召喚先は、誰も居ない森でした

みん

文字の大きさ
10 / 78

10 久し振りの平穏な時間

しおりを挟む
「❋❋❋❋❋?❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋?」

咳が落ち着いたのを見て、年配の女性が私に何か話し掛けて来たけど、やっぱり言葉が全く分からない。
首を左右に振ってから「分からない」と言葉を口にする。首輪が外れたお陰で、声を出す事はできるようになった。その事に少しだけホッとする。

「❋❋❋❋❋❋❋❋❋?」
『❋❋❋❋❋?』

年配の女性とライオンが何かを話した後、年配の女性は自身を指差した後「エ・メ・ル」と言った。

ー“え・め・る”?ー

その次に、ライオンを指差して「リ・オ・ナ」と言った。

ーあぁ、名前だ!ー

「………ま・し・ろ」
「マシロ?」
「はい………エメルさん?」

コクコクと頷いて、私も年配の女性の名前を口にすると、ニコリと微笑んでくれた。名前で合っていたようだ。
兎に角、声が出せるようになった事と、言葉が通じないと言う事は伝わったようで、それからは簡単な事は身振り手振りで「軽く食事をした後、薬を飲んで寝るように」と言われた。
訊きたい事はいっぱいあるけど、今は訊く術が無い。ただ、ここが安全な場所だと言う事だけは分かるし、この人達が良い人だと言う事も分かる。

ーいつぶりの温かい食事と平穏な時間だろう?ー

安心して、また涙が溢れ出しそうになるのを我慢して、急いで食事をして、また布団に潜り込んだ。






*リオナ視点*


『よく寝ているわね』
「精神的消耗が激しいからね」

ロールパン1つとスープだけを口にした後、薬を飲むとそのまま直ぐに眠ってしまった
首に嵌められていた魔道具で声が出せなくなっていたのは分かっていたけど、まさか、言葉が通じないとは思わなかった。

『エメルは、さっきの言葉が何処の国の言葉か分かる?』
「それが……サッパリ………」
『……よね………』

この大陸の殆どの国では、数百年程前から共通語が使用される事となっているから、国が変わっても言葉や文字で困る事はあまり無い。小さい国や、国交の少ない国ではそうではなかっりもするけど、そう言う国の者は自国を出る事が無いから、その国以外で見かける事がない。それでも、ある程度の外国語も勉強して知っているけど、私の知っている言葉ではなかった。

『翻訳機能の魔道具を用意しないとね』

翻訳機能のある魔道具は貴重な物だけど、今回の摘発で、被害者であるマシロにも事情聴取をしなければならないから、国が直ぐにでも用意をしてくれるだろう。

「かなり遠くにある小さな国から連れて来られたのかもしれないわね」

マシロは黒色の髪と瞳だ。この国では珍しい色で高値で売れるそうで、マシロも今回のオークションでは目玉商品の1つだった。売られる前に保護できて良かったと言うべきか?それでも、連れ去られた後は、大変な日々だっただろう。

『可哀想に………』

ー1日でも早く、母国─親元に帰してあげなければー


『私は一度現場に戻るわ。後は頼んだわ』
「分かったわ。気を付けてね」





******


「リオナ、あの子は大丈夫だった?」
『ええ、大丈夫よ。今は薬を飲んで寝ているわ』
「それは良かった」

私より先に現場に戻っていたルパートと合流した。
魔獣はコカトリスの他にバジリスクが居たが、バジリスクもまた竜騎士が仕留めたそうだ。

「他にも数体の魔獣が居たけど、下級レベルだったから直ぐに片付いた。今は、このオークションに参加した者達をそれそれ拘束して移動する準備をしているところだ」
『予定より早く進んでるわね』

それもこれも、コカトリスとバジリスクの対処があっと言う間にできたからだろう。

ー本当に、竜人を敵に回す事だけは避けないとねー

あの一撃は本当に凄かった。あれですら余裕があったのだから、竜王ともなれば、一体どれ程の強さなのか。想像するだけで恐ろしい。そんな事を考えていると、あの時の竜騎士を見付けて、彼の元へと駆け寄り、そのままスルリと人の姿に戻った。

「先程は、助けていただき、ありがとうございました」
「あぁ……コカトリスの。ライオン獣人のリオナ様でしたか。なら、俺が出なくても大丈夫だったかもしれませんね」
「そんな事はありません。流石にコカトリス相手に、貴殿のようにはいきませんでした」
「そうですか?でも、助けになったのなら良かったです。あの時の子は、大丈夫でしたか?」
「はい。食事をして、今は寝ています」
「なら良かったです。では、また……」
「はい」

お互いまだまだする事もあり、軽く会話を交わした後直ぐに別れた。




名前を訊くのを忘れていた事に、翌日の会議で再会する迄全く気付かずにいた。



しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

わたしの方が好きでした

帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。 売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。 「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」 周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。 彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。 しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。 「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」 そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。 「エル、リゼを助けてあげて頂戴」 リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。 『夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜』から改題しました。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。 そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。 てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。 まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。 女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

処理中です...