幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん

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「そうやって、ラサエル様はいつも私の欲しかった言葉をくれるから……困るんです」
「困る?」
「ついつい……甘えてしまいそうになるんです」

だから、ラサエル様の前で泣いてしまったんだ。
ポレットの話をして距離を置こうと思ったのは本当だけど、ラサエル様なら受け入れてくれるかも─なんて思いもあった。

「そんな事なら、困らなくて良いよ。エリーが甘えてくれるなら、いつでも大歓迎だから。いや、俺から甘やかせば良いのか?」
「え?甘やか───っ!?」

ラサエル様はにっこり微笑んだまま、テーブルの上に置いていた私の手を持ち上げた。

「俺に心を開いてくれたと言う事は、俺に少しでも気持ちが傾いていると言う事だろう?なら、俺はこれから、思う存分エリーが俺に完璧に傾いて─落ちて来るように、甘やかすだけだ」

そして、ラサエル様はそのまま、私の手に軽くキスをした。





********



あれから、ラサエル様は結に来る度にマーガレットの小さなブーケをくれるようになった。休みが同じ日には、ランチをする事が当たり前のようになって来た。

そんなある日──

ジルさん達の都合で結が休みとなった日に、『お昼に結に来て欲しい』と言われて結にやって来ると、そこにはラサエル様だけが居て、机の上にはオムライスとアップルパイが用意されていた。

「ジルさんにお願いして、ここを借りて、エリーと一緒に食べようと思って用意したんだ」
「ありがとうございます」

オムライスもアップルパイも、母がよく作ってくれた私の好きな物だ。こうやって、ラサエル様はいつも私の好きな物や欲しい物をくれるから、嬉しい気持ちになる。

「それじゃあ、有り難くいただきます」
「俺も、いただきます」

ーそう言えば、お母さんの作ったオムライスって、隠し味が入って………ー

「え?」

その隠し味が何だったのか分からなかったのに。このオムライスは、まさにその母の作ったオムライスと全く同じ味だった。

「アップルパイも、食べてみる?」

何故かニコニコ笑顔のラサエル様。オムライスも途中だったけど、目の前にあるアップルパイを手に取って一口食べると──

「これも……全く同じ味!」

アップルパイもまた、母が作った物と全く同じ味をしていた。



『隠し味は秘密よ。私がポレットだけに作った物だと分かるように入れているのよ』


なんて言いながら笑っていた。

「どうして?」
「この前、エリーから話を聞いた後、話の内容からエリーの母国だろうと目星をつけた国で、ダメ元で色々調べたんだ。そうしたら、俺も運が良かったみたいで……」

なんと、りんごをくれたりして母に良くしてくれた人を見付ける事ができたそうで、その人からアップルパイやオムライスのレシピを教えてもらう事ができたのだと言う事だった。

「その人は、エリーの母上が亡くなった後のポレットの事をとても心配していたんだ。母上が亡くなる前に、いくつかのレシピが書かれていたノートを預かっていたそうなんだけど、ポレットに渡す前に居なくなってしまって渡せなかったって……はい」

ラサエル様から手渡されたノートを受け取り、パラパラとページを捲れば、そこには懐かしい母の字が並んでいた。

「それじゃあ…このオムライスとアップルパイは、このレシピで作ったんですか?」
「うん。ジルさんとヴィニーさんに『エリーの母親が書いたレシピだ』と言ったら、それ以上は何も訊かずに作ってくれて、この場を用意してくれたんだ。同じ…味だった?」
「───はい。懐かしくて……優しい味です……」

母と、ジルさんとヴィニーさんの気持ちが重なって、更に優しい味がする。ラサエル様の気持ちも温かい。

「本当に……ありがとうございます。まさか、またこの味を口にする事ができるなんて……」

“運が良かった”─だけの話じゃない筈だ。私の母国を当てるだけでも大変だったろうし、探る相手は公爵だ。簡単な事ではなかっただろう。

「私は、ラサエル様に貰ってばかりですね…何か、お返しできれば良いんですけど…何かありますか?」

家名を捨てて独り身の私にできる事なんて、何もないけど。

「なら、これから俺の事を“ロイド”と呼んでもらおうかな」
「え……」

ーそれだけ?ー

とは言えは、異性を名前呼びするのは、それなりに覚悟が必要な訳で──今迄の私なら、スッパリと断っていただろう。でも──

「正直、覚悟ができたかどうかは分からないんですけど……」
「ん?」

かと言って、それを断って愛想を尽かされてしまったら?

「───────ロイドさま……」
「っ!?」

いつの間にか、ラサエル様もとい、ロイド様が側に居る事が当たり前になっていて、ロイド様がくれるモノに安心している自分が居る。そんなロイド様が居なくなってしまったら──なんて、考えるだけでも怖くなってしまっている。

「ロイド様、ありがとう──」
「ようやく、名前呼びをしてくれたな!」

目の前のロイド様は、今迄で一番嬉しそうな笑顔をしていた。



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