義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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「なあ、少年」
クラウスは同じく浴槽に浸かったレイナードに近づいて囁く。
「お前さんはどう思っている?」
「……どう、って」
「『本当の家族』だと思っているのかなってな?」
「!!」
(この人…知ってるの…?)
レイナードが養子となった話をなぜ、初めて会った大人が知っているのか。だが、レイナードの答えを聞く前に、男はそっと距離をとった。レイナードの反応だけで、十分だと言わんばかりに。
(可愛い顔してやるじゃねぇか、この子。まあ、仕方ないか。1人で人質に出されたんだから、それなりに強かでないとな。問題は…)
「………」
ジト目でクラウスを睨み続ける目の前の少年に、また苦笑いを浮かべる。自分が身体を洗っている間に、レイナードに変なことをしていたのではないかと疑っているようだった。
「安心しろよ、何もしてないから」
「信用できないな……」
「本当だっての。俺は子どもには興味ない」
危ういな、と思った。母親の死を乗り越えて真っすぐ誠実にアドラー家の後継ぎとして成長している長男を見て、クラウスは考えた。
いつかこの愛らしい義弟に、この少年は人生を狂わされかねないのではないか、と。
「ヴィル坊っちゃん、ちょっと」
クラウスが手招きすると、ヴィルヘルムは警戒心を露わにしながらも近づく。そして耳打ちで言われた言葉に目を見開いた。
「な……!」
「だから、何も知らないって。俺はただ『家族』の絆を確かめたかっただけだし?」
「……」
(この人……どこまで知っているんだ……?)
動揺する兄と不思議そうに見つめるレイナードに見つめられながら、クラウスは飄々とした態度で続けた。その目はまるで全てを見透かすかのように鋭い光を帯びている。
「まあ、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないか?俺は別に何もしないし?」
「……」
「それにしても本当に綺麗な顔をしてるなあ。まるでお人形さんみたいだ。貴族ってのはみんなこんな感じなのか?」
「……レイは」
「ん?」
「レイは別格だ。貴族も平民もない。レイは僕のたった1人の弟だ」
「へえ……」
クラウスは興味深そうに目を細めると、今度はレイナードの耳元にそっと唇を寄せる。まるでヴィルヘルムからみればキスをしているような距離感だ。だが、内容は緊迫したものだった。
「…あまり性に合わないことはしない方がいい」
「…それは、忠告ですか?」
クラウスにだけ聞こえる程度の声で呟くレイナード。その視線の先には不安気にこちらを見つめるヴィルヘルムの姿がある。
「それもあるし……俺がお前みたいな可愛い顔をした坊っちゃんを泣かせたくないってのもある。まあ、どちらかと言えば後者の方が強いかな」
そう言いながら再びクラウスは笑った。どこか不気味で謎めいた男だと思った。体がこわばるが「もう!離れろ!それ以上レイに変なことしたら、本当に通報するからな!」とヴィルヘルムが叫びながらクラウスの耳を引っ張った。
「痛ててて!わかったから離せって!それにしても過保護だなあ。まあ、いいけどさ」
「うるさい!この変態!」
「おいおい、俺は何もしてないだろ?」
「黙れ!変質者!」
「あーあー」
ヴィルヘルムが怒鳴ると、クラウスは大げさに耳を塞いでみせた。レイナードは息を吐いてぶくぶくとお湯に浸かる。
(僕、そんなに分かりやすい…?それとも、この人が鋭いだけ……?)
兄の怒号を聞きながら、レイナードは考えた。だが答えは出ない。
「じゃ、俺は先に出るわ。兄弟水入らずでゆっくりしてろよ」
「またな」と軽々しく挨拶をして男は早々に出ていった。その背を見ながら「何だアイツありえない…!」とヴィルヘルムはプリプリ怒っている。
(なんか、疲れちゃったな…)
色々あった1日だった。倉庫に閉じ込められて、変な人に助け出されて、みんなでお風呂に入って……
(そう言えば、あの子達はどうなったんだろう)
ふと、自分を閉じ込めた子たちはどうしているのだろうかと疑問に思った。だが、それを考えるのも億劫だった。
「レイ?どうした?」
ヴィルヘルムが心配そうに覗き込んできた。
「ううん、何でもないよ。ありがとう、ヴィル兄さん」
そう言って微笑むと、彼は安心したように微笑んだのだった。
***
その頃。
「………」
レイナードを閉じ込めた少女達は鍵を手に壊れた扉の前に立ちすくんでいた。思ったより戻ってくるのが遅くなってしまったが、まさかその間にあの少年が逃げ出してしまったとは露にも思わなかった。
「どうする……?」
「ど、どうするって……」
「……どうするもこうするも……」
「う、うーん……」
互いの顔を見合わせて考え込む。だが妙案は浮かばない。
「お嬢様方。こちらにいらしたのですか」
「ひぃっ!?」
突如聞こえた声に振り向くとそこには1人の青年が立っていた。黒い軍服に髪をひとまとめにした青年の姿に、少女達は悲鳴をあげた。
「な……!?」
「なにもの……!?」
「ああ、驚かせてしまって申し訳ありません。私は首席監察官のクラウス・ローマーと申します」
「そ、そうなんですね。えっと、あっ!わ、私たち友達と遊んでいて……」
「そうなんです!」
「すみません。私たちもちょっと悪ふざけしちゃったというか……」
しどろもどろに言い訳をする彼女たちに、クラウスは薄く笑う。
「それはそれは」
その笑顔にゾッとした。
(この人……怖い……)
「この旧校舎はもうすぐ取り壊しになります。危ないので、今後は立ち入らない方が賢明です。ところで……」
クラウスは倉庫の扉を指さした。
「……鍵は?」
「え?あっ!」
慌ててポケットを探すがそこにあるはずの鍵はどこにも見当たらない。
「うそ……」
「……無くされたのですね?困りましたね」
(どうしよう……!)
「鍵を無くしたということは、誰でも入れるということです。ああ、もしかしたら鍵を無くしたことは悪意を持っての行動だったのか思われる先生方もいるでしょうね」
「そ、そんなことありません!」
「そ、そうです!私達はただ、その…鍵を落としてしまって……!」
「……本当に?」
クラウスが鋭い目つきで睨みつける。その視線の鋭さに、少女達は竦み上がる。
(この人……一体何なの……!?)
「もし先生方が不審に思った場合、どうなると思いますか?この件は学園に報告しなくてはなりません。すると校長先生に報告が行き、更に教育委員会に報告がいくことになる」
「……!」
「そうなったら親御さんにも知られることになるでしょうねぇ……」
「……」
(どうしよう……)
「でも大丈夫ですよ。あなた方の親御さんに連絡するのは私ですから。先生方には内密に処理させていただきますよ。ですから二度と悪ふざけで人を閉じ込めたりしないでくださいね。分かりましたか?お嬢様方」
「「「はい……!」」」
3人の少女たちは声を揃えて返事をした。そして逃げるようにその場から走り去ったのだった。彼女たちが去った後でクラウスは小さくため息をついた。
(全く……くだらないな…)
金属のぶつかる音を立てて彼女たちが落としたであろう鍵を持ち上げる。犯人は現場に戻ると言われているが、その通りだった。
「この学校の管理体制もどうかしてんな…こんな簡単に生徒が鍵を持ち歩けるなんて…」
言いかけてクラウスは、はっとする。
(…いや、もしかして意図的に…?)
「……」
顎に手を当て考え込む。怯えたような、だが意志の強い少年の目を思い出して頭を振る。
「やれやれ……上手く生き残れよ?少年」
想像以上に敵は多い。はぁ、と息を吐くとクラウスは再び雪の中を一人歩いて行くのだった。
***
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