召喚先は、誰も居ない森でした

みん

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52 プラータ王子

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「本当に、いい加減にしてもらえますか?」

前に会った時は泣いていた。ギュッと握られた小さな手を覚えている。あれからどうなったのか──気になっていた。自分が生き延びる事だけでいっぱいいっぱいで、助けてあげられなかったけど。

「無事……だったんだ……」
「ん?………あ……あの時の!」

私が呟くと、その男の子も私に気付いたようで、更に笑顔になった。

!?どうしてここに!?結界を張っていた筈なのに!」

魔族の人が、その男の子に驚いているが、男の子の方は笑顔のまま軽くため息を吐いた。

「お姉さん、あの時はありがとうございました。詳しい事はまた後で──先ずは、魔族の王子として、この場を預からせてもらいます」
「魔族の………おう……王子!?」

どうして魔族の王子があんな所に?
この場を預かるとは?

の結界なら、何の問題も無く入れましたよ?」
「なっ!?」
「叔父上は、相変わらず自分の力と相手の力を読む事ができないようですね?」

魔族の王子が「叔父上」と呼ぶのなら、この魔族の人は魔王の弟と言う事だ。そんな偉い人が、どうして聖女お母さんを狙うのか?

「叔父上の力では、竜騎士1人も仕留められませんよ」

とプラータ王子が言うと、真っ黒な炎で包まれていた筈のカイルスさんから炎が消えてなくなり、何事も無かったかのように、そこに立っていた。
“獣人が竜騎士になるには、魔法に耐性がなければならない”とは、こう言う事だったんだ。ベレニスさんの方は、かなりダメージを受けたようで、未だに蹲ったまま動かない。

「叔父上が今迄して来た事の証拠も揃いました。もう、おとなしくしてもらいます」

プラータ王子が手を翳すと、その指先から王弟に向かって蔦の様な物が飛び出した。

「ふざけるな!」

と叫んで攻撃魔法を放つ。

「それは、貴方の方よ!」
「なっ!?」

と、お母さんが、その攻撃魔法を吸収して更に倍にして王弟へと攻撃魔法を放った。それは、至近距離で展開された一瞬の出来事で、王弟はそれに反応し切れずまともに攻撃を喰らって、その場に倒れ込んだ。その倒れ込んだところを、プラータ王子の出した蔦が王子を捕らえて縛り付けた──上から、お母さんが更に何かの魔法を掛けている。容赦が無い。

「この“戒めの拘束”は、とある国の魔法使いから教えてもらったもので、縛られた者の魔力を少しずつ奪って行くんです。足掻けば足掻く程吸収が早くなるので、おとなしくしている方が良いですよ?」

とんでもない拘束魔法だよね?魔族から魔力が無くなれば、魔族じゃなくなるどころか死んでしまうのだから。その、とある国の魔法使いもだけど、流石は魔族の王子。まだまだ幼いのにこんなにも凄い魔法が使えるとは。と考えていたところでハッとする。

「あ!カイルスさん!大丈夫ですか!?」

出血した上に炎に包まれたのだ。何ともないと言う事はない筈。

「俺は大丈夫」

カイルスさんが言う通り、炎に包まれた筈だけど、火傷を負っている感じは全く無い。ただ、右肩からは血が流れている。

「どうしよう!?縛って止血しないとですよね!?」
「茉白、落ち着いて。私に任せて」

と言うと、お母さんがあっと言う間に治癒魔法で治してくれた。

「お母さん!お母さんも大丈夫!?」
「正直、流石に少し疲れたけど大丈夫よ」
「良かった!」

勢い良く抱きついた私を、お母さんはしっかりと受け止めてくれた。

ーお母さんもカイルスさんも無事で良かったー

「今回の事は、すみませんでした」

頭を下げて謝っているのはプラータ王子。

「この件の謝罪は、改て王からさせていただきます」
「竜王陛下にも伝えておきます」
「ユマ!!」

そこで現れたのは、転移魔法陣で転移して来たレナルドさんだった。

「レナルドさん!?どうしてここに?」
「私の結界が破られたから、急いで戻って来たんだ。大丈夫だった?」
「見ての通り大丈夫よ。それに、私がちょっとやそっとでヤラれる事は無いって知ってるでしょう?」
「それは分かっているけど、それと、心配するしないは関係無い」
「……ありがとう。えっと……ベレニスさんはどうしようかしら」

レナルドさんは、私達─主にお母さんの事を心配して戻って来てくれたようだ。
ベレニスさんは、未だに竜の姿で蹲ったままで動かない。王弟に一体何をされたのか。

ーこのまま暴れたりしなければ良いけどー

「取り敢えず、これ以上暴れないように拘束して、竜王国に報告を飛ばそう」
「竜を拘束するなら、僕がしましょうか?」
「プラータ王子!?」

レナルドさんも、プラータ王子の事は知っているようだ。友好関係にあると言っていたから、面識があってもおかしくないのかもしれない。兎に角、より確実にと言う事で、プラータ王子がベレニスさんに拘束の魔法を掛ける事になった。

「マシロは怪我をしたりしていないか?」
「はい。キースさんが護ってくれたので大丈夫です」

私とカイルスさんが話している間に、レナルドさんがベレニスさんから離れて行き、代わりにプラータ王子がベレニスさんへと歩み寄る。そして、プラータ王子が手を翳そうとした時──

『イーデンの子は、リシャールだけよ!』
「「「「「マシロ!!」」」」」
「──っ!?」


ベレニスさんが、竜の尻尾を振り上げた───


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