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レイナードは父親たちの期待通りに、うまくアドラー家に取り入ることが出来た。計算高くなく、素直で、愛らしく振る舞う異国の少年に、気難しいと言われていた貴族はすっかり陥落していた。
だがそれも限界だった。アドラー家での生活に順応しているようで、レイナードは孤独だった。与えられた優しさを踏みにじるほど、レイナードは強かではなかった。
そして限界が訪れた時、レイナードは部屋を飛び出て、隣室へと駆け込んだ。ヴィルヘルム何も聞かずにベッドに迎い入れてくれて、気がついたら眠っていた。
「あさ…?」
むにゃむにゃと目を擦りながら暖かい腕からそっと抜け出す。
「ヴィルヘルムさま……」
レイナードは、すやすやと眠っているヴィルヘルムの寝顔を見つめる。
「……ん」
少し身動ぎをしたが、起きる気配はない。
(……僕は、ここにいていいのでしょうか?)
アドラー家の人々は皆優しくしてくれた。彼らは自分を家族のように扱ってくれる。だが自分は違うのだ。いつかは出て行かなければならない存在なのだ。
(言えるわけ、ないです…こんなに良くしてくださっているのに)
レイナードはぎゅっと唇を噛み締める。
(僕は……)
「ん……」
その時、ヴィルヘルムがゆっくりと目を開けた。
「はわっ!」
(起こしちゃった!)
「ん……レイ?」
「は、はい!」
慌てて返事をするとヴィルヘルムがゆっくりと身体を起こした。そしてぼんやりとした目でこちらを見た。
「お、おはようございます……」
「ああ……おはよう……」
(寝ぼけてらっしゃる?)
ぼーっとしているヴィルヘルムを見て、レイナードはくすりと笑った。すると突然腕を掴まれる。
「……へ?」
そのままぐいっと引き寄せられると、ぎゅっと抱きしめられた。
「もう少し…このまま」
「へ、え、え!?」
暖かい体温がじわじわと伝わってきて、心臓が痛いほど早鐘を打つ。レイナードは顔を真っ赤にして硬直したが、やがておずおずとヴィルヘルムの背中に手を回した。するとさらに強い力で抱きしめられる。
(あ……)
その時、ふと気づいたことがあった。ヴィルヘルムの鼓動が速いことに。そして自分の心臓も同じくらいドキドキしていることに。
「……あったかいです」
思わずそう呟くと、耳元で小さな笑い声がする。その声がくすぐったくて身をよじると、逃がさないとばかりにさらに強く抱き込まれた。
「…ふふ」
「あはは」
また眠ってしまいそうになる。遠くで使用人たちが朝食の準備をしている気配がする中、2人でクスクス笑い合いながらそのまま瞼を閉じてしまっていた。
「おやおや…」
すっかり朝寝坊をした2人を迎えに来たクリストファーは、微笑ましい姿に思わず笑みを漏らす。そして可愛らしい寝顔を存分に堪能すると、2人をやんわりと起こすのだった。
***
レイナードはうまくやっていた。うまくアドラー家に潜り込み、そしてうまく馴染んでいた。だけど。
「それで、レイナードが僕の部屋にやってきて『一緒に寝てもいいですか?』ってきて。もう可愛くて可愛くて!」
「そうなのだね」
「……むぅ」
目の前でアドラー家の2人が団らんしている。親子水入らずの団らんだが、話題の中心は何故かレイナードである。
「あんな風に甘えられたらダメなんて言えるわけない。ですよね?父上。枕ぎゅっとして、怖い夢見て怯えたなんて、もう、可愛すぎて…!」
こんなにヴィルヘルムが早口で喋るのをレイナードは初めて見た。
「ああ、そうだね」
にこにこ微笑んでいるが、レイナードは頬を膨らませている。
(ヴィルヘルムさま、何もそんなに言うことですか…!)
もしかしてこれずっと言われるのかと、険しい顔を浮かべていた。
「それなら、今夜は私と一緒に寝るかい?」
「はぅっ……!」
突然の誘いに、レイナードの顔が真っ赤に染まる。そしてそのまま俯いてしまった。
「……なんだよその反応」
「だ、だってぇ…」
クリストファーの大人っぽい色気に当てられたのか、もじもじしているレイナードにヴィルヘルムは不満げな表情を浮かべる。
「あーあ!昨日はあんなに可愛かったのに。僕のベッドですぐふにゃふにゃしちゃってさ!」
「なっ!ふにゃふにゃしてないです!」
「してた!」
「してないもん!」
「してたって」
子供同士の口喧嘩は微笑ましいものだ。クリストファーはくすりと笑う。そして、ふと思いついたことを口に出してみた。
「折角だから、今夜も2人で寝たらどうだい?ヴィルも近い内に学校に行くことになっている。一緒に居られる時間も、今だけかもしれないしね」
「…え」
(学校…?)
レイナードは驚いて顔をあげる。ヴィルヘルムと目が合うと、彼は困ったように顔を背けた、
「まだ決まった訳じゃない」
そうは言うが、おそらくもうアドラー家では決定しているのだろう。そう思うとなんだか喉の奥に何かがつっかえたような気分になる。
(学校……)
そんなものに行ってしまえば、自分はまたひとりになってしまうのではないか? その時ふと脳裏に浮かんだのはエリオスの姿だった。一緒にいた友達と別れるのは、いつだってさみしい。
「………」
見るからにしょんぼりするレイナードの姿に、ヴィルヘルムは罪悪感を抱いた。そんな顔をさせるつもりはなかったのだ。胸の中に沸き上がる責任感に駆り立てられるように決意を込めて顔を上げた。
「……やっぱり」
「へ?」
ヴィルヘルムは覚悟を決めて口を開いた。
「やっぱり、一緒に寝よう」
「ほへ……?」
一瞬何を言われたのか分からずに間抜けな声を出してしまう。
「僕がいる間、毎晩ずっと!」
「ふぇええ??」
「ヴィルは積極的だね」とクリストファーはにこにこしているが、レイナードとしては焦る他ない。
「レイが、僕がいなくても寂しい思いをしないようにね」
(そそそ、そんなつもりは…!!)
何なら他のこと考えてましたなどと言えるわけもなく。ただでさえ整った顔がこれ以上なく眩しく輝き、何なら朝日さえ背負っているように見える。
(ま、眩しい…!!何なんですか、この輝きは…!!)
「これから毎晩一緒だよ?いいね、レイ」
「は…はい……」
逆らえるはずもなく。レイナードは俯いて小さな声で返事をしたのだった。
***
だがそれも限界だった。アドラー家での生活に順応しているようで、レイナードは孤独だった。与えられた優しさを踏みにじるほど、レイナードは強かではなかった。
そして限界が訪れた時、レイナードは部屋を飛び出て、隣室へと駆け込んだ。ヴィルヘルム何も聞かずにベッドに迎い入れてくれて、気がついたら眠っていた。
「あさ…?」
むにゃむにゃと目を擦りながら暖かい腕からそっと抜け出す。
「ヴィルヘルムさま……」
レイナードは、すやすやと眠っているヴィルヘルムの寝顔を見つめる。
「……ん」
少し身動ぎをしたが、起きる気配はない。
(……僕は、ここにいていいのでしょうか?)
アドラー家の人々は皆優しくしてくれた。彼らは自分を家族のように扱ってくれる。だが自分は違うのだ。いつかは出て行かなければならない存在なのだ。
(言えるわけ、ないです…こんなに良くしてくださっているのに)
レイナードはぎゅっと唇を噛み締める。
(僕は……)
「ん……」
その時、ヴィルヘルムがゆっくりと目を開けた。
「はわっ!」
(起こしちゃった!)
「ん……レイ?」
「は、はい!」
慌てて返事をするとヴィルヘルムがゆっくりと身体を起こした。そしてぼんやりとした目でこちらを見た。
「お、おはようございます……」
「ああ……おはよう……」
(寝ぼけてらっしゃる?)
ぼーっとしているヴィルヘルムを見て、レイナードはくすりと笑った。すると突然腕を掴まれる。
「……へ?」
そのままぐいっと引き寄せられると、ぎゅっと抱きしめられた。
「もう少し…このまま」
「へ、え、え!?」
暖かい体温がじわじわと伝わってきて、心臓が痛いほど早鐘を打つ。レイナードは顔を真っ赤にして硬直したが、やがておずおずとヴィルヘルムの背中に手を回した。するとさらに強い力で抱きしめられる。
(あ……)
その時、ふと気づいたことがあった。ヴィルヘルムの鼓動が速いことに。そして自分の心臓も同じくらいドキドキしていることに。
「……あったかいです」
思わずそう呟くと、耳元で小さな笑い声がする。その声がくすぐったくて身をよじると、逃がさないとばかりにさらに強く抱き込まれた。
「…ふふ」
「あはは」
また眠ってしまいそうになる。遠くで使用人たちが朝食の準備をしている気配がする中、2人でクスクス笑い合いながらそのまま瞼を閉じてしまっていた。
「おやおや…」
すっかり朝寝坊をした2人を迎えに来たクリストファーは、微笑ましい姿に思わず笑みを漏らす。そして可愛らしい寝顔を存分に堪能すると、2人をやんわりと起こすのだった。
***
レイナードはうまくやっていた。うまくアドラー家に潜り込み、そしてうまく馴染んでいた。だけど。
「それで、レイナードが僕の部屋にやってきて『一緒に寝てもいいですか?』ってきて。もう可愛くて可愛くて!」
「そうなのだね」
「……むぅ」
目の前でアドラー家の2人が団らんしている。親子水入らずの団らんだが、話題の中心は何故かレイナードである。
「あんな風に甘えられたらダメなんて言えるわけない。ですよね?父上。枕ぎゅっとして、怖い夢見て怯えたなんて、もう、可愛すぎて…!」
こんなにヴィルヘルムが早口で喋るのをレイナードは初めて見た。
「ああ、そうだね」
にこにこ微笑んでいるが、レイナードは頬を膨らませている。
(ヴィルヘルムさま、何もそんなに言うことですか…!)
もしかしてこれずっと言われるのかと、険しい顔を浮かべていた。
「それなら、今夜は私と一緒に寝るかい?」
「はぅっ……!」
突然の誘いに、レイナードの顔が真っ赤に染まる。そしてそのまま俯いてしまった。
「……なんだよその反応」
「だ、だってぇ…」
クリストファーの大人っぽい色気に当てられたのか、もじもじしているレイナードにヴィルヘルムは不満げな表情を浮かべる。
「あーあ!昨日はあんなに可愛かったのに。僕のベッドですぐふにゃふにゃしちゃってさ!」
「なっ!ふにゃふにゃしてないです!」
「してた!」
「してないもん!」
「してたって」
子供同士の口喧嘩は微笑ましいものだ。クリストファーはくすりと笑う。そして、ふと思いついたことを口に出してみた。
「折角だから、今夜も2人で寝たらどうだい?ヴィルも近い内に学校に行くことになっている。一緒に居られる時間も、今だけかもしれないしね」
「…え」
(学校…?)
レイナードは驚いて顔をあげる。ヴィルヘルムと目が合うと、彼は困ったように顔を背けた、
「まだ決まった訳じゃない」
そうは言うが、おそらくもうアドラー家では決定しているのだろう。そう思うとなんだか喉の奥に何かがつっかえたような気分になる。
(学校……)
そんなものに行ってしまえば、自分はまたひとりになってしまうのではないか? その時ふと脳裏に浮かんだのはエリオスの姿だった。一緒にいた友達と別れるのは、いつだってさみしい。
「………」
見るからにしょんぼりするレイナードの姿に、ヴィルヘルムは罪悪感を抱いた。そんな顔をさせるつもりはなかったのだ。胸の中に沸き上がる責任感に駆り立てられるように決意を込めて顔を上げた。
「……やっぱり」
「へ?」
ヴィルヘルムは覚悟を決めて口を開いた。
「やっぱり、一緒に寝よう」
「ほへ……?」
一瞬何を言われたのか分からずに間抜けな声を出してしまう。
「僕がいる間、毎晩ずっと!」
「ふぇええ??」
「ヴィルは積極的だね」とクリストファーはにこにこしているが、レイナードとしては焦る他ない。
「レイが、僕がいなくても寂しい思いをしないようにね」
(そそそ、そんなつもりは…!!)
何なら他のこと考えてましたなどと言えるわけもなく。ただでさえ整った顔がこれ以上なく眩しく輝き、何なら朝日さえ背負っているように見える。
(ま、眩しい…!!何なんですか、この輝きは…!!)
「これから毎晩一緒だよ?いいね、レイ」
「は…はい……」
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