召喚先は、誰も居ない森でした

みん

文字の大きさ
45 / 78

45 間違える筈の無い者

しおりを挟む
相変わらず竜化できないまま1週間が過ぎた。
竜化ができないと、竜力もうまくコントロールできないそうで、今はゆっくり竜化する事に集中する事にななり、アルマンさんやカイルスさんが来る事も少なくなった。キースは基本、隼の姿で側に居てくれている。

『護衛ですから!』

護衛と言いつつ、隼の姿で居るから、私にとっては“護衛”と言うよりも“癒やし”的な存在だ。それでもキースは竜騎士。竜人が竜騎士になるよりも、獣人が竜騎士になる事の方が凄い事らしい。
獣人の魔力持ちは居ない。その代わり、身体能力がずば抜けている。竜騎士になるには、勿論剣術や武力に長けていないといけないけど、魔力や竜力に耐性がなければならないそうだ。カイルスさんやキースのように獣人で竜騎士なのは、ほんの一握りしか居ないらしく、ある意味“エリート”と呼べるんだとか。
そんなエリートなキースが、私の護衛とは、有り難いやら畏れ多いやら……

「キース、いつもありがとう」
『こちらこそ、ありがとうございます!』

ー「え?何が?」とは、訊かないでおこうー





*翌日*


気分転換に──と、お母さんと2人でお出掛けする事になった。キースも、私達から付かず離れずな位置で付いて来ている。

「今日は、マシロの服を買うわよ」
「なら、お母さんのも買おう」
「それじゃあ、お互いの服を見立て合うのも良いわね」

それから、色んなお店を回って服を買ったりお茶をしたりと、1日楽しく買い物をした。日本でもここまで2人で歩き回った事がない位歩いた。

ーこれからも、2人で楽しく過ごしていけたら良いなぁー



******


「今日は久し振りだから、少し豪華にいっちゃう?」
「賛成!」

今日は、久し振りにレナルドさんと3人で夕食を食べれると言う事で、食材を買って早目に帰ろうと言う事になった。その、帰り道の事だった。商店街から少し外れた道に差し掛かった時「すみません」と声を掛けられた。フードを被っていて顔はよく見えないけど、声からすると女性のようだ。

「“レッカー”と言うお店は、この道筋で合っていますか?」
「レッカーなら、次の三角で左に行けばありますよ」
「ありがとうございます」

お母さんが答えると、その女性はそのままその方角へと歩いて行った。

「レッカーも、ランチが美味しいって聞いた事があるわ。また、行ってみよっか?」
「うん。楽しみにしてる!」

そうしてまた、私達は歩みを進めた。






*ベレニス視点*

「どうして…………」

先程、声を掛けた母娘の背中を見つめる。

私がを間違える筈が無い。

茶色の髪と瞳で、魔力は感じられなかった。

最後に会った時は、少しピリッと感じる程の魔力を纏っていた。あの時は、真っ黒な髪と瞳をしていた。あの時の瞳は、“怒り”を宿していたのを鮮明に覚えている。竜人の私の攻撃をいとも簡単に払い除けた。

「ユマ」

見掛けは聖女ユマとは違うけど、あれはユマだ。恋敵だった憎き者で、何度も追い掛けたから覚えている。姿は違うし魔力も感じられなかったけど、私の感覚や本能が、“あの女はユマだ”と訴えかけている。


“オールステニアにて、イーデン様が人間の女性と接触。人違いではあったが、その女性を『ユマ』と呼んでいた”

その報告の後、数日見張らせていたが、特に問題は無さそうで、見張りを解く──前に、念の為にと、私がその女を確認しに来て見れば……ユマだった。

魔力は失ったのか?
どうして容姿が違っているのか?

「今更、どうして姿を現したの?」

そんな理由はどうだって良い。幸いな事に、イーデンはユマと接触したにも関わらず、本人だと認識できなかったのだ。イーデンがユマを探しているとしても、イーデンが気付く前にユマを片付ければ良いだけ。容姿は違っていても、あの女がイーデンの瞳に映らなければ良いだけ。もし、魔力が本当に失われているなら問題無い。魔力の無い人間はだから。



******

「どうして上手くいかないの!?」
「申し訳ありません」

直ぐにと思っていたのに、未だにユマはオールステニアで生きている。刺客を放ってみたけど、“住んでいる家にさえ辿り着く事ができない”と言う報告が上がった。そして、調べてみると、魔道士の家に住んで居るようで、許可された者以外の者が近付けないような結界が張られていた。その上、ユマは滅多に外出する事がない。
私が竜化して攻撃すれば一瞬だろうけど、そんな事をオールステニアですれば大問題になるし、イーデンにも迷惑を掛けてしまう。

「一体どうしたら………」
「いつでも手を貸します──と、言ったでしょう?」
「っ!誰!?」

私とトリオールの影の2人しか居ない筈の部屋に、男が現れた。黒色の髪に、金色の瞳。その姿は一度、目にすると忘れられない程の美しさと冷たさを持っている。


『聖女を排したいなら、手伝ってやろうか?』


以前、私にそう話し掛けて来た男だ。あの時は断った。あの時、素直に受け取って片付けておけば、再びこんな思いをする事も無かった。

「貴方の目的は何?」
「聖女が邪魔なだけだ………魔族の為に」

その男は、魔族の者だった。





しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

わたしの方が好きでした

帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。 売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。 「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」 周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。 彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。 しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。 「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」 そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。 「エル、リゼを助けてあげて頂戴」 リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。 『夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜』から改題しました。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

処理中です...