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『アドラー家は軍人一家。特に今の当主であるクリストファーは、参謀としても優秀なのは勿論、武芸にも長けていて、真っ白な肌にいつも寝不足なのかくっきり黒いクマがある。なので、まるでおとぎ話のヴァンパイアみたいだと言われてる』
エリオスは、レイナードより詳しく色んなことを調べてくれていた。離れ離れになるのはさみしいけれど、こうして二人で一緒に調べ物するのは楽しかった。
『ヴァ、ヴァンパイア!?』
『あの人功績もすごいあるからね。相当殺してるんじゃない?』
『はわわ……』
レイナードは頬に手を当てて青い顔をしている。
(そんなところに行ったら、僕、八つ裂きにされちゃう…)
レイナードの脳内には凶悪な悪魔が長い舌を出して両腕に剣を持っている姿が浮かんだ。
『…エリオスはなんでも知ってるんだね』
『まあね』
得意げに鼻の下を人差し指で擦る仕草をするエリオスにレイナードは尊敬の眼差しを向けていたが、段々その表情が曇りだす。
『…僕じゃなくて、エリオスが代わりに行ったほうが上手く行く気がする』
『馬鹿言わないでよ。僕が行っても揉めるだけだし』
『うぅ…』
『続けるよ?領主のクリストファーの嫡男、ヴィルヘルムについて。ちゃんと覚えて?』
エリオスはそう言って再び説明を始める。
『年齢は僕たちの2つ上。父親譲りの金髪と母親譲りの美貌の美少年と誉れ高いが、剣術も馬術も体術も、全てにおいて秀でている。特に剣の腕前は大人顔負け。性格は冷静沈着で冷徹。人当たりは良いが敵とみなした相手には一切の容赦はない』
レイナードはその説明を聞きながら、頭にまだ見ぬ主とその息子の姿を想像し、震える。
『ひぃ…』
『震えてちゃダメだよ、レイナード。お前はあの家に取り入るために、その可愛い容姿をフル活用して気に入られなきゃいけないんだから』
『か、可愛いって言わないでよぉ……』
エリオスはレイナードの頬をぷにぷにとつつきながら言った。
『まあ、とにかく頑張れよ。僕も陰ながら応援してるからさ』
(うぅ……不安しかないけど頑張るしかないよね……)
そう思っていたのだ。旅立つまで。なのだけど。
(めちゃめちゃ不審がられてるよぉおお)
同衾の時点でレイナードの心は折れていた。初日からレイナードは常にヴィルヘルムの怜悧な目に晒されていて「仲良くなろうとするのが使命」とエリオスは言っていたけれど、どう見てもその逆だ。それこそ、エリオスの家で飼われていた巨大な犬の目を思い出す。唸り声は上げられてないが、それに近いような状況だ。
(ね、寝れるわけないよ…)
レイナードはベッドの中で蹲り、泣きそうになるのを我慢した。部屋の主はレイナードの苦悩をよそにすやすやと寝息を立てている。
「ん……」
そして時折漏らす吐息に起こしてしまわないかレイナードはドキドキしながら目を瞑る。眠れないまま朝を迎えてしまいそうで、レイナードは一人頭を抱えていた。
(ど、どうしよう……やっぱり、部屋に戻ったほうがいいよね…?)
ヴィルヘルムが起きる前に起きてこっそり部屋を抜け出して、教わった自室へと戻ろうと、ベッドを抜け出す。ひんやりした空気に触れてふるりと震えた。
(く、暗いよぉ…道、わかんない…どこだろ…)
日が暮れた後も宴が開かれていたり遅くまで灯が消えることのない屋敷にいたレイナードは、全てが寝静まった闇に慣れていない。ましてや、昨日一瞬だけ言われた部屋を覚える間もなくヴィルヘルムに部屋に連れ込まれてしまったのだ。迷ってしまうのも無理のない話だった。
(ここ…どこだろう…)
階段は降りたのだろうか、それとも、この廊下で良いのだろうか。
(どうしよう…わかんない…迷っ……た?)
そう思った瞬間だった。ギシ、と軋む音がして、レイナードは息を呑む。
「ひっ…!」
(殺されちゃう…!)
まさか初日の夜にこんな失態を犯すとは思わず、レイナードは震える手で口元を覆う。すると次の瞬間背後から手が伸びてきて、レイナードの肩を掴まれた。
「た、たすけ…!」
「…レイナード?」
手元の明かりで照らされた大人は、主のクリストファーだった。
「あ、あの……その……」
「こんな夜更けにどうした?眠れないのか?」
レイナードはこくこくと必死に頷いた。その様子を見てクリストファーは微笑む。
「へ、部屋がわからなくて…それで…」
「ああ、なるほど。この屋敷は入り組んでるから、仕方ないさ」
そう言いながらクリストファーはレイナードの手を引いて歩き出す。その大きな手に安心感を覚えながら、レイナードも歩き出した。そしてそのまま部屋にたどり着くと、彼は優しく微笑んで言った。
「さあ、もうおやすみ」
「あ、ありがとうございます……」
レイナードはペコリと頭を下げるとそそくさと部屋に入ったのだった。
(こ……怖かった……)
はぁ…と大きな息を吐く。初日からこんな調子なんて。
(それにしても、クリストファー様こんな夜中まで起きてらっしゃるなんて…)
ふと、エリオスの言葉を思い出す。
『それで付けられたあだ名がヴァンパイアなんだって』
「ひぃ…!」
(まさか、そんな、本当に…?)
一人ベッドに逃げるように籠もる。
(僕、ここで本当に、悪い子として頑張れるのかな…)
不安が胸の中に広がっていく。だが、それでもレイナードは頑張らねばならないのだ。
(寝よう…寝よう…寝るんだ…)
レイナードは気合いを入れるとそのまま目を瞑った。訪れるべき睡魔を願い、その内気絶するように意識を失ったのだった。
エリオスは、レイナードより詳しく色んなことを調べてくれていた。離れ離れになるのはさみしいけれど、こうして二人で一緒に調べ物するのは楽しかった。
『ヴァ、ヴァンパイア!?』
『あの人功績もすごいあるからね。相当殺してるんじゃない?』
『はわわ……』
レイナードは頬に手を当てて青い顔をしている。
(そんなところに行ったら、僕、八つ裂きにされちゃう…)
レイナードの脳内には凶悪な悪魔が長い舌を出して両腕に剣を持っている姿が浮かんだ。
『…エリオスはなんでも知ってるんだね』
『まあね』
得意げに鼻の下を人差し指で擦る仕草をするエリオスにレイナードは尊敬の眼差しを向けていたが、段々その表情が曇りだす。
『…僕じゃなくて、エリオスが代わりに行ったほうが上手く行く気がする』
『馬鹿言わないでよ。僕が行っても揉めるだけだし』
『うぅ…』
『続けるよ?領主のクリストファーの嫡男、ヴィルヘルムについて。ちゃんと覚えて?』
エリオスはそう言って再び説明を始める。
『年齢は僕たちの2つ上。父親譲りの金髪と母親譲りの美貌の美少年と誉れ高いが、剣術も馬術も体術も、全てにおいて秀でている。特に剣の腕前は大人顔負け。性格は冷静沈着で冷徹。人当たりは良いが敵とみなした相手には一切の容赦はない』
レイナードはその説明を聞きながら、頭にまだ見ぬ主とその息子の姿を想像し、震える。
『ひぃ…』
『震えてちゃダメだよ、レイナード。お前はあの家に取り入るために、その可愛い容姿をフル活用して気に入られなきゃいけないんだから』
『か、可愛いって言わないでよぉ……』
エリオスはレイナードの頬をぷにぷにとつつきながら言った。
『まあ、とにかく頑張れよ。僕も陰ながら応援してるからさ』
(うぅ……不安しかないけど頑張るしかないよね……)
そう思っていたのだ。旅立つまで。なのだけど。
(めちゃめちゃ不審がられてるよぉおお)
同衾の時点でレイナードの心は折れていた。初日からレイナードは常にヴィルヘルムの怜悧な目に晒されていて「仲良くなろうとするのが使命」とエリオスは言っていたけれど、どう見てもその逆だ。それこそ、エリオスの家で飼われていた巨大な犬の目を思い出す。唸り声は上げられてないが、それに近いような状況だ。
(ね、寝れるわけないよ…)
レイナードはベッドの中で蹲り、泣きそうになるのを我慢した。部屋の主はレイナードの苦悩をよそにすやすやと寝息を立てている。
「ん……」
そして時折漏らす吐息に起こしてしまわないかレイナードはドキドキしながら目を瞑る。眠れないまま朝を迎えてしまいそうで、レイナードは一人頭を抱えていた。
(ど、どうしよう……やっぱり、部屋に戻ったほうがいいよね…?)
ヴィルヘルムが起きる前に起きてこっそり部屋を抜け出して、教わった自室へと戻ろうと、ベッドを抜け出す。ひんやりした空気に触れてふるりと震えた。
(く、暗いよぉ…道、わかんない…どこだろ…)
日が暮れた後も宴が開かれていたり遅くまで灯が消えることのない屋敷にいたレイナードは、全てが寝静まった闇に慣れていない。ましてや、昨日一瞬だけ言われた部屋を覚える間もなくヴィルヘルムに部屋に連れ込まれてしまったのだ。迷ってしまうのも無理のない話だった。
(ここ…どこだろう…)
階段は降りたのだろうか、それとも、この廊下で良いのだろうか。
(どうしよう…わかんない…迷っ……た?)
そう思った瞬間だった。ギシ、と軋む音がして、レイナードは息を呑む。
「ひっ…!」
(殺されちゃう…!)
まさか初日の夜にこんな失態を犯すとは思わず、レイナードは震える手で口元を覆う。すると次の瞬間背後から手が伸びてきて、レイナードの肩を掴まれた。
「た、たすけ…!」
「…レイナード?」
手元の明かりで照らされた大人は、主のクリストファーだった。
「あ、あの……その……」
「こんな夜更けにどうした?眠れないのか?」
レイナードはこくこくと必死に頷いた。その様子を見てクリストファーは微笑む。
「へ、部屋がわからなくて…それで…」
「ああ、なるほど。この屋敷は入り組んでるから、仕方ないさ」
そう言いながらクリストファーはレイナードの手を引いて歩き出す。その大きな手に安心感を覚えながら、レイナードも歩き出した。そしてそのまま部屋にたどり着くと、彼は優しく微笑んで言った。
「さあ、もうおやすみ」
「あ、ありがとうございます……」
レイナードはペコリと頭を下げるとそそくさと部屋に入ったのだった。
(こ……怖かった……)
はぁ…と大きな息を吐く。初日からこんな調子なんて。
(それにしても、クリストファー様こんな夜中まで起きてらっしゃるなんて…)
ふと、エリオスの言葉を思い出す。
『それで付けられたあだ名がヴァンパイアなんだって』
「ひぃ…!」
(まさか、そんな、本当に…?)
一人ベッドに逃げるように籠もる。
(僕、ここで本当に、悪い子として頑張れるのかな…)
不安が胸の中に広がっていく。だが、それでもレイナードは頑張らねばならないのだ。
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