義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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 翌朝。よく晴れた日だったらしい。陽の光が部屋に差し込む中、レイナードはせっかく眠れた夢の世界から引き戻されていた。
「おはよう、レイナード」
「……お、おはようございます……ヴィルヘルム様……」
 目の前にヴィルヘルムがいた。しかも彼はもう身支度を整えているようで、髪もセットされているし服も着替え終わっていた。一方自分はまだ寝間着のままである。寝つけなかったのだから仕方のないのだけど、こうして完璧な相手の前に立つと恥ずかしい気持ちになる。それに、何より。
「………」
「………」
(お、怒ってるぅ~~~…)
 突然ヴィルヘルムの部屋に連れ込まれたレイナードとしては、自室に戻っただけなのだが、ヴィルヘルムの側からすれば「折角この僕が親にすら入らせない部屋に入れてやったのに何なんだよ」と言うことなのだろう。だが、来たばかりのレイナードにはそうした背景が分かるわけもない。
(ひぃん…こ、怖いよぉ…)
 レイナードは泣きそうになりながらも、ヴィルヘルムに挨拶をした。するとヴィルヘルムは「ふん」と鼻を鳴らす。
「さっさと支度したら?」
「わ、わかりました…」
 のろのろベッドから降りて服に手を掛けながらレイナードは部屋の真ん中で仁王立ちしているヴィルヘルムへと振り返る。
「あ、あの…」
「何?」
「き、気になるん…ですが…」
 レイナードがそう言うとヴィルヘルムはフンと鼻を鳴らす。そして「僕は別に気にならない」と言った。
(ひぃん……!怖いぃい……)
「あの、着替えたいんですけど……」
「だから?早くしたら?」
「え、ええ……?」
(ど、どうしよう……)
 レイナードは困惑しながら立ち尽くしていた。するとヴィルヘルムは苛々した様子で口を開いた。
「お前さ、使用人にどう思われてるか知ってる?」
「……へ?」
「敗戦国から連れて来られた、得体の知れない子供。しかも男か女か分からないような容姿の奴をどう扱うと思う?」
「あ……」
 レイナードはようやくヴィルヘルムの意図に気づいた。彼はレイナードが使用人からどんな扱いを受けるのかを心配しているのだ。たぶん。
「…ありがとう、ございます」
「ふん。いいから早く着替えしたら?」
 そう言うとヴィルヘルムはくるりと踵を返して部屋を出ていった。残されたレイナードはしばらく呆然としていたがやがて慌てて着替え始めたのだった。
***
「おはよう、レイナード」
「お、おはようございます」
 深夜の遭遇事件があったとは言え、クリストファーは昨日と変わらない様子で手を組んでテーブルに座っていた。
(ね、寝たのかな?むしろいつもあんな時間まで起きてるのかな…?)
「よく眠れたかい?」
「は、はいっ、その、ありがとうございます」
「………」
 使用人たちが次々と料理を運んでくるが、ヴィルヘルムは目もくれずじっと二人の会話を聞いている。まるで見張るように。
「緊張しているのも無理はないだろう。暫くはこの家に慣れることに注力しなさい」
「は、はいっ!」
「それからヴィルヘルム。お前もレイナードに色々と教えてやりなさい」
「はい、父上」
 そう言って頷くヴィルヘルムの表情に少しだけ変化が現れる。ただそれは、レイナードに見せたモノとは違う、どこか『他所行き』の表情だったけれど。
(この二人、仲良しじゃないのかな…)
「さ、食事にしようじゃないか」
 そう言うとクリストファーはナイフとフォークを手に取る。レイナードも慌てて同じように手に取ったのだが、その瞬間ちらりとヴィルヘルムの視線が飛んでくるのがわかった。
(た、食べ方変とか?)
 内心で焦りながらもゆっくりと食事を口に運ぶ。すると今度はまた違う方向から視線を感じた。恐る恐る顔を上げると、そこにはやはりヴィルヘルムがじっとこちらをみているのだった。
(ひぃん……)
 だがここで食事を中断するわけにもいかない。レイナードは緊張しながらも食事を続ける。
(あ、でも美味しい……)
 貴族の食卓に相応しい料理は見た目も味も素晴らしく、レイナードは感動すら覚えていた。ふわふわのオムレツも甘くて口当たりも良いし、特にスープが素晴らしい。舌触りも味付けもレイナードの故郷でも食べたことのない味だった。思わず「美味しい……」と呟いてしまったほどだ。すると隣にいたクリストファーが笑いながら言った。
「そうかい?良かったよ」
「あ、ありがとうございます!」
 レイナードは慌てて礼を言う。
「…それ、好きなのか?スープ」
 すると今まで黙っていたヴィルヘルムが突然口を開いた。レイナードは驚いて彼の顔を見る。
「はい…!スープも、このオムレツも…」
「そう」
 そう言うとヴィルヘルムはおもむろに自分のスープ皿をレイナードの目の前に移動させた。そしてそのままスプーンを手に取り、掬い取るとそれをレイナードに向けたのだ。
「……おい」
「ひゃいっ!?」
 睨まれたかと思い、レイナードが肩を跳ねさせる。だがヴィルヘルムは、なぜか不機嫌そうに自分のスープ皿をレイナードの目の前に引き寄せた。
「さっきから手が震えてて危なっかしい。こぼされたら絨毯が汚れる」
「え……?」
 ヴィルヘルムはスプーンで黄金色のスープをすくうと、それを無造作に突き出した。
「ほら、口を開けろ」
「……へ!?」
(ええ!? もしかして、子供扱いされてる!? いや、これも『仲良くする』ための試練……?)
 混乱しつつも、逆らうわけにはいかない。レイナードはおずおずと唇を開いた。
「あ、あーん……」
 パク、と含むと、ヴィルヘルムの喉がごくりと動いたのが見えた。
「…………」
「……あ、あの? ヴィル兄さん?」
 スプーンを持ったまま固まる義兄の耳が、心なしか赤い気がする。
「……なんでもない。ほら、次はオムレツだ」
 ヴィルヘルムは小さく微笑むと再びスプーンで掬ってレイナードの口元に差し出した。
「!?はむ!むむ!」
 そんな様子をクリストファーが微笑ましそうに見守っていたのだった。
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