義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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「はは、少年趣味か」
「そういう話じゃないですってば!この人は僕を助けてくれたんです!」
「……え?」
「ほう」
二人の反応にレイナードは顔を真っ赤にしながら続ける。
「だから、あの……えっと……」
「…レイ」
「はい!」
「お前が世間知らずなのは、僕と父上の責任でもある。でもこんな胡散臭い大人にほいほいついて行くのは感心しない。いいかい?全ての人間が好意的だとは限らない。特に貴族社会はね」
「え、えっと…だから、この人は!」
レイナードが必死に説明しようとするのを、クラウスは制した。
「あー、まあ、そうだな。俺は確かに胡散臭い大人だが、少なくとも子ども相手にどうこうする趣味はない。安心しろよ」
「………」
無言で睨みつけるヴィルヘルムの様子にクラウスは苦笑いを浮かべた。
(まるで番犬みたいだな。いや、狼か)
クラウスは心の中でそんなことを思う。
(『吸血鬼』の嫡男は『狼男』、なんてな……)
想像に吹き出してしまいそうになり、唇に力を入れた。そのせいで変な顔になってしまい、益々ヴィルヘルムの顔が険しくなる。
「校長先生。僕も同席します」
「え?いや、しかし……」
「レイの話を聞いて確信しました。この男を野放しにしてはいけないと」
「だから誤解ですよぉ!この人は僕を助けてくれたんです!」
必死に訴えるレイナード。だがヴィルヘルムは首を振った。
「分かっているよ、レイ。お前は優しい子だものね。でもこれは僕が判断することだから。校長先生、問題ありませんね?」
「……ええ」
気まずそうな校長を見て、ヴィルヘルムは小さくため息をついた。そして再びクラウスの方に向き直る。
「と言うことで、僕も行きますから。レイと2人きりで変なことしようものなら、分かってるでしょうね?僕があなたを八つ裂きにしてやりますから。覚悟してください」
「おー、怖っ」
クラウスは肩をすくめた。だがその飄々とした様子に、ヴィルヘルムはますます警戒心を強めるのだった。
***
大浴場に入ると、レイナードは目を輝かせて浴槽を見た。思わず飛び込みそうになるところを寸前でヴィルヘルムが止める。
「こら!ダメだろ?」
「だって……僕、こんな大きなお風呂初めてだし……」
しかも貴族御用達の豪華絢爛な大浴場。こんな贅沢な空間で入浴した経験などあるはずもない。
「ほら、身体洗うから」
ヴィルヘルムはレイナードの手を引いて洗い場に向かう。そして椅子に座らせた。
「自分でできるよ!」
「いいから、大人しくして?いい子だから…」
そう言って石鹸を手に取ると泡立てて優しく身体を洗い始めた。その心地良さに浸っていると、ふと視線を感じたので顔を上げると、クラウスがじっとこちらを見ていた。
「……なんですか?」
レイナードの視線の先の男をみかねて直ぐ様ヴィルヘルムが問いかける。
「いや、なんでもない」
「今この子を見てましたよね?」
「……別に見てないって」
苦笑いするクラウスを無視して、ヴィルヘルムは続けた。
「やっぱり怪しいな……通報しよう……」
「なに、ちょっと身体つきが気になっただけ」
「???」
小首をかしげるレイナードに対し、一足先に湯船に浸かっていたクラウスは、ふむと考え込むような仕草をしていた。
(虐待されている様子でもないな…アザも傷も怪我もない。むしろその逆か。とても大切に育てられている。それどころか…)
「あ、あの、ヴィル兄さん、僕自分で洗えますから…!」
「いいから。僕がしたいからしていることだ。だからお前は大人しくしてて」
「うう……」
そんなやり取りをしながら、ヴィルヘルムは丁寧にレイナードの身体を洗っていく。
(甲斐甲斐しい限りだな…あの『人間嫌いの』ヴィル坊っちゃんがねぇ…)
クラウスは一度だけヴィルヘルムと会ったけとがあるが、それは上官の妻の葬式の場であり、その時のヴィルヘルムは雨の降る中頑なな表情で前をじっと見つめていた。まるで心を閉ざしたかのような、そんな姿だった。
それが今はどうだろう。まるで別人のように優しい表情を浮かべている。そして、その対象はレイナードだ。異国の幼子に、ヴィルヘルムは大層ご執心のようだった。
(閉じ込められてたなんて知ったら大変なことになるだろうなぁ)
犯人探しから処罰まで、この少年はどこまでやるのだろうか。
「よし、終わったよ」
「ありがとうございます……」
すっかり泡を流し終えたレイナードに、そう告げるヴィルヘルム。その様子にクラウスは小さく笑った。
「本当に仲良いんだな」
「……家族ですからね」
ぷいっと顔を背けるが、その表情には隠しようもない程優しいものが滲んでいる。ふむ、とまたクラウスは顎に手を当てた。
(なるほどねー…)
美しい話だと思った。対立した国の子供達が家族同然のように過ごしている姿は、平和そのもので、とても微笑ましい。
だが同時に、その平和が脆く崩れ去ることもあるのだと言うことも、軍人で前線に青春を捧げたクラウスは、痛いほどよく理解していた。隣人が銃を向け合うようなことだって、起こり得るのだから。
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