幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん

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「これ、新作で美味しいって人気がある焼き菓子なんだ。お裾分けにどうぞ」
「ありがとうございます」

「これ、差し入れで貰ったんだけど、食べ切れないから貰ってくれないかな?」
「ありがとうございます」

「はい、視察に行ったお土産」
「ありがとう…ございます」

「これ、食べで美味しかったから──」
「………」


あの痴話喧嘩を見てしまってからと言うもの、ラサエル様がやたらと私に色んな物をくれるようになった。それは、高価な物ではなく、殆どが平民でも手軽に食べれるお菓子で、断るのもなぁ─と思って素直に貰ってしまっている。でも──

「ラサエル様、私に気を使う必要はありませんよ?あの時にも言いましたけど、言いふらしたりしませんから」

そう、態々私に物を貢いで口止めをする必要なんてないのだ。私にとって、ラサエル様が爽やか騎士であろうが俺様だろうが関係無いのだから。

「それは信じてるよ。俺がエリーに贈り物をするのは……下心があるからだからね」
「─────はい?」

ー下心なんてモノは要りませんー

「それなら、尚更要りませんから──」
「え?何何?天下のロイド=ラサエルがフラれたの?」
「レオ……」
「あ、ヘルモルト様いらっしゃいませ」
「エリー、こんにちは。いつものよろしく」
「はい、お待ち下さいね」

ニヤニヤ笑っているのはレオンス=ヘルモルト様。ラサエル様と同じ第二騎士団に所属している同期の騎士様だ。
冗談なのかどうか分からないけど、下心があると言うのなら、今後物を受け取るのは止めた方が良いかもしれない。本当に下心なんて要らないし……何より、女性陣からの攻撃を受けたくない。ただでさえ、何かを貰う度に睨まれたりするのに、下心があるなんて言われたら──

「迷惑でしかないわ………」





********


「貴方がエリーとか言う、食堂屋の娘なの?」
「娘ではありませんが、食堂『結』で働いているエリーです」
「ふーん………」

今日も働くために結迄やって来たとこで、綺麗な服を着た綺麗な女性に声をかけられたかと思えば、そんな事を訊かれたうえ、見下す様な視線を向けられた。

「ロイド様が声を掛けている女が居ると聞いて来たけれど…大した事無かったわね。貴方なら、何の心配も要らないし……遊ばれているだけね…ふふっ」

なるほど─この女性はラサエル様が好き、若しくは恋人で、私の噂を耳にして見に来て牽制しに来たんだろう。態々牽制なんてしなくても、私にラサエル様を想う気持ちなんて微塵もない。

「要件はそれだけですか?時間がないので、失礼します」
「ちょっと待ちなさい!平民のくせに、私を無視するの!?生意気ね!」
「………」

ーなんて典型的なご令嬢なんだろうー

「私がラサエル様に声を掛けるなんて、料理の注文を訊く時しかありませんから。私がラサエル様をどうこうできる事なんてありませんから。ラサエル様が私に声を掛ける事が気に食わないのなら、ラサエル様本人に直接言っていただけますか?」
「本当に、なんて生意気な───」
「デロイアン嬢、一体何をしているんですか?」
「ロイド様!」

サッと私と『デロイアン嬢』と呼ばれる女性の間に割って入って来たのは、ラサエル様だった。

「そこの娘が、私に無礼な態度を取るものだから、つい……」
「無礼な態度…そうですか…。まぁ、兎に角、ここは引いた方が良いのでは?それなりに注目を浴びていますよ?」
「っ!そう…しますわ。でも、ロイド様もお分かりですよね?私の気持ちを。彼女をどうするかは…ロイド様次第ですわ。今日は、これで失礼しますわ。次の舞踏会、楽しみにしていますわ」

その令嬢は、甘い視線をラサエル様に向けた後、私を一睨みしてから去って行った。
私は、そう言う視線を知っている。幾度と無く繰り返し見た事のある視線だ。その視線がまた、私に向けられるとは思ってもみなかったけど。

「エリー、大丈じょ───」
「本当に、こう言う事は迷惑なんです。これでお分かりですよね?ラサエル様の行動や言葉一つで、平民の私一人なんとでもされてしまうんです。遊び半分な事なら…二度と私に絡まないで下さい」
「エリー!」
「もう…懲り懲りなんですよ」

好きなら何をしても良いと思っているのか?相手の気持ちなんて何も考えていない。平民相手だから遊びに丁度良い?平民だから、貴族相手に一時の夢でも見られて幸せだろうと思っている?平民であれ貴族であれ、そんな事は関係無い。

「愛を盾に押し付けられる愛情なんて…私は要りませんから。迷惑でしかありませんから。それでは、失礼します」
「エリー!」

ラサエル様に名前を呼ばれたけど、私はそのまま背を向けてお店に入って扉を閉めた。



ー口だけの愛なんて、信じないー





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