8 / 45
7
しおりを挟む
「う、うぅ……ひどいです……」
レイナードは半泣きになりながらヴィルヘルムを睨みつける。だが彼は全く反省した様子もなくふんっと鼻で笑っただけだった。そしてそのまま部屋を出ていこうとする。
「あ!ちょっと待ってください!」
慌てて呼び止めると、ヴィルヘルムは不機嫌そうに振り返った。その顔を見てレイナードはびくりと肩を揺らすが、それでもなんとか言葉を紡いだ。
「お着替え、手伝ってください」
(だってまだボタン外れてるもん……!)
「は?」
「だから、着替えるの手伝ってください!」
レイナードがそう言うとヴィルヘルムはぽかんとした表情を浮かべた。そしてすぐに顔を赤くする。
「な!なんで僕がそんなこと……!」
「誰のせいですか」
ジト目でヴィルヘルムを見つめると、諦めたようにため息を吐いた。
「…なんてやつだよ、お前。こんなに可愛いのに、すごい生意気」
「生意気じゃないです。お洋服くしゃくしゃにしたのは、ヴィルヘルムさまです」
「うぐっ……」
レイナードがそう言うとヴィルヘルムは言葉を詰まらせた。そして渋々といった様子で近づいてくると、そのまま服に手を伸ばしてきた。丁寧に皺を伸ばし、裾を引っ張る。
「………」
「………」
先程までのドタバタと打って変わって静かだった。レイナードはなんだか落ち着かなくて、ちらりとヴィルヘルムの方を見ると、視線気づかれ至近距離で目が合ってしまった。
「な、なんですか?」
「いや……別に……」
そう言うと再び視線を逸らしてしまう。そしてそのまま黙々とボタンを止めて大きなリボンを結ぶ。手際の良さと、すぐそばにあるヴィルヘルムの整った顔。
(変なこと言わないで、変なことしなければ、すごくきれいな人なのにな…)
レイナードはじっとヴィルヘルムの顔を見つめた。すると、視線に気づいたのかまた目が合ってしまう。
「な、なんだよ」
「べ、別に…!なんでもないです!」
「ほら、終わったし」
フンと鼻を鳴らすと、鏡をみろと促される。自分で結ぶより遥かに可愛らしいリボンに思わず「わぁ!」っと声を上げた。
「…お前、今までこういうのどうやってたんだよ」
「?」
砂漠が近いのもあり、首元まで詰めた服だと暑いからゆったりしたものばかりを着ていた。
「みんながしてくれました」
「…なんかわかるかも。お前、そう言うのうまそう」
「??」
「いいよ、わかんないだろうし。さっさと降りて朝食を食べよう」
ごく自然に手を伸ばされて素直に手を取る。まるでエスコートされるお姫様みたいだとレイナードは思う。
「…なんかこう、ほっとけない感じがする」
「むっ!それは僕がしっかりしてないってことですか」
「違うよ、わかんないままでいい」
階段を降りながらヴィルヘルムは楽しそうに笑う。
「むむっ」
「僕がいないとダメそうだなって思っただけ」
「むー!そんなことないもん!」
レイナードが頬を膨らませると、ヴィルヘルムはさらにおかしそうに笑った。そしてそのまま2人は仲良く手を繋いでダイニングへと降りていったのだった。
***
「父上、おはようございます」
「おはよう、ヴィル。おや?今日はずいぶんご機嫌だね」
朝食の席にはすでにクリストファーがいて、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるところだった。その隣にはメイド長が立っている。
「そんなことないですよ?」
「そうか?いつもはもっとぶすくれた顔をしていると思うが」
「してません、いつもと一緒です」
ヴィルヘルムはむすっとしながら席につく。するとすぐにメイドが朝食を運んできた。焼き立てのパンとスクランブルエッグ、野菜たっぷりのコンソメスープだ。バターの香りが食欲を誘う。ごくごくと牛乳を飲むレイナードの姿に小動物の愛らしさを彷彿とさせられ、正面のクリストファーは柔らかく微笑んだ。
「レイナード、ゆっくり食べていいからね」
「はい、ありがとうございます」
「ヴィル、今日は予定があるか?」
「いえ……特には……」
「なら一緒に街へ行かないかい?新しい本が入ったんだ」
(街!?行ってみたいかも…!)
「あ!僕も行きたいです」と手を挙げると、ヴィルヘルムがじろりとこちらを睨む。だがすぐに諦めたようにため息を吐いた。
「……わかりました。準備します」
「ああ。では、私は先に馬車を手配しているから、準備が終わったら降りておいで」
「はい」
それだけ言うと、クリストファーはダイニングを出ていってしまった。残されたレイナードはヴィルヘルムの方を見る。彼は既に食事を終えており、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいるところだった。
「…ヴィルヘルムさまも新聞読むんですか?」
「まぁ……たまにだけど」
「どんなのを読むんです?僕あんまり字が読めなくて……」
「お前まだ読めないのかよ……仕方ないな」
呆れたように言ったが、はっと思った。
「…文字、違うんだっけ」
「はい、そうです」
んっ!と頷かれ、ヴィルヘルムは改めてレイナードが異国から来たことを思い出された。
「普通に会話してるから、忘れてた」
「ふふん、僕、賢いですから!」
「と言うかなんであんなに悪口知ってるんだよ」
「『まずは舐められないように!』と教わりました!」
「…お前の家の教育方針、絶対間違ってるよ」
ヴィルヘルムは呆れながら新聞を閉じた。
「まあいいや。教えてあげる。どうせすることもないし」
「?ヴィルヘルムさま、お暇なのですか?」
「素直にありがとうって言うんだよこういう時は!」
「ふふふっ」
ふくふく笑って足をゆらゆらさせていると、怒る気も失せたのかヴィルヘルムはまた大きな息を吐いた。
「ほら、お前もにこにこしてないで早く食べろ。終わったら街に行くんだ、支度をしないと」
「はーい」
(怖かったけど、今は怖くない!かも)
びくびく震えていたが、さっきのケンカで大分ヴィルヘルムに対する恐怖心は薄らいでいた。ダイニングルームを後にして絨毯に敷き詰められた廊下を歩き、そう言えばとクリストファーの噂を思い出した。
「…ねぇねぇ、ヴィルヘルムさま」
「なんだよ」
少し先を歩くヴィルヘルムの肩に手を置いて背伸びをし、内緒話をするように声を潜める。
「クリストファーさまって、お日さまが出てる時に外に出ても大丈夫なんですか?」
「はぁあああ?」
ヴィルヘルムの上げた声でバサバサと鳥が羽ばたき、外にいたクリストファーは一つだけくしゃみをしたのだった。
レイナードは半泣きになりながらヴィルヘルムを睨みつける。だが彼は全く反省した様子もなくふんっと鼻で笑っただけだった。そしてそのまま部屋を出ていこうとする。
「あ!ちょっと待ってください!」
慌てて呼び止めると、ヴィルヘルムは不機嫌そうに振り返った。その顔を見てレイナードはびくりと肩を揺らすが、それでもなんとか言葉を紡いだ。
「お着替え、手伝ってください」
(だってまだボタン外れてるもん……!)
「は?」
「だから、着替えるの手伝ってください!」
レイナードがそう言うとヴィルヘルムはぽかんとした表情を浮かべた。そしてすぐに顔を赤くする。
「な!なんで僕がそんなこと……!」
「誰のせいですか」
ジト目でヴィルヘルムを見つめると、諦めたようにため息を吐いた。
「…なんてやつだよ、お前。こんなに可愛いのに、すごい生意気」
「生意気じゃないです。お洋服くしゃくしゃにしたのは、ヴィルヘルムさまです」
「うぐっ……」
レイナードがそう言うとヴィルヘルムは言葉を詰まらせた。そして渋々といった様子で近づいてくると、そのまま服に手を伸ばしてきた。丁寧に皺を伸ばし、裾を引っ張る。
「………」
「………」
先程までのドタバタと打って変わって静かだった。レイナードはなんだか落ち着かなくて、ちらりとヴィルヘルムの方を見ると、視線気づかれ至近距離で目が合ってしまった。
「な、なんですか?」
「いや……別に……」
そう言うと再び視線を逸らしてしまう。そしてそのまま黙々とボタンを止めて大きなリボンを結ぶ。手際の良さと、すぐそばにあるヴィルヘルムの整った顔。
(変なこと言わないで、変なことしなければ、すごくきれいな人なのにな…)
レイナードはじっとヴィルヘルムの顔を見つめた。すると、視線に気づいたのかまた目が合ってしまう。
「な、なんだよ」
「べ、別に…!なんでもないです!」
「ほら、終わったし」
フンと鼻を鳴らすと、鏡をみろと促される。自分で結ぶより遥かに可愛らしいリボンに思わず「わぁ!」っと声を上げた。
「…お前、今までこういうのどうやってたんだよ」
「?」
砂漠が近いのもあり、首元まで詰めた服だと暑いからゆったりしたものばかりを着ていた。
「みんながしてくれました」
「…なんかわかるかも。お前、そう言うのうまそう」
「??」
「いいよ、わかんないだろうし。さっさと降りて朝食を食べよう」
ごく自然に手を伸ばされて素直に手を取る。まるでエスコートされるお姫様みたいだとレイナードは思う。
「…なんかこう、ほっとけない感じがする」
「むっ!それは僕がしっかりしてないってことですか」
「違うよ、わかんないままでいい」
階段を降りながらヴィルヘルムは楽しそうに笑う。
「むむっ」
「僕がいないとダメそうだなって思っただけ」
「むー!そんなことないもん!」
レイナードが頬を膨らませると、ヴィルヘルムはさらにおかしそうに笑った。そしてそのまま2人は仲良く手を繋いでダイニングへと降りていったのだった。
***
「父上、おはようございます」
「おはよう、ヴィル。おや?今日はずいぶんご機嫌だね」
朝食の席にはすでにクリストファーがいて、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるところだった。その隣にはメイド長が立っている。
「そんなことないですよ?」
「そうか?いつもはもっとぶすくれた顔をしていると思うが」
「してません、いつもと一緒です」
ヴィルヘルムはむすっとしながら席につく。するとすぐにメイドが朝食を運んできた。焼き立てのパンとスクランブルエッグ、野菜たっぷりのコンソメスープだ。バターの香りが食欲を誘う。ごくごくと牛乳を飲むレイナードの姿に小動物の愛らしさを彷彿とさせられ、正面のクリストファーは柔らかく微笑んだ。
「レイナード、ゆっくり食べていいからね」
「はい、ありがとうございます」
「ヴィル、今日は予定があるか?」
「いえ……特には……」
「なら一緒に街へ行かないかい?新しい本が入ったんだ」
(街!?行ってみたいかも…!)
「あ!僕も行きたいです」と手を挙げると、ヴィルヘルムがじろりとこちらを睨む。だがすぐに諦めたようにため息を吐いた。
「……わかりました。準備します」
「ああ。では、私は先に馬車を手配しているから、準備が終わったら降りておいで」
「はい」
それだけ言うと、クリストファーはダイニングを出ていってしまった。残されたレイナードはヴィルヘルムの方を見る。彼は既に食事を終えており、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいるところだった。
「…ヴィルヘルムさまも新聞読むんですか?」
「まぁ……たまにだけど」
「どんなのを読むんです?僕あんまり字が読めなくて……」
「お前まだ読めないのかよ……仕方ないな」
呆れたように言ったが、はっと思った。
「…文字、違うんだっけ」
「はい、そうです」
んっ!と頷かれ、ヴィルヘルムは改めてレイナードが異国から来たことを思い出された。
「普通に会話してるから、忘れてた」
「ふふん、僕、賢いですから!」
「と言うかなんであんなに悪口知ってるんだよ」
「『まずは舐められないように!』と教わりました!」
「…お前の家の教育方針、絶対間違ってるよ」
ヴィルヘルムは呆れながら新聞を閉じた。
「まあいいや。教えてあげる。どうせすることもないし」
「?ヴィルヘルムさま、お暇なのですか?」
「素直にありがとうって言うんだよこういう時は!」
「ふふふっ」
ふくふく笑って足をゆらゆらさせていると、怒る気も失せたのかヴィルヘルムはまた大きな息を吐いた。
「ほら、お前もにこにこしてないで早く食べろ。終わったら街に行くんだ、支度をしないと」
「はーい」
(怖かったけど、今は怖くない!かも)
びくびく震えていたが、さっきのケンカで大分ヴィルヘルムに対する恐怖心は薄らいでいた。ダイニングルームを後にして絨毯に敷き詰められた廊下を歩き、そう言えばとクリストファーの噂を思い出した。
「…ねぇねぇ、ヴィルヘルムさま」
「なんだよ」
少し先を歩くヴィルヘルムの肩に手を置いて背伸びをし、内緒話をするように声を潜める。
「クリストファーさまって、お日さまが出てる時に外に出ても大丈夫なんですか?」
「はぁあああ?」
ヴィルヘルムの上げた声でバサバサと鳥が羽ばたき、外にいたクリストファーは一つだけくしゃみをしたのだった。
541
あなたにおすすめの小説
BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた
さ
BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。
断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。
ーーそれなのに。
婚約者に婚約は破棄され、
気づけば断罪寸前の立場に。
しかも理由もわからないまま、
何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。
※最終的にハッピーエンド
※愛され悪役令息
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話
天宮叶
BL
腹違いの弟のフィーロが伯爵家へと引き取られた日、伯爵家長男であるゼンはフィーロを一目見て自身の転生した世界が前世でドハマりしていた小説の世界だと気がついた。
しかもフィーロは悪役令息として主人公たちに立ちはだかる悪役キャラ。
ゼンは可愛くて不憫な弟を悪役ルートから回避させて溺愛すると誓い、まずはじめに主人公──シャノンの恋のお相手であるルーカスと関わらせないようにしようと奮闘する。
しかし両親がルーカスとフィーロの婚約話を勝手に決めてきた。しかもフィーロはベータだというのにオメガだと偽って婚約させられそうになる。
ゼンはその婚約を阻止するべく、伯爵家の使用人として働いているシャノンを物語よりも早くルーカスと会わせようと試みる。
しかしなぜか、ルーカスがゼンを婚約の相手に指名してきて!?
弟loveな表向きはクール受けが、王子系攻めになぜか溺愛されちゃう、ドタバタほのぼのオメガバースBLです
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる