが豪快に笑った。

「そうこなくっちゃな! よーし、じゃあ武器屋へ出発だ!」

 エルドが先頭に立ち、リュミナとセラが続く。
 俺もマリアの方を振り返る。

「それじゃ、行ってきます……マリア」
「ふふ。また、からかわれちゃいますよ。……でも嬉しい。行ってらっしゃい、ランドさん」

 マリアが柔らかく微笑む。
 温かい笑顔に背中を押されるように、俺は歩き出した。
 その瞬間――

《魔法を使わず、過去という名の鎖を破壊したか。やるじゃないか》
《恋人まで創ってしまって……見ていて飽きませんね。これからも、頑張ってください》

 耳元で、二つの声が響いた。
 懐かしく、優しい、あの女神たちの声。
 姿は見えないが、俺は微笑んだ。
 ……見ててくださいね。俺はこれからも、止まらず進み続けますから。

「――おーい、おっさん! 早く来いよー!」
「ああ、今行くよ!」

 ドアの外では、仲間たちの笑い声が風に乗って響いている。
 
 ――リスタート。本当に、これ以上ない名前だ。

 俺はその名を胸の中で反芻し、歩を進めた。

 ランド・バーナード。三十七歳。

 俺の青春は、まだ始まったばかりだ。


===============================
あとがき
 ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
 本作はこれにて完結になります。
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