義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

文字の大きさ
12 / 45

11

しおりを挟む
 レイナードは父親たちの期待通りに、うまくアドラー家に取り入ることが出来た。計算高くなく、素直で、愛らしく振る舞う異国の少年に、気難しいと言われていた貴族はすっかり陥落していた。
 だがそれも限界だった。アドラー家での生活に順応しているようで、レイナードは孤独だった。与えられた優しさを踏みにじるほど、レイナードは強かではなかった。
 そして限界が訪れた時、レイナードは部屋を飛び出て、隣室へと駆け込んだ。ヴィルヘルム何も聞かずにベッドに迎い入れてくれて、気がついたら眠っていた。
「あさ…?」
 むにゃむにゃと目を擦りながら暖かい腕からそっと抜け出す。
「ヴィルヘルムさま……」
 レイナードは、すやすやと眠っているヴィルヘルムの寝顔を見つめる。
「……ん」
 少し身動ぎをしたが、起きる気配はない。
(……僕は、ここにいていいのでしょうか?)
 アドラー家の人々は皆優しくしてくれた。彼らは自分を家族のように扱ってくれる。だが自分は違うのだ。いつかは出て行かなければならない存在なのだ。
(言えるわけ、ないです…こんなに良くしてくださっているのに)
 レイナードはぎゅっと唇を噛み締める。
(僕は……)
「ん……」
 その時、ヴィルヘルムがゆっくりと目を開けた。
「はわっ!」
(起こしちゃった!)
「ん……レイ?」
「は、はい!」
 慌てて返事をするとヴィルヘルムがゆっくりと身体を起こした。そしてぼんやりとした目でこちらを見た。
「お、おはようございます……」
「ああ……おはよう……」
(寝ぼけてらっしゃる?)
 ぼーっとしているヴィルヘルムを見て、レイナードはくすりと笑った。すると突然腕を掴まれる。
「……へ?」
 そのままぐいっと引き寄せられると、ぎゅっと抱きしめられた。
「もう少し…このまま」
「へ、え、え!?」
 暖かい体温がじわじわと伝わってきて、心臓が痛いほど早鐘を打つ。レイナードは顔を真っ赤にして硬直したが、やがておずおずとヴィルヘルムの背中に手を回した。するとさらに強い力で抱きしめられる。
(あ……)
 その時、ふと気づいたことがあった。ヴィルヘルムの鼓動が速いことに。そして自分の心臓も同じくらいドキドキしていることに。
「……あったかいです」
 思わずそう呟くと、耳元で小さな笑い声がする。その声がくすぐったくて身をよじると、逃がさないとばかりにさらに強く抱き込まれた。
「…ふふ」
「あはは」
 また眠ってしまいそうになる。遠くで使用人たちが朝食の準備をしている気配がする中、2人でクスクス笑い合いながらそのまま瞼を閉じてしまっていた。

「おやおや…」
 すっかり朝寝坊をした2人を迎えに来たクリストファーは、微笑ましい姿に思わず笑みを漏らす。そして可愛らしい寝顔を存分に堪能すると、2人をやんわりと起こすのだった。
***
 レイナードはうまくやっていた。うまくアドラー家に潜り込み、そしてうまく馴染んでいた。だけど。
「それで、レイナードが僕の部屋にやってきて『一緒に寝てもいいですか?』ってきて。もう可愛くて可愛くて!」 
「そうなのだね」
「……むぅ」
 目の前でアドラー家の2人が団らんしている。親子水入らずの団らんだが、話題の中心は何故かレイナードである。
「あんな風に甘えられたらダメなんて言えるわけない。ですよね?父上。枕ぎゅっとして、怖い夢見て怯えたなんて、もう、可愛すぎて…!」
 こんなにヴィルヘルムが早口で喋るのをレイナードは初めて見た。
「ああ、そうだね」
 にこにこ微笑んでいるが、レイナードは頬を膨らませている。
(ヴィルヘルムさま、何もそんなに言うことですか…!)
 もしかしてこれずっと言われるのかと、険しい顔を浮かべていた。
「それなら、今夜は私と一緒に寝るかい?」
「はぅっ……!」
 突然の誘いに、レイナードの顔が真っ赤に染まる。そしてそのまま俯いてしまった。
「……なんだよその反応」
「だ、だってぇ…」
 クリストファーの大人っぽい色気に当てられたのか、もじもじしているレイナードにヴィルヘルムは不満げな表情を浮かべる。
「あーあ!昨日はあんなに可愛かったのに。僕のベッドですぐふにゃふにゃしちゃってさ!」
「なっ!ふにゃふにゃしてないです!」
「してた!」
「してないもん!」
「してたって」
 子供同士の口喧嘩は微笑ましいものだ。クリストファーはくすりと笑う。そして、ふと思いついたことを口に出してみた。
「折角だから、今夜も2人で寝たらどうだい?ヴィルも近い内に学校に行くことになっている。一緒に居られる時間も、今だけかもしれないしね」
「…え」
(学校…?)
 レイナードは驚いて顔をあげる。ヴィルヘルムと目が合うと、彼は困ったように顔を背けた、
「まだ決まった訳じゃない」
 そうは言うが、おそらくもうアドラー家では決定しているのだろう。そう思うとなんだか喉の奥に何かがつっかえたような気分になる。
(学校……)
 そんなものに行ってしまえば、自分はまたひとりになってしまうのではないか? その時ふと脳裏に浮かんだのはエリオスの姿だった。一緒にいた友達と別れるのは、いつだってさみしい。
「………」
 見るからにしょんぼりするレイナードの姿に、ヴィルヘルムは罪悪感を抱いた。そんな顔をさせるつもりはなかったのだ。胸の中に沸き上がる責任感に駆り立てられるように決意を込めて顔を上げた。
「……やっぱり」
「へ?」
 ヴィルヘルムは覚悟を決めて口を開いた。
「やっぱり、一緒に寝よう」
「ほへ……?」
 一瞬何を言われたのか分からずに間抜けな声を出してしまう。
「僕がいる間、毎晩ずっと!」
「ふぇええ??」
「ヴィルは積極的だね」とクリストファーはにこにこしているが、レイナードとしては焦る他ない。
「レイが、僕がいなくても寂しい思いをしないようにね」
(そそそ、そんなつもりは…!!)
 何なら他のこと考えてましたなどと言えるわけもなく。ただでさえ整った顔がこれ以上なく眩しく輝き、何なら朝日さえ背負っているように見える。
(ま、眩しい…!!何なんですか、この輝きは…!!)
「これから毎晩一緒だよ?いいね、レイ」
「は…はい……」
 逆らえるはずもなく。レイナードは俯いて小さな声で返事をしたのだった。
***
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶
BL
腹違いの弟のフィーロが伯爵家へと引き取られた日、伯爵家長男であるゼンはフィーロを一目見て自身の転生した世界が前世でドハマりしていた小説の世界だと気がついた。 しかもフィーロは悪役令息として主人公たちに立ちはだかる悪役キャラ。 ゼンは可愛くて不憫な弟を悪役ルートから回避させて溺愛すると誓い、まずはじめに主人公──シャノンの恋のお相手であるルーカスと関わらせないようにしようと奮闘する。 しかし両親がルーカスとフィーロの婚約話を勝手に決めてきた。しかもフィーロはベータだというのにオメガだと偽って婚約させられそうになる。 ゼンはその婚約を阻止するべく、伯爵家の使用人として働いているシャノンを物語よりも早くルーカスと会わせようと試みる。 しかしなぜか、ルーカスがゼンを婚約の相手に指名してきて!? 弟loveな表向きはクール受けが、王子系攻めになぜか溺愛されちゃう、ドタバタほのぼのオメガバースBLです

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...