召喚先は、誰も居ない森でした

みん

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8 竜王国からの派遣

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“オールステニア王国で、数ヶ国の民を巻き込んだ大きな人身売買オークションが行われる。大元、後援者も特定済み”

と言う報せが届いたのは1ヶ月程前の事だった。
未だ奴隷制度が残る数ヶ国は別として、大陸の殆どの国が禁止とされている人身売買。摘発しても繰り返されて来ていたが、ここでようやく終止符を打つ事ができる。と喜んだのも束の間で、その商品の中には幻獣レベルの魔獣が含まれていると言う事で、指揮を執っていた人間の国王は多種族の王達にも、更なる支援を求めていた。
そして、我が竜王国もまた、その1つだった。
勿論、奴隷制度には反対だった為に、何人かの竜騎士を派遣する事にした。強靭な竜人が売り物として捕らわれる事は滅多にないが、数十年前、子供が攫われ掛けた事があり、その時にオールステニア王国の騎士団に助けられた事があった。その恩返しと言う事もあった。


「では、イーデン=ウィンストン伯爵気を付けて行って来てくれ」
「承知致しました」

イーデン=ウィンストンは竜騎士団の副団長だ。人間の騎士で言うと10人分以上の強さがある。そのイーデンと、後2人を派遣する。後の2人のうち1人も竜人だが、もう1人は鳥獣人だ。“竜王国”だからと言って、竜王国に住んでいるのは竜人だけではない。獣人─特に鳥獣人も比較的多く居るし、少数ではあるが人間も居る。
ただ、今回派遣する鳥獣人の騎士は、竜人の血を引いている為、獣化すると鷲ではあるが、竜人並の力を持っている。幻獣レベルの魔獣相手でも、この3人だけでも十分だと思っている。その3人が、出立の挨拶にやって来て、謁見の間から出て行く時だった。

「陛下!お待ち下さい!お願いがあって参りました!」
「キース!?何を無礼な───」
「イーデン、大丈夫だ。キース……と言ったか?俺に何用だ?」

先触れも許可も無く謁見の間にやって来たのは、まだまだ若い竜騎士だった。見覚えもないと言う事は、俺に近い騎士ではないと言う事だ。

「今回の派遣に、オレ──わたしも同行させていただけませんか!?」
「キース!何を言っているんだ!?確かに、お前は人間の騎士よりは優れてはいるが、私達が相手をするのは人間ではなく幻獣レベルの魔獣だ。純粋な鳥獣人のお前では───」
「それは、十分に理解しています!正直、自分でもよく分からないのですが……どうしても、今回行かなければいけないと……この1週間ほど気持ちが落ち着かず、自分でも本当によく分からないんです。ただ、わたしがと言う事だけは分かるんです!どうか……どうか、お願いします!」
「キース………」
「ふむ…………」

ーどうしたものか?ー

イーデンが良い顔をしていないとなると、キースが幻獣レベルの魔獣に対応できる程の力が無いと言う事だろう。人間よりは強いのだろうが。ただ、獣人は危機管理能力には長けている。その獣人が、自分でも分からないと言いながらも同行を求めると言う事は、のだろう。

「分かった。同行を許そう。但し、自分の身は自分で護れ。その3人に迷惑を掛けるような事のないように。3人は魔獣に集中するのみだ」
「陛下!ありがとうございます!」
「はぁ……陛下が許可されたなら、私が反対する事もない。直ぐに出立する故、直ぐに準備をして来なさい」
「イーデン様、ありがとうございます!」

キースは笑顔で謁見の間から走って出て行った。

「キースはまだまだ若いですが、実力はあるので大丈夫ですよ」

そう言うのは、鷲獣人のカイルスだ。

「そうそう。何かあっても自己責任ですよ」

と、戯けているのは竜人のアルマンだ。この2人が止めないと言う事は、それなりの実力があるのだろう。2人がキースを見る目は“可愛い弟”を見守るような目だ。

「まぁ、想定外の事ではあるが、4人ともが無事に帰って来る事を信じているぞ?」
「「「勿論です」」」

そうして、3人は謁見の間から退出した。






******


竜王国はオールステニア王国などの国とは違い、空の浮島が領地となっている為、普通の人間や空を飛べない獣人が簡単に行き来できる国ではない。特に、竜王国の王城は大陸の海の上の天空に在る為、簡単に侵略される事も無い。その上、竜王国には東西南北を守護する竜人も居る為、護りもしっかりしていて、侵略は不可能とされている。
そんな竜王国からオールステニア王国迄は、竜化して行けば1日程で到着する。
到着した日からオールステニアの王城で過ごしながら、今回の計画を念入りに確認しながら決行の日に備える事になった。
オークションが行われるのは、“魔の森”と呼ばれる魔素の淀みが酷く、定期的に浄化したり魔獣の討伐が行われている森だった。そんな所で、オークションが行われるなど、誰が予想できただろうか?

ーそれも、今回で終わりだろうけどー




この時、これから更なる騒動が起こる事など、誰1人として予想だにしていなかった。



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