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37 愚か者達
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それからは地獄のような日々だった。
フィンレーのような人間の男達10人程が、毎日数人ずつ競技場に連れて行かれて魔獣や魔物と対峙させられ、大怪我を負って帰って来た男達を、私は毎日魔力が枯渇する寸前まで治癒を続けさせられた。
『治癒ができなくなれば、お払い箱だ』
と、毎日のように言われ続ける。それでも、バレてはいないけど、私は大国のオールステニア王国の王女だ。きっと、ありとあらゆる魔法を使って私を探してくれている筈。だから、そろそろ私を助けに来てくれる筈だ。
それよりも、問題はフィンレーだ。再会した時はたまたま首に着けられていた魔道具が壊れていて話せたけど、あれからすぐにまた新しい魔道具が着けられたせいで、今迄何があったのかは訊けていないけど、殆どの魔力を失っている。そうして、魔法が使えないフィンレーは、剣だけで戦っているのだけど、剣だけでは普通の騎士と変わらない程度の実力しかなかった。
ーこんな時に役に立たないなんてー
魔道騎士団で眉目秀麗。王女で聖女の私の隣に立つには相応しい男だったのに、今では何もかもがボロボロで見苦しい。マシロにお似合いなのかもしれない。
「帰ったら、婚約解消も考えないとね」
「…………」
ポツリと呟いた声がフィンレーに聞こえたのかどうかは分からないけど、フィンレーが私の方を見ていた事には気付かないふりをして、私はそのまま男達の治療を続けた。
******
それから更に5日ほどして、ようやく影と魔道騎士の2人が現れた。その影は、王女の影ではなく、王太子の影だった。
『直ぐに転移します』
とだけ言い、影が私を支え、魔道士の1人がフィンレーを支え、もう一人の魔道士が転移の魔法陣を展開させ、私とフィンレーはようやく地獄の日々から抜け出す事ができた。
『お二人とも、魔力が枯渇仕掛けています。魔力回復には時間が掛かりますが、時間が掛かっても元通りになる事はないかもしれません』
王国一の医者の診断結果だった。
「どうしてなの!?私は、今迄たくさんの者達を癒やして来たのに、どうして私は救われないの!?私が何をしたと言うの!?人助けをしただけよ!今回だって、あの女に陥れられたのよ!」
「だから、私が何度も忠告をしただろう」
「お兄様!?」
あまりの苛立ちに叫んでいると、そこにお兄様が現れた。
「“渡り人には手を出すな”と忠告をしたのにも関わらず、お前はその渡り人に手を出したんだ」
「私だって、マシロが聖女ユマと関わりのある者だと知っていたら、手を出さなかったわ!それに、本当に手を出したのは私じゃないわ」
「お前はまだ分かってないな。そもそも、相手が誰であろうが、自分勝手な理由で他人の命を脅かそうとする事自体が駄目なんだ。しかも、お前は王族で国民を護るべき立場にあるんだ。自分が直接手を出していないとは方便だ。お前自身、自分の言葉一つで動いてくれる者に囁いていただろう?それは、お前がした事も同然だ」
お兄様だけは、いつも私に厳しかった。私には甘いお父様でさえ、今回は私を庇ってはくれない。
「聖女ユマが私やフィンレーにした事は?私達も、命の危険に晒されたわ」
「はぁ………先に仕掛けたのはお前だろう?勝手に人を召喚させておいて放置して、その渡り人を殺そうとした。それが、お前達に返って来ただけだろう?」
「でも、2人とも無事だったじゃない!私達は、魔力を失う事になったのに!」
聖女ユマにはとてつもない魔力があった。マシロはもともと魔力はなかった。なら、私達の方が被害が大きいのだから、聖女ユマにも制裁を加えるべきだ。
「ここまで来ると愚かでしかないな。特に光属性は女神が与える力だ。それを失うと言う事は、女神がそう判断したと言う事だ」
「な───っ!」
「“助けてあげたから、私を助けるのは当たり前”といつも言っていたな?それなら、“殺そうとしたから、私を殺そうとしても良い”のだろう?」
「それは、屁理屈ですわ!」
「そうだね、屁理屈だね。ようやく理解した?もう遅いけどね。あぁ、それと、お前とフィンレーの婚約は解消しないし、寧ろ、既に婚姻届が受理されたから、治療が終わって医者の許可が出たら、直ぐに領地に出立してもらうから」
「は!?婚姻届!?私、サインなんて──」
婚姻届にサインをした覚えはないし、フィンレーとの婚約を解消してもらおうと思っていたのに。魔力が無くなった魔道騎士など、何の価値も無いのだから。
「フィンレーから、早く婚姻をしたいと願われてね。その願いを国王が快く受け入れてくれて、スムーズにいったんだよ。おめでとう。まさか、嫌だなんて言わないよね?どうしても欲しくて奪ったも同然なんだから」
ニコニコと微笑むお兄様の目は冷たいままだ。
フィンレーがこれから先、魔道騎士として生きて行く事は不可能だろう。私も、魔力が戻らなければ聖女ではなくなり、魔法すら使えなくなる。もう既にフィンレーの元に降嫁した状態で王女でも無い。
そのフィンレーには、一応王女であった私の夫として“伯爵”を叙爵されたけど、その領地は最北端に位置する辺境地だった。そこに行けば、社交界に戻る事は不可能に近いと言える。
ーどうして私がこんな目に?ー
どう嘆いても足掻いても、もう私の言葉を聞いてくれる者は居なかった。
フィンレーのような人間の男達10人程が、毎日数人ずつ競技場に連れて行かれて魔獣や魔物と対峙させられ、大怪我を負って帰って来た男達を、私は毎日魔力が枯渇する寸前まで治癒を続けさせられた。
『治癒ができなくなれば、お払い箱だ』
と、毎日のように言われ続ける。それでも、バレてはいないけど、私は大国のオールステニア王国の王女だ。きっと、ありとあらゆる魔法を使って私を探してくれている筈。だから、そろそろ私を助けに来てくれる筈だ。
それよりも、問題はフィンレーだ。再会した時はたまたま首に着けられていた魔道具が壊れていて話せたけど、あれからすぐにまた新しい魔道具が着けられたせいで、今迄何があったのかは訊けていないけど、殆どの魔力を失っている。そうして、魔法が使えないフィンレーは、剣だけで戦っているのだけど、剣だけでは普通の騎士と変わらない程度の実力しかなかった。
ーこんな時に役に立たないなんてー
魔道騎士団で眉目秀麗。王女で聖女の私の隣に立つには相応しい男だったのに、今では何もかもがボロボロで見苦しい。マシロにお似合いなのかもしれない。
「帰ったら、婚約解消も考えないとね」
「…………」
ポツリと呟いた声がフィンレーに聞こえたのかどうかは分からないけど、フィンレーが私の方を見ていた事には気付かないふりをして、私はそのまま男達の治療を続けた。
******
それから更に5日ほどして、ようやく影と魔道騎士の2人が現れた。その影は、王女の影ではなく、王太子の影だった。
『直ぐに転移します』
とだけ言い、影が私を支え、魔道士の1人がフィンレーを支え、もう一人の魔道士が転移の魔法陣を展開させ、私とフィンレーはようやく地獄の日々から抜け出す事ができた。
『お二人とも、魔力が枯渇仕掛けています。魔力回復には時間が掛かりますが、時間が掛かっても元通りになる事はないかもしれません』
王国一の医者の診断結果だった。
「どうしてなの!?私は、今迄たくさんの者達を癒やして来たのに、どうして私は救われないの!?私が何をしたと言うの!?人助けをしただけよ!今回だって、あの女に陥れられたのよ!」
「だから、私が何度も忠告をしただろう」
「お兄様!?」
あまりの苛立ちに叫んでいると、そこにお兄様が現れた。
「“渡り人には手を出すな”と忠告をしたのにも関わらず、お前はその渡り人に手を出したんだ」
「私だって、マシロが聖女ユマと関わりのある者だと知っていたら、手を出さなかったわ!それに、本当に手を出したのは私じゃないわ」
「お前はまだ分かってないな。そもそも、相手が誰であろうが、自分勝手な理由で他人の命を脅かそうとする事自体が駄目なんだ。しかも、お前は王族で国民を護るべき立場にあるんだ。自分が直接手を出していないとは方便だ。お前自身、自分の言葉一つで動いてくれる者に囁いていただろう?それは、お前がした事も同然だ」
お兄様だけは、いつも私に厳しかった。私には甘いお父様でさえ、今回は私を庇ってはくれない。
「聖女ユマが私やフィンレーにした事は?私達も、命の危険に晒されたわ」
「はぁ………先に仕掛けたのはお前だろう?勝手に人を召喚させておいて放置して、その渡り人を殺そうとした。それが、お前達に返って来ただけだろう?」
「でも、2人とも無事だったじゃない!私達は、魔力を失う事になったのに!」
聖女ユマにはとてつもない魔力があった。マシロはもともと魔力はなかった。なら、私達の方が被害が大きいのだから、聖女ユマにも制裁を加えるべきだ。
「ここまで来ると愚かでしかないな。特に光属性は女神が与える力だ。それを失うと言う事は、女神がそう判断したと言う事だ」
「な───っ!」
「“助けてあげたから、私を助けるのは当たり前”といつも言っていたな?それなら、“殺そうとしたから、私を殺そうとしても良い”のだろう?」
「それは、屁理屈ですわ!」
「そうだね、屁理屈だね。ようやく理解した?もう遅いけどね。あぁ、それと、お前とフィンレーの婚約は解消しないし、寧ろ、既に婚姻届が受理されたから、治療が終わって医者の許可が出たら、直ぐに領地に出立してもらうから」
「は!?婚姻届!?私、サインなんて──」
婚姻届にサインをした覚えはないし、フィンレーとの婚約を解消してもらおうと思っていたのに。魔力が無くなった魔道騎士など、何の価値も無いのだから。
「フィンレーから、早く婚姻をしたいと願われてね。その願いを国王が快く受け入れてくれて、スムーズにいったんだよ。おめでとう。まさか、嫌だなんて言わないよね?どうしても欲しくて奪ったも同然なんだから」
ニコニコと微笑むお兄様の目は冷たいままだ。
フィンレーがこれから先、魔道騎士として生きて行く事は不可能だろう。私も、魔力が戻らなければ聖女ではなくなり、魔法すら使えなくなる。もう既にフィンレーの元に降嫁した状態で王女でも無い。
そのフィンレーには、一応王女であった私の夫として“伯爵”を叙爵されたけど、その領地は最北端に位置する辺境地だった。そこに行けば、社交界に戻る事は不可能に近いと言える。
ーどうして私がこんな目に?ー
どう嘆いても足掻いても、もう私の言葉を聞いてくれる者は居なかった。
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