46 / 78
46 穢れと綻び
しおりを挟む
「茉白、大丈夫?」
「ん………」
この世界にやってきて半年が過ぎた。
そして、この世界で初めて風邪をひいたようです。ただの風邪だけど、日本に居た時も滅多に風邪をひく事もなかったから、少しの熱でも体が重くて動けない。意識もぽやぽやとしている。
「薬を飲む前に、何か口にした方が良いんだけど、何か食べれそうなものはある?」
「ん……玉子粥が食べたい……」
「分かったわ。少し待ってて」
そう言うと、お母さんは私の頭を一撫でしてから部屋から出て行った。
ーお母さんのお粥を食べるのは、いつぶりだろう?ー
食欲が無い時に作ってくれていた玉子粥。和風だしじゃなくて鶏ガラのお粥。この世界にも、輸入品だけどお米があった。海苔は見た事がないから、刻み海苔が掛かっていないお粥かな?
「………」
ーカイルスさん……達は元気かな?ー
実は、1ヶ月ぐらい前からカイルスさんとアルマンさんには会っていない。レナルドさんも家を不在にする日が増えた。キースは、隼のままで側に居るけど。
『王都から少し離れた所だが、急に穢れが溢れて魔獣が現れたそうだ』
と、レナルドさんが言っていたのが1ヶ月半ぐらい前。
『竜王国もまた、綻びが現れた』
と、アルマンさんが言っていたのが1ヶ月前だった。
それからは、レナルドさんは魔道士として魔獣狩りに行く事が増えた。アルマンさんとカイルスさんも、竜騎士として国内の警邏に駆り出されているそうだ。
お母さんは特例的なチートな聖女だけど、普通の聖女もこの世界には存在している。その聖女達が、穢れを浄化しているけど、浄化するスピードと同じスピードで穢れも溢れているそうで、“イタチごっこ”状態なんだそうだ。
そんな大変な時に、まさかの風邪。元気だったとしても、私にできる事は何も無いけど、レナルドさん達に心配をかける事はなかったのに。
それよりも、少し心配なのがお母さんだ。お母さんが聖女として救った国が、また穢れで平穏が崩れるようとしている。きっと、また『救いたい』と思っている筈だ。私の為に魔力を封印している状態なだけで、魔力はあるしパワーアップまでしているそうだから、尚更、何もできない自分にもどかしさを感じているかもしれない。
ーせめて私が竜化できて、ベレニスさんやイーデンさんに立ち向かえられたら良いのにー
暫くしてお粥を持って来てくれたお母さんは、いつも通り優しい顔のままで、私が薬を飲んで眠りに就く迄側に居てくれた。
*由茉視点*
薬を飲んで、ようやく眠りに就いた茉白の寝顔は、まだ少し息苦しそうだ。
茉白が風邪をひくのはいつぶりか?幼児の頃はごくごく普通に風邪をひいたりしていた。それが、10歳を超えると滅多に風邪をひく事がなくなった。免疫が強いのか?とも思ったりしたけど、竜人だからだった。フィレを赦す事は無いけど、茉白をこの世界に召喚した事だけは褒めても良い。あのまま日本で人間として生きていたら、茉白の体がどうなっていたか───。体内に蓄積された竜力が溢れて暴走して、若いうちに死んでしまっていたかもしれない。茉白が居なくなる──何て事は耐えられない。私の宝物で、私の存在意義で、私の愛するたった1人の娘。茉白の為なら、イーデンすら切り捨てられると思うのだから、私は酷い女なのかもしれない。
ー“良い女”である前に“良い母親”でありたいー
だから、私は一切迷わずに、この世界とイーデンを捨てて日本に帰ったのだ。後悔なんて微塵も無かった。
『この穢れの溢れ具合は、少し異常だと思う。国王陛下が直ぐに動いて調査を始めたみたいで、レナルドにも手伝って欲しいと依頼があった』
国王の判断は正しい。娘の教育は失敗したけど、その他が優秀なのは健在で良かった。
兎に角、あの時の私の浄化は完璧だった。100年は穢れが溢れ出す事は無いと言う自信もあった。それが、たったの二十数年で溢れ出すのはおかしい。勿論、魔素が存在する限り、多少の穢れが出るのは仕方の無い事だ。ただ、溢れ出すスピードが早過ぎる。自然に発生するものでは無い。それも、竜王国の綻びも同時にとは。
だから、ベネットも“作為的なものがある”と判断したんだろう。本当は、ベネットもレナルドさんも、私に協力を頼みたいのだろうけど、事情を考慮してくれているんだろう。喩え、協力を願われたとしても、今の私は応える事はできないけど。この世界が嫌いな訳じゃない。寧ろ、第二の故郷として親しみを持っている。ただ、今は茉白が何よりも一番だと言う事だ。私が聖女の力を発揮すれば、必ずイーデンとベレニス様が動く。私はともかく、茉白を危険に晒す事はしたくない。国より娘を選ぶ私は、聖女の資格すら無いのかもしれない。それでも──
「茉白、早く元気になってね」
私の一番は、茉白だ。
「ん………」
この世界にやってきて半年が過ぎた。
そして、この世界で初めて風邪をひいたようです。ただの風邪だけど、日本に居た時も滅多に風邪をひく事もなかったから、少しの熱でも体が重くて動けない。意識もぽやぽやとしている。
「薬を飲む前に、何か口にした方が良いんだけど、何か食べれそうなものはある?」
「ん……玉子粥が食べたい……」
「分かったわ。少し待ってて」
そう言うと、お母さんは私の頭を一撫でしてから部屋から出て行った。
ーお母さんのお粥を食べるのは、いつぶりだろう?ー
食欲が無い時に作ってくれていた玉子粥。和風だしじゃなくて鶏ガラのお粥。この世界にも、輸入品だけどお米があった。海苔は見た事がないから、刻み海苔が掛かっていないお粥かな?
「………」
ーカイルスさん……達は元気かな?ー
実は、1ヶ月ぐらい前からカイルスさんとアルマンさんには会っていない。レナルドさんも家を不在にする日が増えた。キースは、隼のままで側に居るけど。
『王都から少し離れた所だが、急に穢れが溢れて魔獣が現れたそうだ』
と、レナルドさんが言っていたのが1ヶ月半ぐらい前。
『竜王国もまた、綻びが現れた』
と、アルマンさんが言っていたのが1ヶ月前だった。
それからは、レナルドさんは魔道士として魔獣狩りに行く事が増えた。アルマンさんとカイルスさんも、竜騎士として国内の警邏に駆り出されているそうだ。
お母さんは特例的なチートな聖女だけど、普通の聖女もこの世界には存在している。その聖女達が、穢れを浄化しているけど、浄化するスピードと同じスピードで穢れも溢れているそうで、“イタチごっこ”状態なんだそうだ。
そんな大変な時に、まさかの風邪。元気だったとしても、私にできる事は何も無いけど、レナルドさん達に心配をかける事はなかったのに。
それよりも、少し心配なのがお母さんだ。お母さんが聖女として救った国が、また穢れで平穏が崩れるようとしている。きっと、また『救いたい』と思っている筈だ。私の為に魔力を封印している状態なだけで、魔力はあるしパワーアップまでしているそうだから、尚更、何もできない自分にもどかしさを感じているかもしれない。
ーせめて私が竜化できて、ベレニスさんやイーデンさんに立ち向かえられたら良いのにー
暫くしてお粥を持って来てくれたお母さんは、いつも通り優しい顔のままで、私が薬を飲んで眠りに就く迄側に居てくれた。
*由茉視点*
薬を飲んで、ようやく眠りに就いた茉白の寝顔は、まだ少し息苦しそうだ。
茉白が風邪をひくのはいつぶりか?幼児の頃はごくごく普通に風邪をひいたりしていた。それが、10歳を超えると滅多に風邪をひく事がなくなった。免疫が強いのか?とも思ったりしたけど、竜人だからだった。フィレを赦す事は無いけど、茉白をこの世界に召喚した事だけは褒めても良い。あのまま日本で人間として生きていたら、茉白の体がどうなっていたか───。体内に蓄積された竜力が溢れて暴走して、若いうちに死んでしまっていたかもしれない。茉白が居なくなる──何て事は耐えられない。私の宝物で、私の存在意義で、私の愛するたった1人の娘。茉白の為なら、イーデンすら切り捨てられると思うのだから、私は酷い女なのかもしれない。
ー“良い女”である前に“良い母親”でありたいー
だから、私は一切迷わずに、この世界とイーデンを捨てて日本に帰ったのだ。後悔なんて微塵も無かった。
『この穢れの溢れ具合は、少し異常だと思う。国王陛下が直ぐに動いて調査を始めたみたいで、レナルドにも手伝って欲しいと依頼があった』
国王の判断は正しい。娘の教育は失敗したけど、その他が優秀なのは健在で良かった。
兎に角、あの時の私の浄化は完璧だった。100年は穢れが溢れ出す事は無いと言う自信もあった。それが、たったの二十数年で溢れ出すのはおかしい。勿論、魔素が存在する限り、多少の穢れが出るのは仕方の無い事だ。ただ、溢れ出すスピードが早過ぎる。自然に発生するものでは無い。それも、竜王国の綻びも同時にとは。
だから、ベネットも“作為的なものがある”と判断したんだろう。本当は、ベネットもレナルドさんも、私に協力を頼みたいのだろうけど、事情を考慮してくれているんだろう。喩え、協力を願われたとしても、今の私は応える事はできないけど。この世界が嫌いな訳じゃない。寧ろ、第二の故郷として親しみを持っている。ただ、今は茉白が何よりも一番だと言う事だ。私が聖女の力を発揮すれば、必ずイーデンとベレニス様が動く。私はともかく、茉白を危険に晒す事はしたくない。国より娘を選ぶ私は、聖女の資格すら無いのかもしれない。それでも──
「茉白、早く元気になってね」
私の一番は、茉白だ。
370
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜
平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。
レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。
冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。
わたしの方が好きでした
帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。
売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。
「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」
周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。
彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。
しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。
「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」
そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。
「エル、リゼを助けてあげて頂戴」
リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。
『夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜』から改題しました。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝
饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。
話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。
混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。
そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変!
どうなっちゃうの?!
異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。
★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。
★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。
★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい
はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。
義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。
それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。
こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…
セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。
短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる