義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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「う、うぅ……ひどいです……」
 レイナードは半泣きになりながらヴィルヘルムを睨みつける。だが彼は全く反省した様子もなくふんっと鼻で笑っただけだった。そしてそのまま部屋を出ていこうとする。
「あ!ちょっと待ってください!」
 慌てて呼び止めると、ヴィルヘルムは不機嫌そうに振り返った。その顔を見てレイナードはびくりと肩を揺らすが、それでもなんとか言葉を紡いだ。
「お着替え、手伝ってください」
(だってまだボタン外れてるもん……!)
「は?」
「だから、着替えるの手伝ってください!」
 レイナードがそう言うとヴィルヘルムはぽかんとした表情を浮かべた。そしてすぐに顔を赤くする。
「な!なんで僕がそんなこと……!」
「誰のせいですか」
 ジト目でヴィルヘルムを見つめると、諦めたようにため息を吐いた。
「…なんてやつだよ、お前。こんなに可愛いのに、すごい生意気」
「生意気じゃないです。お洋服くしゃくしゃにしたのは、ヴィルヘルムさまです」
「うぐっ……」
 レイナードがそう言うとヴィルヘルムは言葉を詰まらせた。そして渋々といった様子で近づいてくると、そのまま服に手を伸ばしてきた。丁寧に皺を伸ばし、裾を引っ張る。
「………」
「………」
 先程までのドタバタと打って変わって静かだった。レイナードはなんだか落ち着かなくて、ちらりとヴィルヘルムの方を見ると、視線気づかれ至近距離で目が合ってしまった。
「な、なんですか?」
「いや……別に……」
 そう言うと再び視線を逸らしてしまう。そしてそのまま黙々とボタンを止めて大きなリボンを結ぶ。手際の良さと、すぐそばにあるヴィルヘルムの整った顔。
(変なこと言わないで、変なことしなければ、すごくきれいな人なのにな…)
 レイナードはじっとヴィルヘルムの顔を見つめた。すると、視線に気づいたのかまた目が合ってしまう。
「な、なんだよ」
「べ、別に…!なんでもないです!」
「ほら、終わったし」
 フンと鼻を鳴らすと、鏡をみろと促される。自分で結ぶより遥かに可愛らしいリボンに思わず「わぁ!」っと声を上げた。
「…お前、今までこういうのどうやってたんだよ」
「?」
 砂漠が近いのもあり、首元まで詰めた服だと暑いからゆったりしたものばかりを着ていた。
「みんながしてくれました」
「…なんかわかるかも。お前、そう言うのうまそう」
「??」
「いいよ、わかんないだろうし。さっさと降りて朝食を食べよう」
 ごく自然に手を伸ばされて素直に手を取る。まるでエスコートされるお姫様みたいだとレイナードは思う。
「…なんかこう、ほっとけない感じがする」
「むっ!それは僕がしっかりしてないってことですか」
「違うよ、わかんないままでいい」
 階段を降りながらヴィルヘルムは楽しそうに笑う。
「むむっ」
「僕がいないとダメそうだなって思っただけ」
「むー!そんなことないもん!」
 レイナードが頬を膨らませると、ヴィルヘルムはさらにおかしそうに笑った。そしてそのまま2人は仲良く手を繋いでダイニングへと降りていったのだった。
***
「父上、おはようございます」
「おはよう、ヴィル。おや?今日はずいぶんご機嫌だね」
朝食の席にはすでにクリストファーがいて、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるところだった。その隣にはメイド長が立っている。
「そんなことないですよ?」
「そうか?いつもはもっとぶすくれた顔をしていると思うが」
「してません、いつもと一緒です」
 ヴィルヘルムはむすっとしながら席につく。するとすぐにメイドが朝食を運んできた。焼き立てのパンとスクランブルエッグ、野菜たっぷりのコンソメスープだ。バターの香りが食欲を誘う。ごくごくと牛乳を飲むレイナードの姿に小動物の愛らしさを彷彿とさせられ、正面のクリストファーは柔らかく微笑んだ。
「レイナード、ゆっくり食べていいからね」
「はい、ありがとうございます」
「ヴィル、今日は予定があるか?」
「いえ……特には……」
「なら一緒に街へ行かないかい?新しい本が入ったんだ」
(街!?行ってみたいかも…!)
「あ!僕も行きたいです」と手を挙げると、ヴィルヘルムがじろりとこちらを睨む。だがすぐに諦めたようにため息を吐いた。
「……わかりました。準備します」
「ああ。では、私は先に馬車を手配しているから、準備が終わったら降りておいで」
「はい」
 それだけ言うと、クリストファーはダイニングを出ていってしまった。残されたレイナードはヴィルヘルムの方を見る。彼は既に食事を終えており、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいるところだった。
「…ヴィルヘルムさまも新聞読むんですか?」
「まぁ……たまにだけど」
「どんなのを読むんです?僕あんまり字が読めなくて……」
「お前まだ読めないのかよ……仕方ないな」
 呆れたように言ったが、はっと思った。
「…文字、違うんだっけ」
「はい、そうです」
んっ!と頷かれ、ヴィルヘルムは改めてレイナードが異国から来たことを思い出された。
「普通に会話してるから、忘れてた」
「ふふん、僕、賢いですから!」
「と言うかなんであんなに悪口知ってるんだよ」
「『まずは舐められないように!』と教わりました!」
「…お前の家の教育方針、絶対間違ってるよ」
 ヴィルヘルムは呆れながら新聞を閉じた。
「まあいいや。教えてあげる。どうせすることもないし」
「?ヴィルヘルムさま、お暇なのですか?」
「素直にありがとうって言うんだよこういう時は!」
「ふふふっ」
 ふくふく笑って足をゆらゆらさせていると、怒る気も失せたのかヴィルヘルムはまた大きな息を吐いた。
「ほら、お前もにこにこしてないで早く食べろ。終わったら街に行くんだ、支度をしないと」
「はーい」
(怖かったけど、今は怖くない!かも)
 びくびく震えていたが、さっきのケンカで大分ヴィルヘルムに対する恐怖心は薄らいでいた。ダイニングルームを後にして絨毯に敷き詰められた廊下を歩き、そう言えばとクリストファーの噂を思い出した。
「…ねぇねぇ、ヴィルヘルムさま」
「なんだよ」
 少し先を歩くヴィルヘルムの肩に手を置いて背伸びをし、内緒話をするように声を潜める。
「クリストファーさまって、お日さまが出てる時に外に出ても大丈夫なんですか?」
「はぁあああ?」
 ヴィルヘルムの上げた声でバサバサと鳥が羽ばたき、外にいたクリストファーは一つだけくしゃみをしたのだった。
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