召喚先は、誰も居ない森でした

みん

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3 崩れ去った日常

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ようやく人に出会えた喜びも一瞬で終わった。

「痛い!離して!」
「❋❋❋❋!❋❋❋❋!」

私の左腕を掴んでいる手に、ギリギリと力が入り、爪が食い込んでいて酷い痛みに襲われた。

「❋❋❋❋❋❋❋!」

それに、何を言っているのか全く分からない。
痛みを堪えながら相手を見ると──

白髪混じりの茶色い髪に、目の色は黒色じゃなくて茶色。年齢は母と同じぐらい。ただ、気になるのは服装。童話や映画なんかでよく見る“ザ・盗賊”の様な服を着ている。それと、彼が何語を話しているのかサッパリ分からない。何とか抵抗するも、男の力に敵う筈もなく、その男は私の首に首輪を着けた。そこで、ようやく私を掴んでいた手の力が緩んだと思えば、私を担ぎ上げて歩き出した。

ー一体何が起こってるの!?ー

誰か助けて───と声を出そうとして異変に気付く。

ー声が……出ない!?ー

声を出そうとしても、口だけがハクハクと動くだけで声がでない。

「❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋」

すると、私を担いでいる男が何かを言った後、ひひっと嘲笑った。




「❋❋❋❋❋❋!❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋!」

バタンッ──ガチャンッ──と、男が扉を閉めた後、外側から鍵も締まる音がした。

「…………」

今、私が放り込まれたのは馬車。しかも、この中には私以外にも3人の女性も居る。その女性達にも私と同じ首輪が着けられている。しかも、髪の色がピンク色と水色と紫色。

ー推し活?ー

もう、色々な事があり過ぎて、逆に冷静になっている。何故かは全く分からないけど、ここは日本ではないかもしれない。言葉が全く分からないし、馬車が交通手段として使われる筈がない。目立つ以外の何物でもない。よく見ると、3人の女性達はとても綺麗な顔立ちをしていて、着ている服も上質な物だと分かるような綺麗なワンピースだ。そんな彼女達のうち2人は泣いていて、1人は泣きつかれて寝ているようだった。
まるで、人攫いにあったようだ。おそらく、そうなんだろう。見た目からして、どこかお金持ちのお嬢様と言う雰囲気がある。
私は、Tシャツにジーンズと言うラフな服装で、顔は平凡だしお金も持っていない。私を攫ったところで何の得にもならないのに、どうしてこうなったのか?もし、私に何の価値も無いと分かれば───

ガタン──と音がして、馬車がゆっくりと動き出した。




******


どれぐらい移動したのか、森は抜けたのか、今は何時頃なのか全く分からない。馬車内に窓が無く、4人とも声が出ないから会話する事もできない。声が出せたとしても、言葉が通じない可能性が高い。流石に、泣いていた2人も泣き止み、寝ていた女性も起きてはいるけど、皆俯いて震えている。

ーこれからどうなるんだろう?ー

6時間のバイトを終えて、女将さんと大将に挨拶をして、後は家に帰るだけだったのに。色々考えなきゃいけない事はあるけど、今は、この状況からどうやって抜け出すか──

抜け出せる訳がない

唯一の救いだったスマホは、鞄ごと手元に無い。武道系に明るいなんて事も無い。勉強ができる事と、体力があるぐらいしか自慢できるものがない。それに、たとえ私が逃げられたとしても、彼女達を放って逃げる─なんて、できる?彼女達は、見るからに箱入りお嬢様だ。ひょっとしたら、走る事もできないのでは?と思う程華奢だ。どうしよう──と思っていると、馬車のスピードが緩やかになり、ガタンと音を立てて止まった。すると、扉の鍵を開ける音がした後扉が開いて、そこから又、あの時の男が入って来た。

「❋❋❋❋❋❋❋❋❋」

その男が何か言うと、3人の女性が泣きながら暴れ出した。勿論、何を言われたのか全く分からない。分からないけど、良く無い事だと言う事は分かる。そこへ、更に2人の男が入って来て、女性達を引き摺るように連れ出して行った。

「❋❋❋❋❋❋❋」
「……………」

残った男が何かを言いながら、顎を扉の方へと突き出す。“お前も出ろ”と言う事だろう。震えそうになる足に精一杯の力を入れて立ち上がり、馬車の外へと出た。

「……………」
「❋❋❋❋!」

何かを言われて背中を押され、そのまま歩き出す。
目の前には、欧州の古城があった。

ーやっぱり、ここは日本じゃない?ー

古城だと思っていた城内は、綺麗な装飾品が飾られていて、とても古い城だとは思えない豪華さがあった。その中をズンズンと進んで行くと、突き当りにある階段を下へ下へと下りて行く。下へ行く程に暗くなっていく。そうして、最下層らしき階に着くと、そこには牢屋の様な部屋がズラリと並んでいた。

「…………」

いくつかの鉄格子の部屋の前を通り過ぎる時に目に入って来たのは───

私達と同じ女性や、男性や子供も、動物までも居た。そして、私達4人は同じ部屋に閉じ込められた。

「❋❋❋❋❋❋❋❋」

男は鍵を締めた後、何かを行ってから立ち去って行った。それから、3人の女性達は又、涙を流し始めた。

私は……涙が出る事は無かった。




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