召喚先は、誰も居ない森でした

みん

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36 過不足無く*アンジェリア*

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フィンレーがマシロを追って、行方が分からなくなってから10日が過ぎた。影を使って探させても、未だに見付かっていない。マシロに接触したまでは確認済み。それ以降は、影からの報告も無い。

ーひょっとして、2人で異世界に転移した?ー

その為に魔力を込めた魔石を持ち出したのかもしれないと、不安と苛立ちを覚えた頃に『渡り人を発見した』と言う報せが入った。

ー直接会って、分からせないといけないわねー

王太子お兄様からだけではなく、国王お父様からも、『これ以上、渡り人に関わるな』と言われたけど、『分かりました』と言って簡単に引き下がる事はしない。だって、私は尊い存在の王女であり聖女なのだから、渡り人如きに遠慮や配慮なんてする必要などない。我が国の民達も、何かあっても渡り人より私を支持してくれるだろう。

「お父様とお兄様は、何を恐れているのかしら?ただ竜王国の後ろ盾が怖いだけの臆病なだけよね」

そう呟いた後、私は影にマシロの居る所へと案内をさせた。




******

「ご苦労様。下がっていて良いわよ」
「御意」

マシロは、王都に近い公園の奥にある池のベンチに座っていた。そのベンチには隼が止まっていて、マシロはその隼にパン屑を与えているようだった。

ー獣と友達なんて、お似合いよねー

マシロではフィンレーとは釣り合わない。そもそも、フィンレーは私のものよ。ちゃんと思い知らせてあげないとね。



「フィンレーは何処に居るの?」
「はい?」

私が声を掛けると、マシロが私に視線を向けた。

「フィンレーが、貴方を追って行った事は分かっているの。何処に居るの?」
「フィンレーには会ってないし、私は知らないわ」

そんな筈は無い。魔力すら持たないただの渡り人が、フィンレーの追跡魔法から外れる事はできないのだから、接触はあった筈。

「フィンレーは私の婚約者よ。私達の邪魔をするなら……赦さないわ」
「赦さないと言うのなら、私をどうするつもりなの?」
「簡単よ。私達の視界に二度と入らないようにするだけよ」

パチンッ──と音を立てて、マシロの首に魔道具を着けたのは、気配を消して待機していた影だ。

「簡単に殺す事なんてしないわ。私は心優しい聖女だから」
「…………」

黒色は高値で売れるらしく、マシロは声を奪われて、売られようとしたところを助けられた。その時、そのまま売られていたら、フィンレーがマシロの存在に気付く事もなかった。

「黒色を愛する物好きに買われて、可愛がってもらえば良いわ」
「…………」

魔道具のせいで声を出す事すらできない。この辺りには誰も居ない。誰の助けも来ない。後は、影がマシロを連れて行くだけ。その影に視線を向けると、マシロの横に居た隼が空へと飛び上がった。

「貴方も反省していなかったのね」
「え?」

ーどうして喋れるの!?ー

「人を癒やす聖女が、人を害そうとするなんて……笑えないわ」
「貴方、一体誰に向かって口をきいてるの!?」
「間違ってなければ、オールステニア王国の王女様で聖女様のアンジェリア様ね」
「分かっててその態度なの!?不敬よ」
「他人を害そうとする人なんて、敬える訳ないじゃない」

そう言うと、マシロが私の腕を掴んだ。

「痛いわよ!」
「お望み通り、愛しのに会わせてあげるわ」
「“フィレ”?って…え?」

ギリギリと私の腕を掴む力はそのままに、目の前に居るマシロの姿がガラリと変わった。黒色の髪と瞳は変わらないけど、短目の髪が長くなり、少し歳を重ねた女性。今迄会った事はないけど、誰もが知っている女性に似ている。

“救国の聖女ユマ”

異世界から召喚されて、また異世界に戻ったとされる聖女。王城にも彼女の肖像画が飾られている。癒やしの聖女だけには留まらず、魔獣や魔物の討伐にも参加していた程に攻撃もできる聖女。その聖女がどうしてここに?マシロとはどんな関係があるの?
目の前の聖女ユマは笑っているのに、恐ろしさを感じる。そして、何故か掴まれている腕から何かが抜けて行くような感覚がある。

「フィレとの再会を楽しむと良いわ」

と、聖女ユマが言うと私の体が光に包まれた。




******


眩しい光が落ち着くと、そこは牢屋のような所だった。

「ここは一体………」
「………アン……ジェリアさま?」
「フィ─────ひっ!?」

名前を呼ばれ振り返れば、そこにはフィンレーが居たのは良かったけど、何故かフィンレーは血塗れで横たわっていた。

「誰がこんな事を!!」

すぐさま駆け寄って治癒の魔法を使う。

「──っ!?」
「あぁ……アンジェリア様、ありがとうございます」

フィンレーの怪我は治癒できたけど、それと同時にごっそりと魔力が抜けてしまった。今迄、一度でこんなにも魔力を消耗した事はない。酷い怪我でも10人は治癒できる魔力を持っていたのに。この感覚だと、暫くは魔力を使う事はできない──そう思っていると、肩を掴まれた。

『お前、治癒魔法が使えるのか?』

大柄な男が話しているのは、オールステニアとは国交が無い国の言葉だ。それも、大陸の人間を毛嫌いしている武力に物を言わす獣人国。私がいくつか覚えていた外国語のうちの一つだ。

ー私がオールステニア王国の王女だとバレれば、直ぐに殺されてしまうかもしれないー

『どこから入り込んで来たのかは知らないが、生かしてやる変わりに、残りの人間の治癒もしろ。簡単に死なれたら、楽しめなくなるからな』
『もし……できないと言ったら?』
『魔力の問題なら、回復するまで待ってやるが、それでもできないなら、お前もの仲間入りになるだけだ。女だからって、役立たずには用はないからな。楽しませてもらうだけだ』


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