召喚先は、誰も居ない森でした

みん

文字の大きさ
47 / 78

47 愛おしい存在

しおりを挟む
*竜王バージル視点*



『レナルド様の結界のお陰で辿り着く前に片付けてますけど、何者かがユマ様かマシロを狙っているようです』

と、キースから報告があったのは、オールステニアに穢れと竜王国に綻びが現れる少し前の事だった。

「偶然ではないだろうな」

ユマの浄化は完璧だった。100年以上は保たれるだろうと思われる程に。
少し前に、ウィンストン伯爵家ではなく、トリオール公爵家が動いていると言う報告があった。これも、偶然ではないだろう。おそらく、イーデンは何も気付いていないだろう。毎日いつも通り登城しているが、偶に上の空になる事はあっても、何かを企んでいる様子は全く無かった。

「ベレニスが気付いたか?」
「かもしれませんね。“女の勘”は侮れませんから」

竜人が魔獣や魔物を操る事はできない。ましてや、穢れを溢れ出させる事も綻びを作るのも無理だ。なら、ベレニスに手を貸している魔族が居ると言う事だ。竜王国を手に入れたい者にとって、聖女ユマは邪魔者でしかないから、ベレニスを利用してユマを消すつもりなんだろう。

「マシロは、竜化できたのか?」
「まだのようです。そう簡単には無理ですよ。寧ろ、竜力の流れを掴んで上手く流せるようになった上、他の竜人の竜力の違いが判る方が凄過ぎるんです」
「分かっている。ただ、確認しただけだ」

せめて、マシロが竜化できれば、ユマも少しは安心できるかもしれないし、ベレニスも簡単に手を出す事を諦めるかもと思っただけだ。

「それで、カイルスがオールステニアに行っているのか?」
「はい。レナルド殿が不在になるとの事で、カイルスが行きました」
「ならひとまずは安心だな。それじゃあ、アルマンは西の確認を頼む」
「承知致しました」

竜王国で綻びが現れたのは、守護竜不在の西。魔族が手を出すとすれば西からだろう。

ー本当に、舐められたもんだなー

たった一つの綻びで、我ら竜人を支配できると思っているから、魔族の王にもなれないと言う事が分からないのだ。勿論、実力で言っても今の魔王が一番だろうけど。

王弟ダミアン

先の人身売買オークションでの幻獣に関わっていた魔族が、現魔王の実弟のダミアンだった。今回の穢れや綻びの急激な悪化も、そのダミアンが関わっている可能性が高いと、実兄である魔王ダグラスから親書が届いた。これで、あのオークションにが居た事も納得だ。

今回は、魔王も動いてくれると言う事で、魔族に関しては魔王に任せれば良い。こちら側の問題としては、“綻び”と“ベレニス”だけだ。

「イーデンをどうするか──だな」

イーデンがユマに対して、どんな対応に出るかの判断が難しい。番のベレニスを優先するなら、迷わずユマとマシロに手を出すだろう。それだけは阻止したい。

「番とは、憧れと同時に厄介なものだな……」






*カイルス視点*


「マシロは大丈夫ですか?」
「今さっき、薬を飲んで寝たところなの」

レナルド殿の家にやって来ると、マシロが風邪ひいて寝込んでいた。

「茉白が風邪をひくなんて、久し振り過ぎで驚いたわ」

ふふっと苦笑するユマ様だが、心配なんだろう。いつもの様な明るさは無いし、疲れているようにも見える。

「ユマ様も、少し休んではどうですか?俺がマシロを看ておきますから」
「そう?カイルスさんなら安心だから、お言葉に甘えて、少し休ませてもらおうかな」
「そうして下さい。これでユマ様まで倒れたら、それこそマシロが心配するだろうから」
「ありがとう。お願いします」

そう言うと、ユマ様は部屋から出て行った。
マシロは──と、ベッドで寝ているマシロを覗き見ると、少し息苦しそうな顔で寝ていた。風邪だと言っていたが、これ迄の疲れや、いきなりの体質の変化によるものもあるのかもしれない。

「本当に、マシロは小さいな……」

初めて会った時よりは健康的になったとは言え、年齢からしても平均的な女性よりは小柄な事には変わりない。竜人は比較的しっかりした体付きをしているが、マシロはユマ様に似て、見た目だけで言うと人間の女性よりも小柄だ。それ故に、マシロが気になって仕方無い。風や雨からも護らなければ─と思ってしまう。竜人だから、実際は俺より強いんだろうけど。それでも、“マシロは俺が護りたい”と思うのは──

ー俺はマシロの事が好きなんだろうか?ー

どんなマシロを見ても、“可愛い”や“愛おしい”と言う言葉しか出て来ない。キースのマシロへの執着が番であるが故なら───

ーキースを消していたかもしれないー

と言う事は、俺だけの秘密にしておく。キースはキースで、俺にとっては可愛い弟のような存在だ──と自分に言い聞かせている事も、俺だけの秘密にしておく。

兎に角、マシロやユマ様に、何も起こらなければ良いんだが……そうはいかないだろうから、俺がこれからもマシロを護る。ただ、それだけだ。






******


『ゔゔ……なんか殺気?悪寒?が……気のせいかな?』

と、キースが呟いた。





しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

わたしの方が好きでした

帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。 売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。 「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」 周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。 彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。 しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。 「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」 そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。 「エル、リゼを助けてあげて頂戴」 リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。 『夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜』から改題しました。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

処理中です...