5 / 45
4
しおりを挟む
翌朝。よく晴れた日だったらしい。陽の光が部屋に差し込む中、レイナードはせっかく眠れた夢の世界から引き戻されていた。
「おはよう、レイナード」
「……お、おはようございます……ヴィルヘルム様……」
目の前にヴィルヘルムがいた。しかも彼はもう身支度を整えているようで、髪もセットされているし服も着替え終わっていた。一方自分はまだ寝間着のままである。寝つけなかったのだから仕方のないのだけど、こうして完璧な相手の前に立つと恥ずかしい気持ちになる。それに、何より。
「………」
「………」
(お、怒ってるぅ~~~…)
突然ヴィルヘルムの部屋に連れ込まれたレイナードとしては、自室に戻っただけなのだが、ヴィルヘルムの側からすれば「折角この僕が親にすら入らせない部屋に入れてやったのに何なんだよ」と言うことなのだろう。だが、来たばかりのレイナードにはそうした背景が分かるわけもない。
(ひぃん…こ、怖いよぉ…)
レイナードは泣きそうになりながらも、ヴィルヘルムに挨拶をした。するとヴィルヘルムは「ふん」と鼻を鳴らす。
「さっさと支度したら?」
「わ、わかりました…」
のろのろベッドから降りて服に手を掛けながらレイナードは部屋の真ん中で仁王立ちしているヴィルヘルムへと振り返る。
「あ、あの…」
「何?」
「き、気になるん…ですが…」
レイナードがそう言うとヴィルヘルムはフンと鼻を鳴らす。そして「僕は別に気にならない」と言った。
(ひぃん……!怖いぃい……)
「あの、着替えたいんですけど……」
「だから?早くしたら?」
「え、ええ……?」
(ど、どうしよう……)
レイナードは困惑しながら立ち尽くしていた。するとヴィルヘルムは苛々した様子で口を開いた。
「お前さ、使用人にどう思われてるか知ってる?」
「……へ?」
「敗戦国から連れて来られた、得体の知れない子供。しかも男か女か分からないような容姿の奴をどう扱うと思う?」
「あ……」
レイナードはようやくヴィルヘルムの意図に気づいた。彼はレイナードが使用人からどんな扱いを受けるのかを心配しているのだ。たぶん。
「…ありがとう、ございます」
「ふん。いいから早く着替えしたら?」
そう言うとヴィルヘルムはくるりと踵を返して部屋を出ていった。残されたレイナードはしばらく呆然としていたがやがて慌てて着替え始めたのだった。
***
「おはよう、レイナード」
「お、おはようございます」
深夜の遭遇事件があったとは言え、クリストファーは昨日と変わらない様子で手を組んでテーブルに座っていた。
(ね、寝たのかな?むしろいつもあんな時間まで起きてるのかな…?)
「よく眠れたかい?」
「は、はいっ、その、ありがとうございます」
「………」
使用人たちが次々と料理を運んでくるが、ヴィルヘルムは目もくれずじっと二人の会話を聞いている。まるで見張るように。
「緊張しているのも無理はないだろう。暫くはこの家に慣れることに注力しなさい」
「は、はいっ!」
「それからヴィルヘルム。お前もレイナードに色々と教えてやりなさい」
「はい、父上」
そう言って頷くヴィルヘルムの表情に少しだけ変化が現れる。ただそれは、レイナードに見せたモノとは違う、どこか『他所行き』の表情だったけれど。
(この二人、仲良しじゃないのかな…)
「さ、食事にしようじゃないか」
そう言うとクリストファーはナイフとフォークを手に取る。レイナードも慌てて同じように手に取ったのだが、その瞬間ちらりとヴィルヘルムの視線が飛んでくるのがわかった。
(た、食べ方変とか?)
内心で焦りながらもゆっくりと食事を口に運ぶ。すると今度はまた違う方向から視線を感じた。恐る恐る顔を上げると、そこにはやはりヴィルヘルムがじっとこちらをみているのだった。
(ひぃん……)
だがここで食事を中断するわけにもいかない。レイナードは緊張しながらも食事を続ける。
(あ、でも美味しい……)
貴族の食卓に相応しい料理は見た目も味も素晴らしく、レイナードは感動すら覚えていた。ふわふわのオムレツも甘くて口当たりも良いし、特にスープが素晴らしい。舌触りも味付けもレイナードの故郷でも食べたことのない味だった。思わず「美味しい……」と呟いてしまったほどだ。すると隣にいたクリストファーが笑いながら言った。
「そうかい?良かったよ」
「あ、ありがとうございます!」
レイナードは慌てて礼を言う。
「…それ、好きなのか?スープ」
すると今まで黙っていたヴィルヘルムが突然口を開いた。レイナードは驚いて彼の顔を見る。
「はい…!スープも、このオムレツも…」
「そう」
そう言うとヴィルヘルムはおもむろに自分のスープ皿をレイナードの目の前に移動させた。そしてそのままスプーンを手に取り、掬い取るとそれをレイナードに向けたのだ。
「……おい」
「ひゃいっ!?」
睨まれたかと思い、レイナードが肩を跳ねさせる。だがヴィルヘルムは、なぜか不機嫌そうに自分のスープ皿をレイナードの目の前に引き寄せた。
「さっきから手が震えてて危なっかしい。こぼされたら絨毯が汚れる」
「え……?」
ヴィルヘルムはスプーンで黄金色のスープをすくうと、それを無造作に突き出した。
「ほら、口を開けろ」
「……へ!?」
(ええ!? もしかして、子供扱いされてる!? いや、これも『仲良くする』ための試練……?)
混乱しつつも、逆らうわけにはいかない。レイナードはおずおずと唇を開いた。
「あ、あーん……」
パク、と含むと、ヴィルヘルムの喉がごくりと動いたのが見えた。
「…………」
「……あ、あの? ヴィル兄さん?」
スプーンを持ったまま固まる義兄の耳が、心なしか赤い気がする。
「……なんでもない。ほら、次はオムレツだ」
ヴィルヘルムは小さく微笑むと再びスプーンで掬ってレイナードの口元に差し出した。
「!?はむ!むむ!」
そんな様子をクリストファーが微笑ましそうに見守っていたのだった。
「おはよう、レイナード」
「……お、おはようございます……ヴィルヘルム様……」
目の前にヴィルヘルムがいた。しかも彼はもう身支度を整えているようで、髪もセットされているし服も着替え終わっていた。一方自分はまだ寝間着のままである。寝つけなかったのだから仕方のないのだけど、こうして完璧な相手の前に立つと恥ずかしい気持ちになる。それに、何より。
「………」
「………」
(お、怒ってるぅ~~~…)
突然ヴィルヘルムの部屋に連れ込まれたレイナードとしては、自室に戻っただけなのだが、ヴィルヘルムの側からすれば「折角この僕が親にすら入らせない部屋に入れてやったのに何なんだよ」と言うことなのだろう。だが、来たばかりのレイナードにはそうした背景が分かるわけもない。
(ひぃん…こ、怖いよぉ…)
レイナードは泣きそうになりながらも、ヴィルヘルムに挨拶をした。するとヴィルヘルムは「ふん」と鼻を鳴らす。
「さっさと支度したら?」
「わ、わかりました…」
のろのろベッドから降りて服に手を掛けながらレイナードは部屋の真ん中で仁王立ちしているヴィルヘルムへと振り返る。
「あ、あの…」
「何?」
「き、気になるん…ですが…」
レイナードがそう言うとヴィルヘルムはフンと鼻を鳴らす。そして「僕は別に気にならない」と言った。
(ひぃん……!怖いぃい……)
「あの、着替えたいんですけど……」
「だから?早くしたら?」
「え、ええ……?」
(ど、どうしよう……)
レイナードは困惑しながら立ち尽くしていた。するとヴィルヘルムは苛々した様子で口を開いた。
「お前さ、使用人にどう思われてるか知ってる?」
「……へ?」
「敗戦国から連れて来られた、得体の知れない子供。しかも男か女か分からないような容姿の奴をどう扱うと思う?」
「あ……」
レイナードはようやくヴィルヘルムの意図に気づいた。彼はレイナードが使用人からどんな扱いを受けるのかを心配しているのだ。たぶん。
「…ありがとう、ございます」
「ふん。いいから早く着替えしたら?」
そう言うとヴィルヘルムはくるりと踵を返して部屋を出ていった。残されたレイナードはしばらく呆然としていたがやがて慌てて着替え始めたのだった。
***
「おはよう、レイナード」
「お、おはようございます」
深夜の遭遇事件があったとは言え、クリストファーは昨日と変わらない様子で手を組んでテーブルに座っていた。
(ね、寝たのかな?むしろいつもあんな時間まで起きてるのかな…?)
「よく眠れたかい?」
「は、はいっ、その、ありがとうございます」
「………」
使用人たちが次々と料理を運んでくるが、ヴィルヘルムは目もくれずじっと二人の会話を聞いている。まるで見張るように。
「緊張しているのも無理はないだろう。暫くはこの家に慣れることに注力しなさい」
「は、はいっ!」
「それからヴィルヘルム。お前もレイナードに色々と教えてやりなさい」
「はい、父上」
そう言って頷くヴィルヘルムの表情に少しだけ変化が現れる。ただそれは、レイナードに見せたモノとは違う、どこか『他所行き』の表情だったけれど。
(この二人、仲良しじゃないのかな…)
「さ、食事にしようじゃないか」
そう言うとクリストファーはナイフとフォークを手に取る。レイナードも慌てて同じように手に取ったのだが、その瞬間ちらりとヴィルヘルムの視線が飛んでくるのがわかった。
(た、食べ方変とか?)
内心で焦りながらもゆっくりと食事を口に運ぶ。すると今度はまた違う方向から視線を感じた。恐る恐る顔を上げると、そこにはやはりヴィルヘルムがじっとこちらをみているのだった。
(ひぃん……)
だがここで食事を中断するわけにもいかない。レイナードは緊張しながらも食事を続ける。
(あ、でも美味しい……)
貴族の食卓に相応しい料理は見た目も味も素晴らしく、レイナードは感動すら覚えていた。ふわふわのオムレツも甘くて口当たりも良いし、特にスープが素晴らしい。舌触りも味付けもレイナードの故郷でも食べたことのない味だった。思わず「美味しい……」と呟いてしまったほどだ。すると隣にいたクリストファーが笑いながら言った。
「そうかい?良かったよ」
「あ、ありがとうございます!」
レイナードは慌てて礼を言う。
「…それ、好きなのか?スープ」
すると今まで黙っていたヴィルヘルムが突然口を開いた。レイナードは驚いて彼の顔を見る。
「はい…!スープも、このオムレツも…」
「そう」
そう言うとヴィルヘルムはおもむろに自分のスープ皿をレイナードの目の前に移動させた。そしてそのままスプーンを手に取り、掬い取るとそれをレイナードに向けたのだ。
「……おい」
「ひゃいっ!?」
睨まれたかと思い、レイナードが肩を跳ねさせる。だがヴィルヘルムは、なぜか不機嫌そうに自分のスープ皿をレイナードの目の前に引き寄せた。
「さっきから手が震えてて危なっかしい。こぼされたら絨毯が汚れる」
「え……?」
ヴィルヘルムはスプーンで黄金色のスープをすくうと、それを無造作に突き出した。
「ほら、口を開けろ」
「……へ!?」
(ええ!? もしかして、子供扱いされてる!? いや、これも『仲良くする』ための試練……?)
混乱しつつも、逆らうわけにはいかない。レイナードはおずおずと唇を開いた。
「あ、あーん……」
パク、と含むと、ヴィルヘルムの喉がごくりと動いたのが見えた。
「…………」
「……あ、あの? ヴィル兄さん?」
スプーンを持ったまま固まる義兄の耳が、心なしか赤い気がする。
「……なんでもない。ほら、次はオムレツだ」
ヴィルヘルムは小さく微笑むと再びスプーンで掬ってレイナードの口元に差し出した。
「!?はむ!むむ!」
そんな様子をクリストファーが微笑ましそうに見守っていたのだった。
638
あなたにおすすめの小説
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた
さ
BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。
断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。
ーーそれなのに。
婚約者に婚約は破棄され、
気づけば断罪寸前の立場に。
しかも理由もわからないまま、
何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。
※最終的にハッピーエンド
※愛され悪役令息
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる