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捌
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「どうして……私の事を信用してくれるんですか?」
何も言ってないのに、どうして、ラサエル様は私の事を信用してくれるんだろう?どうして、私が欲しい言葉をくれるんだろう?
唯一だったあの人でさえ、見ても聞いてもくれず、欲しい言葉なんて一つもくれなかったのに。
「同じ時間を過ごして話をしたり、エリーを見て来たんだから、エリーがどんな人なのかはよく知ってるつもりだからね。まぁ…だから、エリーが俺の事を何とも思ってないって言う事も分かってるから……何とも言えないところだけどね」
「………ふふっ…………」
「あー…取り敢えず、お腹は空いてるから、予定通りランチに行ってゆっくり話をしようか?」
「そうですね………」
と、予定通り2人でランチをする事にした。
今日も個室でのランチだ。いつもなら気になるところだけど、今日に限っては周りを気にせず話ができるから良かったのかもしれない。
先ずは当たり障りのない話をしながらランチを食べて、デザートを食べよう─と言うところで、私から「聞いて下さい」と話を切り出した。
「私の獣人の父が、人間の番を攫うように連れ帰って来たのが始まりだったんです」
私の父は獣人で、母は人間だった。その母には、その時既に婚約者が居て結婚目前だった─にも関わらず、父は公爵と言う身分と番と言う名分を立て、母を婚約者にした。獣人にとっての番は唯一無二の尊い存在で、一族繁栄の為にも喜ばしい存在だったから。勿論、それが例え他種族の人間だったとしても。
「でも、母は……そうではなかったんです」
私が物心つく頃には子供の私の目から見ても分かる程、母は酷い扱いをされていた。
食事は常に部屋で1人で食べていて、その食事すら獣人向きの物ばかりで、人間には口に合いそうな物ではなかった。
『人間だとしても、公爵家の者となったのなら、ここでの習慣に合わせていただかないといけませんからね』
毎日部屋に届けられる薔薇は、母が唯一苦手な物なのに、侍女はそれを毎日嬉しそうに……勝ち誇った様な顔をして受け取っていた。
『薔薇が嫌いなどと……毎日頂いているのに我儘ですよね?マーガレットなんてちっぽけな花のどこが良いんだか……』
「それでも母は、何一つ文句も我儘も言う事はありませんでした。そんな母も、私がマーガレットの花を持って行くと、いつも嬉しそうに笑ってくれて、私をギュッと抱きしめてくれて……『愛しているわ』と言ってくれたんです。私は、そんな母が大好きで……でも、私の容姿が母に似ているせいで、私も色々虐げられたりして……母を助けようと動こうとすれば、逆に母への仕打ちが酷くなってしまって……それ以上、動けなくなってしまったんです」
怖くなったのだ。私にとっての唯一の母が居なくなってしまったら、私はどうなるのか。双子の兄でさえ母を疎っていた。何より、唯一の絶対的な父が母を護る事が無いのだ。そんな父が、私は一番嫌いだった。
「だから、私は何とか持っている物を売ったり、貰っていたお小遣い貯めて、私が成人したら母と2人で家を出ようと思っていたんです。でも……」
『学校で、父上の番…母上が人間だから、僕は立派な騎士にも公爵の跡継ぎにもなれないと言われました!人間の血が入っているから、獣人としては欠陥品だと……』
双子の兄が放った言葉を耳にした母のそれからは、とても早かった。
「母は、あっと言う間に病んでいき…笑う事も無くなって……」
『ポレット……愛しているわ………』
それが最期の言葉だった。
「母の死に顔は、とても穏やかなものでした。ようやく安心したような……その顔を見た時……私は母を護れなかったんだと………」
母が死に、ようやく周りが見られるようになった父は、使用人達を粛清していったけど、一番粛清されるべきは父本人だ。どんなに父が後悔しようとも反省しようとも謝罪しようとも、私が父を赦す事は無いし、もう父とも思えなかった。
「だから、私は母の喪が明けると直ぐに家を出て、この国に来たんです。この国は、人間と獣人の壁が殆ど無いと聞いていたので」
この国では、他種族結婚は普通にあって、お互い尊重し合って生活をしていた。もし、もっと早くこの国に来れていたら、母も笑って暮らせていたのかもしれない。
「私は…私を唯一愛してくれていた母を護れなかったんです。そんな私が……幸せになんてなれないし、なってはいけないんです」
双子の兄─ユベールが騎士から除籍処分をくらい、公爵となった叔父様の元で使用人として働いていると聞いても、ざまあみろとしか思わなかった。ケイトや使用人達が着の身着のまま放り出されても、命があるのだから、甘い処分だとしか思わなかった。
「他人の不幸を望んた分、私も幸せになってはいけないと───」
「エリー……いや、“ポレット”…と呼ぶべきか?」
「私の本当の名前は……ポレット。家名は捨てました」
何も言ってないのに、どうして、ラサエル様は私の事を信用してくれるんだろう?どうして、私が欲しい言葉をくれるんだろう?
唯一だったあの人でさえ、見ても聞いてもくれず、欲しい言葉なんて一つもくれなかったのに。
「同じ時間を過ごして話をしたり、エリーを見て来たんだから、エリーがどんな人なのかはよく知ってるつもりだからね。まぁ…だから、エリーが俺の事を何とも思ってないって言う事も分かってるから……何とも言えないところだけどね」
「………ふふっ…………」
「あー…取り敢えず、お腹は空いてるから、予定通りランチに行ってゆっくり話をしようか?」
「そうですね………」
と、予定通り2人でランチをする事にした。
今日も個室でのランチだ。いつもなら気になるところだけど、今日に限っては周りを気にせず話ができるから良かったのかもしれない。
先ずは当たり障りのない話をしながらランチを食べて、デザートを食べよう─と言うところで、私から「聞いて下さい」と話を切り出した。
「私の獣人の父が、人間の番を攫うように連れ帰って来たのが始まりだったんです」
私の父は獣人で、母は人間だった。その母には、その時既に婚約者が居て結婚目前だった─にも関わらず、父は公爵と言う身分と番と言う名分を立て、母を婚約者にした。獣人にとっての番は唯一無二の尊い存在で、一族繁栄の為にも喜ばしい存在だったから。勿論、それが例え他種族の人間だったとしても。
「でも、母は……そうではなかったんです」
私が物心つく頃には子供の私の目から見ても分かる程、母は酷い扱いをされていた。
食事は常に部屋で1人で食べていて、その食事すら獣人向きの物ばかりで、人間には口に合いそうな物ではなかった。
『人間だとしても、公爵家の者となったのなら、ここでの習慣に合わせていただかないといけませんからね』
毎日部屋に届けられる薔薇は、母が唯一苦手な物なのに、侍女はそれを毎日嬉しそうに……勝ち誇った様な顔をして受け取っていた。
『薔薇が嫌いなどと……毎日頂いているのに我儘ですよね?マーガレットなんてちっぽけな花のどこが良いんだか……』
「それでも母は、何一つ文句も我儘も言う事はありませんでした。そんな母も、私がマーガレットの花を持って行くと、いつも嬉しそうに笑ってくれて、私をギュッと抱きしめてくれて……『愛しているわ』と言ってくれたんです。私は、そんな母が大好きで……でも、私の容姿が母に似ているせいで、私も色々虐げられたりして……母を助けようと動こうとすれば、逆に母への仕打ちが酷くなってしまって……それ以上、動けなくなってしまったんです」
怖くなったのだ。私にとっての唯一の母が居なくなってしまったら、私はどうなるのか。双子の兄でさえ母を疎っていた。何より、唯一の絶対的な父が母を護る事が無いのだ。そんな父が、私は一番嫌いだった。
「だから、私は何とか持っている物を売ったり、貰っていたお小遣い貯めて、私が成人したら母と2人で家を出ようと思っていたんです。でも……」
『学校で、父上の番…母上が人間だから、僕は立派な騎士にも公爵の跡継ぎにもなれないと言われました!人間の血が入っているから、獣人としては欠陥品だと……』
双子の兄が放った言葉を耳にした母のそれからは、とても早かった。
「母は、あっと言う間に病んでいき…笑う事も無くなって……」
『ポレット……愛しているわ………』
それが最期の言葉だった。
「母の死に顔は、とても穏やかなものでした。ようやく安心したような……その顔を見た時……私は母を護れなかったんだと………」
母が死に、ようやく周りが見られるようになった父は、使用人達を粛清していったけど、一番粛清されるべきは父本人だ。どんなに父が後悔しようとも反省しようとも謝罪しようとも、私が父を赦す事は無いし、もう父とも思えなかった。
「だから、私は母の喪が明けると直ぐに家を出て、この国に来たんです。この国は、人間と獣人の壁が殆ど無いと聞いていたので」
この国では、他種族結婚は普通にあって、お互い尊重し合って生活をしていた。もし、もっと早くこの国に来れていたら、母も笑って暮らせていたのかもしれない。
「私は…私を唯一愛してくれていた母を護れなかったんです。そんな私が……幸せになんてなれないし、なってはいけないんです」
双子の兄─ユベールが騎士から除籍処分をくらい、公爵となった叔父様の元で使用人として働いていると聞いても、ざまあみろとしか思わなかった。ケイトや使用人達が着の身着のまま放り出されても、命があるのだから、甘い処分だとしか思わなかった。
「他人の不幸を望んた分、私も幸せになってはいけないと───」
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