幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん

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「いらっしゃいませ」
「お腹空いたー、取り敢えずビール宜しく」
「はーい」

ここは、王都の城下街にある食堂『ゆい
開店はお昼からで、夜は日付けが変わる頃迄の営業で、客層は騎士や平民が殆どで、王城勤めをしている下級位貴族も少数ではあるが居る。

ここで働くようになってから1年。最初の頃は右も左も分からなくて、たくさん失敗をしては女将さんに迷惑を掛けていたけど、優しい人達に支えられて頑張る事ができた。今でもたまに失敗したりもするけど、成長していると思う。

「エリー、少し落ち着いて来たから、今のうちに夕食をとっておいで」
「はい」

今は夜の9時。夕食の忙しさが落ち着いたところで、少し遅めの夕食だ。1人暮らしの私にとって、賄いのある職は本当にありがたい。今日の賄いは、私の大好きな親子丼だ。

「いただきます」

この1年、本当にあっと言う間だった。
少しずつ準備をしていたと言っても、実際1人で何でもしなければならなくなってから、初めて気付く事も多くて大変だった。
住む所はすぐに見付けられたけど、職を探そうにも、他国から来た独り身の若い獣人の女性を雇ってくれる所は直ぐには見付からなくて、それなりに所持していたお金もそろそろ─と言った所で、私に声を掛けてくれたのが結の女将さんであるジルさんだった。


『ウチで働かない?忙しくて、ちょうど人手を探してたところなのよ』

他国から来た身寄りの無い独り身な私を、笑顔で受け入れてくれたジルさんには感謝しかない。

ーいっぱい働いて、恩返ししないとー

私はジルさんに感謝しつつ、大好きな親子丼を食べて、その日も閉店時間迄働いた。






******

「エリー、これお土産」
「……ありがとうございます」

私にお土産をくれたのは、ロイド=ラサエル様。伯爵家の令息で、本人も騎士爵位を持っている第二騎士団所属の近衛騎士だ。近衛騎士もれなくのイケメンで独身。色んな貴族令嬢や平民の女性からの人気が凄い。そんな彼はこのお店の常連で、彼目当てでこの店に来る女性も居たりする。そんなイケメンの彼は、職務で地方に出掛けた時に私にお土産をくれる。

「あの…毎回、お土産なんて気を使ってもらわなくてもいいですよ?」
「いつもお世話になってるし、俺がエリーにあげたいと思って買ってるだけだから、気にせずに受け取ってくれたら良いよ」
「お世話って……」

食べに来てもらって売上に貢献してくれてるのだから、逆にこっちがお礼を言う立場ではないだろうか?

「兎に角、折角買って来たんだから、貰ってくれると嬉しいかな」
「有り難くいただきます…」
「良かった」

ニコニコ笑うラサエル様。その笑顔に、店内に居る女性は頬を赤くして見惚れている。確かに、イケメンが笑うと破壊力は凄い。でも──

「今日も、いつもので良いですか?」
「うん。ビールといつもので宜しく」

注文を確認した後、私は軽く頭を下げてから仕事に戻った。





「今日もお疲れ様でした」
「エリーもお疲れ様。これ、余ったから持って帰って明日にでも食べて」
「ジルさん、いつもありがとうございます」
「お礼を言うのはこっちよ。エリーが手伝ってくれて本当に助かってるし、余った物を捨てずに済むんだもの。余り物なんだから、気にせずに持って帰ってちょうだい」
「はい。有り難くいただきます。それじゃあ…明日は休みなので、また明後日宜しくお願いします」
「エリー、お疲れ様。気を付けて帰るんだぞ」
「ヴィニーさんも、お疲れ様でした」

ヴィニーさんは、ジルさんの旦那さんで結の料理人だ。顔は厳ついけどとても優しい人で、結は、ジルさんとヴィニーさん夫婦が営んでいる。
ヴィニーさんは平民で、事故で亡くなった両親の跡を継いで結の料理人をしていたところ、たまたま結に食事をしに来たジルさんかヴィニーさんに恋をして─付き合う迄1年。付き合って2年で結婚したそうだ。しかも、ジルさんは伯爵家の令嬢で、父が現役の第一騎士団の副団長。ジルさんを結に連れて来たのも、その父親で、娘が選んだ相手が平民だったにも関わらず、副団長は反対する事はなく、寧ろ喜んでヴィニーさんの元に送り出したんだそうだ。そして、今でも、副団長はよく客として結にやって来る。3人はとても仲の良い家族だ。ちなみに、伯爵夫人は5年前に病死したそうだ。

ー国によって、本当に何もかもが違うのねー

この国は、私の母国とは何もかもが違う。高位貴族は別として、貧富の差が少ないせいか、貴族と平民の距離が近い。平民も殆どが学校に通っているし、平民出身でも実力があれば王城勤めができる。獣人も然り。獣人であっても差別される事はなく、異種族の結婚だって普通によくあるようだ。私が獣人だと知っても、私から距離を置いたり嫌悪感を表す人は居なかった。

ーもっと早くこの国に来ていたら、何か変わっていたのかな?ー

フルフルと頭を振る。グッと手を握りしめてから、私は夜の道を歩き始めた。



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