召喚先は、誰も居ない森でした

みん

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71 三度目

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“ボラム”

竜王国では少し珍しい果物で、あまり知られていない。実の部分は甘酸っぱくて美味しいけど、木の根には毒性がある。でも、木の根を直接口にしなければ問題無いし、竜人や獣人が口にしてしまったとしても、数日お腹が緩む程度で済む。でも、人間は違う。人間は、最悪の場合死に至る事もある。

「無味無臭だから気付かないし、人間にしか毒にならないから、一緒に口にしても竜人のベレニスさんに被害がなかっただけでしょう」
「な───つ」
「ベレニスを拘束しろ!」
「ベレニスに触るな!」

竜王バージルさんが、ホールに控えていた騎士に指示するのと同時に、イーデンさんがベレニスさんを護るように竜力を溢れさせた。流石は竜騎士副団長だ。その圧力が半端無い。普通の竜人なら動けない程だ。イーデンさんがカイルスさんの手から離れ、アルマンさんからベレニスさんを奪うようにして抱き寄せた。

ーやっぱり、イーデンさんはベレニスさんを護るのかー

それは、違う視点からすると美談なんだろうと思うけど、他人の命を奪ってまで手に入れようとするのは、自分勝手で傲慢でしかない。

「ベレニスさんは、これで満足しましたか?」
「満足なんてしてないわ!だって、まだお前が生きているんだから!」

その言葉に反応したのは、キースだった。

「お前は、一体誰を手に掛けようとしているんだ?」

さっきまで私の後ろに居た筈のキースが、ベレニスさんの首元に短剣を突き付けている。「えー!?」と、驚きの声を我慢できた自分が偉い。

その間に、竜騎士がイーデンさんとベレニスさんに拘束具をはめて取り押さえた。


「本当に……予想通りやってくれたわね」
「な……何で………」
「大丈夫か?ユマ」
「大丈夫よ」

そこで、ゆっくりと立ち上がるお母さん。決してホラーじゃない。

「何故生きているの!?」
「私が、貴方から手渡された飲み物を、何もせずに飲むと思ったの?謝罪されたから大丈夫!って飲むと思ったの?私は脳内お花畑な聖女じゃないのよ」

そう。これはお母さんの予想通りの流れだった。






**3日前**


「パーティーの鉄板はね、“毒を盛られる”か“媚薬を盛られる”か“ドレスに赤ワインをぶちまけられる”のどれかなのよ」
「お母さん、ラノベの読み過ぎ……」
「“ラノベ”は分からないが、その可能性は高いな」

レナルドさんが同意する。

「そこでなんだけど、例えば、竜人には効かなくて、人間には効くような毒物性の物ってある?」

そんな都合の良い毒があるのか──と突っ込もうとすると、キースがボラムの事を教えてくれたのだ。

それから念の為に、竜王と守護竜と側衛、レナルドさんとカイルスさんとアルマンさんとマイラさんには事前に話をつけて、何か起こっても静観するようにお願いした。

「私が自分自身でけりを付けるわ」



****

正直、こんなにも人目がある中で、ベレニスさんが仕掛けて来るとは思わなかった。守護竜の母であり救国の聖女に手を掛けたのが、竜騎士副団長の番。ホール内は騒然としている。もう、ここまで来ると隠す事は不可能だ。この場に、息子のリシャールが居ない事だけが不幸中の幸いなのかもしれない。リシャールは、この騒ぎの少し前に、休憩室に下がって行ったそうだ。

“息子のリシャールは、何も知らない。関係無い”

と言う事を表しているのか。ベレニスさんの息子に対する親心なのかもしれない。

は無い─と、竜王陛下から聞いていなかった?」

お母さんの“三度目”と言う言葉に、更にホール内がざわめく。

「これからも、マシロや私に攻撃を続けるのなら、私も容赦しないと忠告したわよね?」
「お前が悪いのよ!お前が、イーデンの──っ!?」

大声で叫び出したかと思えば、突然口をパクパクと動かすだけで声が出なくなった。

「見苦しいですね。折角のお祝いムードが台無しですし……その2人には静かに退場してもらった方が良いのでは?」

そう言って、冷たい視線をベレニスさん達に向けているのはプラータ。魔法でベレニスの声を消しているのか?

「それもそうだな。そのまま、その2人を地下牢に入れておけ」

バージルさんの命令に、竜騎士が2人をそのままホールから連れ出して行った。
大丈夫だろうけど念の為に─と、レナルドさんの付き添いで、お母さんも部屋に下がって行った。

その後もホール内は騒然としていたけど、バージルさんがお詫びにと、希少なフルーツとワインを振る舞い、少しずつ落ち着きを取り戻していき、日付けが変わる少し前に、祝賀パーティーはお開きとなった。




「プラータ、さっきはありがとう」
「あの女は、全く反省してなかったね。2度目の時に処罰しておけば良かったのに……皆、優しいよね」

優しくは無い。二度目で処罰を下していれば、あの2人はもう少しマシな罰だったかもしれない。敢えて、二度目は見逃されたのだ。三度目もあると確信した上で。

きっと、もう私があの2人に会う事はないだろう。




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