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聖女
しおりを挟む『本当に目障りなんだけど。私達から、少し離れて歩いてよね』
ー私が何かした?してないよね?寧ろ、されてたからね!?ー
大森彩香は、学年で一番可愛いと言われていた。いつも彼女の周りにはたくさんの子達が居た。
ミオ─関元美緒も、そのうちの1人だった。でも、彼女が私に何か嫌な事を言って来た事は一度もない。どちらかと言うと、関元さんはおとなしい感じで、何故大森彩香と一緒に居るのか不思議に思っていた。
深沢樹は、陽真とは高校のサッカー部で友達になった一人だ。サッカー部の中で、陽真とは一番仲が良く、私は必要以上の会話は避けるようにしていたから、いまいちどんな人なのかは分からない。深沢君からも何か嫌な事を言われた事はない。
陽真は──言わずもがなだ。幼馴染みだけど、大嫌いだ。自分勝手で俺様で……人の名前もちゃんと呼べない馬鹿だ。
ー兎に角、ここには大森さんしか見当たらないけど、2年ぶり…なんだよね…ー
遠目ではあるけど、懐かしいなと言う思いと、幼いなと言う思いだけしか出て来ない。2年ぶりに見て、自分がどう反応するか心配だったけど、大丈夫そうだ。チラッと、横に居るリュークレインさんに視線を向ける。
ーリュークレインさんの近くに居ると、落ち着くと言うのもあるのかなぁ?ー
自然と、そのまま首を傾げて考える。
「あぁ!今のが“コテン”と言うやつなのね!?可愛い!!」
「……殿下………」
相変わらず、カミリア王女は表情を崩す事なくはしゃぎ、それを少し苦笑しながら窘めるリュークレインさん。
ー少し前迄は、この2人の様子を見て、胸がチクチク痛かったんだけどなぁー
カミリア王女と、杏子として対面したのは3日前だった。
『まぁ!何て綺麗なシルバーオブシディアンの様な瞳なの!?可愛らしい顔が、更に可愛らしくなっているわね!』
と、第一声がそれだった。
『えっ!?私よりも…年上!?“お姉様”とお呼びして良いかしら!?』
と、両手をギュッと握られ、目をキラキラさせながら、そんな事を言い出したカミリア王女。
『…殿下、それは無理です。キョウコが困っているから離してあげて下さい』
そんなカミリア王女を冷静に窘めるリュークレインさん。
『──心の狭い男は嫌われるわよ?』
『………』
ーあれ?何だろう……胸が全く痛まないー
見た目だけだと、仲も雰囲気も良い感じに見える2人。だけど、今のやりとりを聞くと……本当に、兄妹のような感じに見えた。更に、このカミリア王女には、既に王配となる婚約者も居ると言う事だった。
『留学先の第三王子と学年が一緒でね。同じ時間を過ごすうちに仲良くなって……それで、第三王子から婚約の打診があって、婚約したの。私がその国に嫁ぐ予定だったんだけど、立太子したから、彼が私の王配になる事になったの。年内には、この国に来てくれるの』
と、嬉しそうに話すカミリア王女は可愛かった。
ー色んな意味で…良かったー
と、私は心の中でホッと息を吐いたのだった。
「ルーナ、彼女を見ても大丈夫か?」
心配そうな顔をしているリュークレインさん。
『はい。意外と大丈夫そうです』
「そうか、なら良かった」
と、私の頭をワシャワシャと撫でるリュークレインさん。
「リュークレインばっかり狡いわ!」
と、カミリア王女からも撫で撫で攻撃を喰らった。
ーあぁ、撫でられると気持ちいい!ー
「リュークレインさん!お久し振りです!」
あれから暫くの間、聖女達の訓練を見てから、そろそろ次の場所へ──と移動仕掛けた時、後ろから声が掛かった。
ーこの声は…ー
くるりと後ろに振り返ると同時に、リュークレインさんは、カミリア王女を庇うようにスッと前に出る。そのカミリア王女は、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「……これはこれは…サヤカ嬢。どうかされましたか?」
「いえ…あの…その…リュークレインさんの姿が見えたから、挨拶をしようと思って……」
『…………』
頬を赤くして、はにかむような笑顔でリュークレインさんを見上げる大森彩香。確かに、同性の私から見ても可愛いと思う。男の子からしたら、それはそれは惹かれるものがあるだろう。
ーでもなぁ………ー
自分より下だと判断した人や、気に入らない子─特に同性の女子に対しては本当に酷い。同一人物ですか?と訊きたくなる程だった。
「態々の挨拶、ありがとうございます」
と、お礼を言うリュークレインさんを見て、大森さんが更に頬を赤らめた。私はリュークレインさんより後ろに居るから、リュークレインさんの表情を見る事はできないけど、何故かカミリア王女はニヤッと笑っている。
「──ですが、訓練中でもありますから、今後は態々の挨拶は……不要なので、気にしないで下さい」
「え?あの──っ」
「さぁ、向こうで南の魔女殿が待ってますから、戻って下さい。それでは、私達はこれで失礼しますね」
「え?ちょっ───」
リュークレインさんを引き留めようと、慌てて手を伸ばしてくる大森さんには構う事なく、リュークレインさんはカミリア王女を促して先を進んで行く。私もその後を追いながら振り返り、大森さんに視線を向けると、目をキッと吊り上げて鬼の様な形相でこちらを睨んでいた。
ーカミリア王女を…敵と見做した?ー
本当に、大森彩香はここに来ても変わらないんだな…いつまでも、それが許されると思っているんだろうか。
ー本当に、どうしてこんな人が聖女に?ー
神様や女神様が本当に存在するなら、一度訊いてみたい─なんて、思ってしまう事は、許して下さい。
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