義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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「……はぁ」
 ヴィルヘルムは自室に戻り、ベッドに腰掛けてため息をついた。そしてそのまま頭を抱える。
(僕は……何をしてるんだ……?)
 男だと分かっていたのに。それなのにどうしてあんなことをしてしまったのか自分でも分からない。ただ。
『さ、触っても、いいです…から…その……無理やりとか、そ、そんな怖い目で見ないで……』
「…っ!!」
 暗闇に仄かな月の光に照らされたレイナードの瞳が、潤んでこちらを上目遣いで見つめてきた瞬間、得体の知れない衝動が湧き上がっていたことに気づく。
「くそっ……なんだこれ……」
 ヴィルヘルムは苛立ったようにベッドに横になり毛布を被ったのだった。
***
 翌朝。
(あれって…なんだったんだろう…)
 レイナードは目をしぱしぱさせながら、昨夜のことを思い返していた。寝てる間に押し倒されて、服の上、それから中からも、身体を触られて……
「はっ…!」
 (これってお父さまにお伝えしたら「けしからん!」って僕を国に帰してもらえるとか…!)
 淡い期待を一瞬抱いたが、すぐに打ち消す。
(うぅ…ダメだ…スキンシップって言われたらソコまでな気もする…)
 何ならお父さま「よしもっとやれ」とか言い出しかねない。
(エリオスに相談したら『そういう文化なんじゃない?』で終わりそう…)
 ふと「僕って味方いないんじゃ…」と言うことに気づきレイナードは少し落ち込む。それもこれも全部、ヴィルヘルムのせいだ。いきなり初日は部屋に連れ込むし、昨日は勝手に部屋に乗り込んでくるし、それに…
『もう少しだったのに…』
 近づいてくる、冷ややかできれいな顔。そして、物欲しそうな切ない表情。あれを思い出すだけでレイナードは頭が沸騰したようになってしまう。
「うぅ……」
 このままでは身が持たないと思ったレイナードはとりあえず朝食を食べようと起き上がってベッドから足を出す。
「おい」
「わわっ!!」
 いきなり声をかけられ、レイナードは飛び上がる。いつの間にかヴィルヘルムが部屋の扉の前に立っていたからだ。昨日と同様、身だしなみも完璧である。
「な、な、な…!」
「…遅いから迎えに来た。父上に言われた」
 ぶっきらぼうにそう言うが、目線は泳いでるし、足元も落ち着かないようだ。
「起きてたならいい。さっさと着替えろ」
「は、はい……」
(やっぱり、昨日も今も……)
 レイナードがじっとヴィルヘルムを見つめていると、彼は居心地悪そうに目を逸らした。だけど、後ろ手で扉を閉めてはくれるが部屋から出ていく様子もない。
(むっ…!)
 レイナードはだんだんとムカムカしてきた。自分の置かれた環境にも、ヴィルヘルムの不可解な行動にも、何より、昨日のことが頭から離れないで変に意識している自分にも。
 なので少し、イタズラをしてみようと思った。美しい母親が思わせぶりな態度で、父親をはじめ様々な人間を翻弄させていたように。
「…ヴィルヘルムさま」
「な、なんだよ」
「僕、着替えたいんです。見られてると、恥ずかしいんです」
(もしかしてこの人…)
「…それとも、見たいんですか?」
 す、っと寝巻きに手をかけると、金髪の令息は「うっ…」と変な声を上げる。
(やっぱりそうだ!)
 内心、レイナードは勝利の笑顔を浮かべていた。
(この人まだ!僕のこと疑ってるんだ!!)
 ただその結論は、幼い少年には理解できない欲望に結びついてるとは知らず、レイナードは床に降りると裸足でヴィルヘルムに近づく。
「お、おい…」
(ふふーん、僕もう分かっちゃったもんね!)
 昨夜の仕返しとばかり、扉に背をつけさせるようにヴィルヘルムに近づく。そして上目遣いで見つめると、ヴィルヘルムは「ううっ……」と声を上げ顔を赤くした。
「……服、ちゃんと着ろよ」
「どうしてですか?僕、男ですよ?」
「知ってるよそんなこと……いいから服を着ろ!」
(あ!逃げようとしてる!)
 ヴィルヘルムは慌てて顔を背けようとする。むっとしたレイナードは更にずいっと顔を近づけると、こう囁いた。
「ヴィルヘルムさまの、えっち」
 かつて幼いころ、女湯で湯浴びをしていた時に紛れて来た男性に向けて母親が囁いていたのを真似てみる。
「な、な、な…!」
「だってそうですよね?昨・夜・も!僕の体、見てたじゃないですか」
「っ!!」
(あ、赤くなった!)
 レイナードは心の中でほくそ笑んだ。だがすぐにヴィルヘルムが反撃してくる。
「…う、うるさい!お前こそ、なんだよその格好は」
「え?」
 言われて自分の姿を見る。するとそこには寝巻きのボタンが外れて前が全て開いた状態になっている自分の姿があった。
「……っ!」
(しまった……!)
 慌ててボタンを留めようとするが、真っ赤なヴィルヘルムの様子を見て、むっとする。
「…やっぱり見てる」
「お前が!そんな格好してるから…!」
「えっち、すけべ、へんたい」
「ぼ、僕に対して、お前、お前っ…!」
「だってヴィルヘルムさま僕のからだ見たいんでしょ?しかも僕寝てるときに。いやらしいです」
「な、なんだよそれ!」
 レイナードはふふん!と胸を張った。そしてそのままヴィルヘルムに抱きつくように飛びついた。
「うわっ!」
(勝った……!)
 そう思ったのもつかの間、次の瞬間には視界が反転していた。目の前にはヴィルヘルムの顔があり、自分がベッドに戻されて彼に押し倒されている。
「ふ、ふざけるなよ!ちょっと…顔が可愛いからって、いい気になんなよ!」
「いい気になってなんかないもん!ヴィルヘルム様がえっちなのが悪いもん!」
「お、お前が、お前がこんな可愛いから悪いんだ!」
「か、可愛い可愛い言わないで!僕男の子だもん!」
「もん!とか言うな!頭おかしくなる!なんだってこんな…!」
「えっちー!ヴィルヘルムさまのえっちー!」
「うるさい!お前なんか、お前なんか…っ!!」
「きゃー!!くすぐり反対!やだやだやだー!!」
 2階の子ども部屋から聞こえてくる声を聞きながら、クリストファーは濃い目のコーヒーを飲むと、ソーサーにカップを置いた。その表情は穏やかなものだ。
「ご主人様、良いのですか?止めにいかなくても」
 メイド長がカップに注ぎながらそう問いかけると「構わないよ」と笑う。
「ヴィルがあんなに大声を出しているのを聞くのは久しぶりだ。王から言われてどうなることかと思ったが、同じくらいの歳の子と過ごすことで、良い刺激になればいい」
「左様でございますか……」
 メイド長はそう言うと、優雅な動作でポットを持ち上げる。
「……ヴィルも、よほどあの子供を気に入っているようだ。兄ぶりたいんだろうな」
 くっくっと嬉しそうに笑うクリストファーにメイド長は「左様でございますか……」と再び呟いた。
(ただ、聞こえてくる内容が……)
「やだぁ…!もう許してぇ…!」
「僕を怒らせた罰だ!泣け!もっと泣け!」
(…大丈夫でしょうか、坊ちゃま…)
 あの愛らしい異国の少年に骨抜きにされ性癖が歪んでしまわないか、メイド長マリアンはそれだけが気がかりだった。
***
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