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ヴィルヘルムは寝室に着くとクローゼットからいくつかの服を取り出し始めた。
「…とりあえず、僕のお下がりでいいか」
「え」
「そんな薄着じゃ寒いだろ?ほら、これとか…あ!これもいいな!」
「え、ちょ、ちょっと……」
次々と服を手渡され、レイナードは目を白黒させる。そして最終的に渡されたのは可愛らしいフリルのついたブラウスとショートパンツだった。
「こ、こんな可愛いの、着たことないです」
「いいから着てみろって」
「は、恥ずかしいです!」
「なんでだよ。お前男だろ?覚悟を決めろよ」
「そ、そうですけどぉ……」
レイナードがもじもじしていると、ヴィルヘルムに無理やり服を脱がされそうになるので仕方なく袖を通すことにした。
「ん。やっぱり僕の見立て通りだ」
膨らんだ袖のボタンを付けながら、ヴィルヘルムは満足そうに微笑む。意地悪さは感じられない、穏やかな笑顔だ。
「すごくよく似合ってる。可愛い」
「か、かわいい……?」
レイナードが首を傾げながら尋ねると、ヴィルヘルムは少しだけ頬を赤らめた。それから照れ隠しのように咳払いをして立ち上がる。
「さ、行こう。父上がお待たせする」
「あ、は、はい!」
2人はそのまま部屋を飛び出していった。ヴィルヘルムはレイナードの手を引いて玄関ホールに降りると、立派な馬車が待っていた。その傍らにクリストファーが立っている。彼はこちらに気がつくと微笑んだ。
「うん!2人ともすごく似合ってるよ。レイナードも素敵だよ」
「ありがとうございます…ちょっと恥ずかしいです……」
「そんなことないよ、似合ってる」
もじもじしていると、頭をぽんっと撫でられた。
「僕が選んだんだ。よく似合ってるでしょう?父上」
「そうだね。ヴィルはセンスがあるね。じゃあ行こうか」
「はい」
手を引かれ、馬車へと向かう。
「なんだかワクワクします!知らないものを知るのって、楽しいです!」
「そう。それなら、僕も、もっと知りたい」
レイナードはこてんと小首を傾げる。
「お、お前の!国のこととか…その…」
「?はい、いっぱい教えてあげます!」
「そ、そうじゃなくて……」
ヴィルヘルムは軽く顔を逸らし、小さく息を吐く。
「僕が、色々教えてやるんだから、その分お前も僕に教えろよ?その、何が好きだとか」
「?よくわかんないですけど、いいですよ?」
ヴィルヘルムは満足したように微笑むと馬車の中へと乗り込んだ。それに続くようにレイナードも乗る。そして扉が閉まると同時にゆっくりと馬車が動き出したのだった。
***
「わあぁ!すごいです!人がたくさん!」
馬車から降りるとレイナードは目を輝かせて辺りを見回す。
「レイナードは街に来るのは初めてかい?」
「はい!いつもおうちで本を読んでました」
「そうか、じゃあ色々案内してあげよう」
クリストファーは優しく微笑みながら手を差し出す。その手を取りながらレイナードは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます!」
「……っ」
(可愛い……)
思わず口にしそうになったが、空を仰いでクリストファーはなんとか堪えた。ぐっと堪えた。その後ろを少し遅れてヴィルヘルムが続く。どこか不満そうにしている。
「?ヴィルヘルムさま?」
目ざとく気づいたレイナードはクリストファーを見あげて足を止める。微かな感情にも敏感な子どもに感心しつつ、クリストファーも振り返る。
「……父上、ずるい」
「ああ、すまないね。レイがあまりにも可愛いものだから」
「む……」
ヴィルヘルムは不満そうにしながらもレイナードの手を引いて歩き出す。その様子をクリストファーは微笑ましく見ていた。
***
それから3人は様々な店を見て回ったり、カフェで休憩をしたりと楽しい時間を過ごした。そして夕方になり馬車へと戻ってきた頃にはすっかり日も暮れてきていた。
「今日は楽しかったよ、またこうして3人で出かけよう」
「はい!ありがとうございます!」
元気よく答えるレイナードの頭には、もこもこのフードを被らさせられていた。
「それにしても、ヴィルのセンスは本当に素晴らしいな…よく似合っている」
「ふふん、そうでしょう?」
しゃがみ込んで目線を合わせながら感嘆するクリストファーに対し、得意げにヴィルヘルムは鼻を鳴らす。
「?」
狐耳のフードはオリエンタルな雰囲気もあるレイナードにこれ以上なく似合っていた。
「ぜっったい似合うと思いましたので!」
「なるほど。自分の本を買うお金を節約してでも買ってあげるなんて、ヴィルも大人になったね」
「ち、父上!そんなこと、言う必要ないです!」
「?ヴィルさま、僕にお洋服買ってくれたの?」
「そ、それは……その……」
レイナードはきょとんとした表情で首を傾げる。そしてそのままヴィルヘルムの手を取るとぎゅっと握った。
「……っ!」
「ありがとうございます!すごく嬉しいです」
お礼にと、母国の挨拶である口元の横に軽くちゅ、ちゅ♡と唇を当てる。感謝と友愛を表す挨拶だ。
「!!」
(か、可愛い……)
思わず抱きしめそうになる衝動を堪えて、ヴィルヘルムは顔を背けた。だが耳まで真っ赤になっているためバレバレである。その様子をクリストファーは微笑ましげに見ていたが、ふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、レイにもお小遣いをあげないとだね。今まではきっと買い物とかもしたことないだろう?働いて、対価にお金を貰って、街に来た時に買い物をする。そう言うことも学んでいったほうがいい」
「?はい」
「少し難しいかな。またゆっくり話そう。さ、帰ろうか」
「はい!」
3人は馬車に乗り込み帰路につくのだった。
(楽しかった…お屋敷の人たちはまだちょっと怖いけど、2人ともいい人でよかった…)
ゆらゆら揺られながらレイナードはうつらうつらし始める。その肩に外套がかけられ、温かさの中ですやすや眠りに落ちていた。
だが、穏やか過ぎるほど平和な日々はそう続かなかった。
***
「久しぶりだね、レイ」
ぺたんと道路にへたり込んだレイナードは、馴染みのある声に顔をあげた。
「……エリオス?」
栗色の髪と目を持った、大好きな幼馴染はどこか冷ややかな目でレイナードを見下ろしていた。
「…とりあえず、僕のお下がりでいいか」
「え」
「そんな薄着じゃ寒いだろ?ほら、これとか…あ!これもいいな!」
「え、ちょ、ちょっと……」
次々と服を手渡され、レイナードは目を白黒させる。そして最終的に渡されたのは可愛らしいフリルのついたブラウスとショートパンツだった。
「こ、こんな可愛いの、着たことないです」
「いいから着てみろって」
「は、恥ずかしいです!」
「なんでだよ。お前男だろ?覚悟を決めろよ」
「そ、そうですけどぉ……」
レイナードがもじもじしていると、ヴィルヘルムに無理やり服を脱がされそうになるので仕方なく袖を通すことにした。
「ん。やっぱり僕の見立て通りだ」
膨らんだ袖のボタンを付けながら、ヴィルヘルムは満足そうに微笑む。意地悪さは感じられない、穏やかな笑顔だ。
「すごくよく似合ってる。可愛い」
「か、かわいい……?」
レイナードが首を傾げながら尋ねると、ヴィルヘルムは少しだけ頬を赤らめた。それから照れ隠しのように咳払いをして立ち上がる。
「さ、行こう。父上がお待たせする」
「あ、は、はい!」
2人はそのまま部屋を飛び出していった。ヴィルヘルムはレイナードの手を引いて玄関ホールに降りると、立派な馬車が待っていた。その傍らにクリストファーが立っている。彼はこちらに気がつくと微笑んだ。
「うん!2人ともすごく似合ってるよ。レイナードも素敵だよ」
「ありがとうございます…ちょっと恥ずかしいです……」
「そんなことないよ、似合ってる」
もじもじしていると、頭をぽんっと撫でられた。
「僕が選んだんだ。よく似合ってるでしょう?父上」
「そうだね。ヴィルはセンスがあるね。じゃあ行こうか」
「はい」
手を引かれ、馬車へと向かう。
「なんだかワクワクします!知らないものを知るのって、楽しいです!」
「そう。それなら、僕も、もっと知りたい」
レイナードはこてんと小首を傾げる。
「お、お前の!国のこととか…その…」
「?はい、いっぱい教えてあげます!」
「そ、そうじゃなくて……」
ヴィルヘルムは軽く顔を逸らし、小さく息を吐く。
「僕が、色々教えてやるんだから、その分お前も僕に教えろよ?その、何が好きだとか」
「?よくわかんないですけど、いいですよ?」
ヴィルヘルムは満足したように微笑むと馬車の中へと乗り込んだ。それに続くようにレイナードも乗る。そして扉が閉まると同時にゆっくりと馬車が動き出したのだった。
***
「わあぁ!すごいです!人がたくさん!」
馬車から降りるとレイナードは目を輝かせて辺りを見回す。
「レイナードは街に来るのは初めてかい?」
「はい!いつもおうちで本を読んでました」
「そうか、じゃあ色々案内してあげよう」
クリストファーは優しく微笑みながら手を差し出す。その手を取りながらレイナードは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます!」
「……っ」
(可愛い……)
思わず口にしそうになったが、空を仰いでクリストファーはなんとか堪えた。ぐっと堪えた。その後ろを少し遅れてヴィルヘルムが続く。どこか不満そうにしている。
「?ヴィルヘルムさま?」
目ざとく気づいたレイナードはクリストファーを見あげて足を止める。微かな感情にも敏感な子どもに感心しつつ、クリストファーも振り返る。
「……父上、ずるい」
「ああ、すまないね。レイがあまりにも可愛いものだから」
「む……」
ヴィルヘルムは不満そうにしながらもレイナードの手を引いて歩き出す。その様子をクリストファーは微笑ましく見ていた。
***
それから3人は様々な店を見て回ったり、カフェで休憩をしたりと楽しい時間を過ごした。そして夕方になり馬車へと戻ってきた頃にはすっかり日も暮れてきていた。
「今日は楽しかったよ、またこうして3人で出かけよう」
「はい!ありがとうございます!」
元気よく答えるレイナードの頭には、もこもこのフードを被らさせられていた。
「それにしても、ヴィルのセンスは本当に素晴らしいな…よく似合っている」
「ふふん、そうでしょう?」
しゃがみ込んで目線を合わせながら感嘆するクリストファーに対し、得意げにヴィルヘルムは鼻を鳴らす。
「?」
狐耳のフードはオリエンタルな雰囲気もあるレイナードにこれ以上なく似合っていた。
「ぜっったい似合うと思いましたので!」
「なるほど。自分の本を買うお金を節約してでも買ってあげるなんて、ヴィルも大人になったね」
「ち、父上!そんなこと、言う必要ないです!」
「?ヴィルさま、僕にお洋服買ってくれたの?」
「そ、それは……その……」
レイナードはきょとんとした表情で首を傾げる。そしてそのままヴィルヘルムの手を取るとぎゅっと握った。
「……っ!」
「ありがとうございます!すごく嬉しいです」
お礼にと、母国の挨拶である口元の横に軽くちゅ、ちゅ♡と唇を当てる。感謝と友愛を表す挨拶だ。
「!!」
(か、可愛い……)
思わず抱きしめそうになる衝動を堪えて、ヴィルヘルムは顔を背けた。だが耳まで真っ赤になっているためバレバレである。その様子をクリストファーは微笑ましげに見ていたが、ふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、レイにもお小遣いをあげないとだね。今まではきっと買い物とかもしたことないだろう?働いて、対価にお金を貰って、街に来た時に買い物をする。そう言うことも学んでいったほうがいい」
「?はい」
「少し難しいかな。またゆっくり話そう。さ、帰ろうか」
「はい!」
3人は馬車に乗り込み帰路につくのだった。
(楽しかった…お屋敷の人たちはまだちょっと怖いけど、2人ともいい人でよかった…)
ゆらゆら揺られながらレイナードはうつらうつらし始める。その肩に外套がかけられ、温かさの中ですやすや眠りに落ちていた。
だが、穏やか過ぎるほど平和な日々はそう続かなかった。
***
「久しぶりだね、レイ」
ぺたんと道路にへたり込んだレイナードは、馴染みのある声に顔をあげた。
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