召喚から外れたら、もふもふになりました?

みん

文字の大きさ
40 / 64

魔導士の2人

しおりを挟む
大森彩香の鬼の様な形相を見た後やって来たのは、魔導士の訓練を受けている深沢君と関元さんが居る訓練場。

先程の所でもそうだったけど、王太子であるカミリア王女がやって来ても、魔導士達が挨拶をしに来る事はない。不思議に思って尋ねると「訓練中の挨拶は一切不要」と、前もって通達しているとの事だった。

と言う事は、訓練を受ける側にも周知されていた筈で、大森さんはその通達を無視して挨拶をしに来たと言う事になる。あぁ、だから、リュークレインさんはさっき、“”を強調していたのか。

で、大森さんの事は置いといて───

深沢君と関元さんに視線を向ける。

ーえ?まだ、この世界に来て1ヶ月位しか経ってないよね?ー

驚いた。1ヶ月しか経っていない。しかも訓練が始まってから2週間程なのに、深沢君は火、関元さんは風をとてもうまく操っていた。

『これが噂の“チート”だ………』

私は2年掛かった。召喚から外れてもふもふになった。私は、ラノベで言うところの“モブ”だったんだろうか?

ー別に良いけどー

そんな思考を振り払うように首を振った後、改めて2人の様子を窺うと、2人とも真剣な顔をして訓練を受けている。時折魔導士さんが何かを話し掛けると、2人とも少し笑ったりしながら頷き、また訓練──あの2人は、魔導士さん達ともうまくいっているようだった。
後で聞いた話によると、深沢君も関元さんも呑み込みが早いらしく、直ぐに魔力にも慣れて、どんどんレベルも上がっているそうだ。それに、2人共文句も言わず訓練をこなしていて、魔導士さん達からの評判も良いらしく、弟や妹みたいに可愛がられているそうだ。

きっと、もともと根は良い人だったんだろう。その話を聞いて、私は何となくホッとした。

それから、休憩になったようで、私達に気付いた深沢君と関元さんが、1人の魔導士さんとこちらにやって来た。

3人が軽く挨拶をした後、深沢君が申し訳無さそうに口を開いた。

「挨拶は不要と言われていたけど、どうしてもと思って、魔導士さんにお願いしたんです。すみません」

と、先ずは謝罪の言葉から始まった。

「それで…その……望月さん─杏子さんについて、何か分かった事はありますか?」

「ごめんなさい。まだ何も……」

カミリア王女が申し訳無さそうな顔で答える。

ーここに居ます。白狼わたしですー

「そうですか……。その…見付かったら、陽真と大森…彩香に知らせる前に、俺達だけに知らせてもらっても良いですか?」

「え?」

深沢君が、少し気不味そうな顔で視線を関元さんに向けた。その視線を受けた関元さんが口を開いた。

「直接本人から聞いた事はないけど、陽真君は、杏子さんの事が好き…なんだと思います。それで、その陽真君が好きな彩香は……杏子さんの事を良くは思ってないから。今回、杏子さんが居ないのも……多分、彩香のせいでしょう?誰だって分かる事なのに、当の本人……彩香だけが理解しようとも、杏子さんを心配する事もないんです。寧ろ、今のこの状態を喜んでる」



『私が…私だけが聖女なのよ!聖女と言ったらラノベの定番じゃない!?陽真だけじゃなく、この世界のイケメンも私のモノにできるかもよね!?』

陽真君と樹君と別れて、王城にある客室に案内された後、美緒わたしと2人きりになった時に、それはそれは嬉しそうに、愉しそうに言ったのだ。
何を言っているのか?と思った。彩香じぶんのせいで望月さんの行方が分からないのに。
それに、これは物語でもゲームでもなく、現実世界なのに。能力が高いと言われても、私達は……戦わなければいけないのだ。それを………彩香は何一つ理解していないのだ。





「───なので、可能であれば、あの2人より先に、俺達だけで杏子さんに会って……話をしたいんです」

悔しそうに口を噤んだ関元さんの代わりに、また深沢君が口を開いた。

「分かったわ。王太子である私─カミリアが、その願いを叶えると約束するわ」

カミリア王女がニッコリ笑って答えると「「ありがとうございます!」」とお礼を言った後、2人はまた魔導士さんと一緒に訓練へと戻って行った。

ーあの2人には……会っても良いかもしれないなぁー

と、私は去って行く2人の背中を見つめながら、そう思った。




『─────って………陽真が……私を好き???いやいやいや……絶対無いよね!!アレで好きとか………おかしいよね?アレで好きとか言われても、それさえ嫌がらせかと思うよね?ないな…。深沢君も関元さんも………物凄い勘違いをしてるんだなぁ…笑える………』

「「………………」」

1人、去って行く深沢君と関元さんに突っ込みを入れているルーナを、リュークレインとカミリア王女が、少し憐れんだ?ような目で見つめていた。



しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...