召喚先は、誰も居ない森でした

みん

文字の大きさ
75 / 78

75 出迎え

しおりを挟む
私が入宮した翌日─

早朝に使用人達がやって来た。
初めて離宮に入る人達は、主である私が迎え入れなければ門にも入れない為、私のも朝早くから起きて準備をした。



「貴方達を歓迎します」
「「「「ありがとうございます」」」」

この一言で、この門に張られている結界を通り抜けられるようになる。この一言がなければ、離宮には辿り着けない。
取り敢えずは、早朝に来た使用人達は全員無事に離宮に入って行った。

「後は、お昼前にユマ様とリシャールと、近衛のカイルス様とアルマン様とマイラ様と、残りの使用人達が来ます」
「分かったわ」

ーカイルスさん。久し振りに会うから緊張するなぁー

の前に!リシャールだ!『引き取る』と言ったものの、リシャールが素直に西領ここに来るかどうかも分からない。お母さんと私の事をどう思っているのか──。会う前から悩んでも仕方無い。会ってから考えるしかない。

それから、人が増えた事で宮殿内が少し賑やかになったけど、心地良い賑やかさだ。どうも、静か過ぎると落ち着かないのだ。

お母さん達が来る前に、執務室で報告書を読む。
イーデンさんとベレニスさんが、北領の牢獄に収監された。詳しくは説明されていないけど、イーデンさんが、ベレニスさんへの番の認識を失ったそうで、これから先、ベレニスさんが狂い竜になる可能性が高いんだそうだ。もう、二度と会う事は無い。父親であるイーデンさんと二度目と会う事が無いと思うとホッとする──なんて思うのだから

「私は薄情な娘だよね」
「薄情ではないと思うが……」
「ふぇっ!?」

部屋には、私1人だった筈で、今のも独り言だった筈なのに返事があった。驚いて報告書から視線を上げると

「カイルスさん!?」
「ノックして何度か声を掛けたけど、返事が無くて……勝手に入ってしまって申し訳無い」
「あ、すみません!全然気付かなかった!でも、大丈夫です──けど、あれ?私、迎え入れました!?」

カイルスさん達が来るのは、お昼前だった筈。

「実は、俺だけ先に第一陣で来たんだ」
「全く気付かなかった………」

会ったらどうしようか?と緊張していたけど、そんな緊張もどこかへ吹き飛んでしまった。緊張よりも、予定より早く会えて……嬉しかったりする。

「あ……申し訳ありません。口調を正さないといけませんね」
「慣れないので、今迄通りでお願いします。時と場合でも良いので!」
「分かった」

カイルスさんの温かい笑顔は健在だ。

「あ、カイルスさんは、リシャールがどうなってるか知ってますか?」
「リシャールは、ユマ様が対応している─と言う事しか……」
「そうなんですね」

と言う事は、特に問題も無い─と言う事なのかも?

「兎に角、ユマ様と一緒にここに来る予定だ」

それなら、後は来るのを待って、直接会って話をするだけだ。

「これをどうぞ」
「わぁ…可愛い」

カイルスさんがくれたのは、白色のミニブーケ。卓上に飾れる位の丁度良いサイズだ。まさか、異性からブーケを貰う日が来るとは。勿論、自惚れたりはしない。これは、“入宮お祝い”だ。

「白竜マシロの綺麗な白色には劣るけどね」
「あーりがとうございます!」

カイルスさんに“綺麗”と言われると、嬉しいやら恥ずかしいやらで、ドキドキするのは仕方無い!

「えっと………あ…アルマンさんとマイラさんは、第二陣で来るんですね?」
「そうだ………ふっ………」

カイルスさんに笑われた。恥ずかしくて、話を逸した事がバレている。

「あ、それと一つ報告が。第二陣で、レナルド殿も来ると言っていた」
「レナルドさんも!?」

ずっと気になっていた。オールステニア王国は、竜王国の(中央にある)王都から東側にあるのに対して、私の離宮は真反対の西側にあるから、そう簡単に会いに行く事ができなくなるのでは?と思っていた。まだではないんだろうけど、お母さんとレナルドさんが離れると言うのが、なんだか受け入れ難いと言うのが、私の正直な気持ちだ。レナルドさんがここに来ると言うと事は……

ー少しは期待しても良いのかなぁ?ー

レナルドさんなら、私も安心してお母さんを任せる事ができるし、私も色んな意味で受け入れられると思う。勿論、お母さんの気持ちが一番だけど。

「レナルド殿が来る事が、そんなにも嬉しい?」
「勿論です!だって───」
「俺の事よりも?」
「ふわぁいっ!?」

ー今、何をおっしゃいましたか!?ー

「今、ここに居るのは俺なのに?」
「ふぁー………」

ー何がどうなってますか!?ー

さっきから変な声しか出ない。誰か、私に!今!声が出なくなる拘束具を嵌めてくれませんか!?

「マシロ様、失礼します。そろそろ出迎えの準備を───あ、カイルスさ────失礼しまし──」
「キース!待って!直ぐに行くから!」
「いえ、直ぐじゃなくても───」
「今すぐ行くから!!」
「………くくっ………」

と、キースと一緒に部屋を出る私の後ろを、笑いながら付いて来るカイルスさん。今のはなんだったのか?揶揄われただけなのか?分からないだらけで、私は気を紛らわすように駆け出した。






「俺、確実に邪魔した………よな?俺、カイルス様にヤラれる???」

と、キースもまた違う意味でドキドキしていたのは、言うまでもない。




しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。 そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。 てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。 まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。 女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。

処理中です...