召喚先は、誰も居ない森でした

みん

文字の大きさ
73 / 78

73 北の守護竜

しおりを挟む
*竜王バージル視点*



「はい。終わりました。後の事は、竜王陛下にお任せしても良いですか?」
「あぁ、勿論だ。後は俺に任せて、ユマはゆっくり休むと良い」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」

そう言って地下牢から出て行くユマは、どこかホッとしたような、それでも寂しそうな顔をしていた。そのユマに付き添うレナルド。2だと思うが、お互い自分の事には疎そうだから──

「まだまだ──か?」

ガシャンッ───

「イーデン!どうして!?ユマ!」
「ベレニス=ウィンストン。まだ分からないのか?こうなったのは、自分達のせいだと言う事を。三度目は無いと言っただろう?」

ベレニスのした事は赦されるものではない。ただ、番がかつての恋人にと言うのは、辛い事なんだろうと言う事も考慮した。結局は、イーデンの曖昧な態度がこの結果をもたらしたのだ。

「イーデン、何か言う事はあるか?」
「………竜王陛下、私は………どこで間違ってしまったのでしょうか?番のベレニスを愛しく思っていたのは確かだったのに。ユマの存在を感じれば、心がざわついて……でも、目にすると憎くもあって………でも、今はただ、失ってしまった事が……辛いのです」

何を失って辛いのか?

「お前は、ベレニスに出会った時にベレニスを選んだのだ。それならば、ベレニスを大切にすべきだったんだ。ユマを追い掛けた事──それがお前の最初の間違いだろうな。その行動が、ベレニスを不安にさせて、魔族と手を組んで攻撃するまでになったんだ。更に、それを止める事も無く、ユマとマシロを攻撃したのだから、お前が全てを失ったとしても、それは自業自得だ」

ユマがイーデンから奪ったのは、番の本能。この2人は番を失ったのだ。番を失った竜が辿る道は最悪でしかない。それでも、この2人にはまだ救いがある。番の本能が無くなっても、お互いが愛し合っていれば狂い竜にはならず、穏やかに余生を過ごす事ができる。ただ、イーデンはかなりの竜力が失われているから、ベレニスよりも早くに死ぬ事にはなるだろう。そうすれば、ベレニスが狂い竜になるのは簡単に予想できる。

「お前達は、俺の領で、俺の管理の元に幽閉する」
「幽閉………」

北の守護竜が管理するのは北の領地。作物よりも鉱山資源での収入がメインだ。魔石も多く採れることから、国内では一番潤っている領地と言える。
だが、北領には知られていない土地がある。その土地が、北の守護竜が管理する土地だ。その土地は浮き島になっている上、結果を張っているから、外部からはその浮き島を目にする事はできないし、許しがなければ出入りする事はできない。狂った竜を閉じ込めておく浮き島─牢獄だ。
狂った竜達は、お互い我を忘れて攻撃し合う。大怪我をしても止まらず動き続け、数日も経てば出血多量で死ぬ──だから、態々手を下さなくとも勝手に処理ができるのだ。それでも──と言う場合は、俺が直接その狂い竜の竜力を奪うが、そんな事は滅多に無い。

西の守護竜の別名は“浄化の守護竜”
北の守護竜の別名は“終焉の守護竜”

「反省して狂い竜にもならなければ、牢獄からは出られるだろう」

これも滅多に無いが、狂い竜から元の竜に戻る事ができれば牢獄からは出る事ができる。

「お前次第だ」
『イーデン=ウィンストン次第よ』

「2人の転送の準備を頼む」
「承知しました」

後ろに控えていたネグロに指示をした後、俺は地下牢から出た。




******


2人の北領への転送が済んでから2日後──

「後は、マシロ達の西の離宮の入宮だけだな」
「あちらの準備は調っているので、後はマシロ様をお迎えするだけです」
「ようやくだな。で、ユマには申し訳無いが、ユマの入宮は翌日になる」
「分かりました」

ユマも、マシロと一緒に西領の離宮で暮らす事になった。母娘なのだから当たり前の事だ。唯一の気掛かりも無くなった。これからは、竜王国で穏やかに過ごしてもらいたい。

「ところで、レナルドはどうするんだ?」
「レナルドさん……ですか?」

『何が?』と言いたげな顔をするユマ。

「ふむ………」

やっぱり、何も分かっていないようだ。それなら、俺が敢えて言う必要はないだろう。

「いや……ユマとマシロの事だから、お世話になったレナルドの事を気にしているのではないか?と思っただけだ」
「あ、それなら、落ち着いたらマシロとお菓子を沢山作って、離宮に招待しようって話をしてます」

ふふっ…と笑うユマの顔は、何とも嬉しそうな顔だ。これで無自覚なのだから、異世界の女性はコレが標準なのか?マシロとカイルスもなかなか進まない。

「もう少し……面白くなっても良いのだがなぁ」
「?」
「竜王陛下、ぶっちゃけ過ぎです」

意味が分からない─と言う顔をするユマと、苦笑するネグロ。これからどうなるのか───

「楽しみだ」



しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

わたしの方が好きでした

帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。 売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。 「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」 周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。 彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。 しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。 「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」 そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。 「エル、リゼを助けてあげて頂戴」 リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。 『夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜』から改題しました。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

処理中です...