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ディラン=カレイラ
しおりを挟む「私に、他人の者を取る趣味は無いからね。それにしても……エルダイン嬢は、本当に年下とは思えない程に落ち着いた雰囲気を持ってるね。」
「あら?それは、私に対する厭味…かしら?」
ティアリーナ様は、小首を傾げて私に視線を向ける。
「まさか!ただ単に、エルダイン嬢に対しての印象を語っただけですよ。完璧なティアリーナ様には誰も勝てませんよ。」
「ふふっ。ディラン様は、本当にお口が上手ですね。」
そう言って、その辺に居る令息達が見ると見惚れてしまうような微笑みを浮かべるティアリーナ様。
ーティアリーナ=グレイソンー
筆頭公爵家の箱入り娘。父親の公爵は財務官のトップで、私の父と同様腹黒で頭がキレる。公爵夫人は当時この国一の美姫と言われた伯爵令嬢だった。ティアリーナ様は、その夫人─母親によく似た美人だ。メルヴィルの婚約者候補にあがったのも、誰もが納得するところである。成績も優秀で、性格は──表立っては特に問題はない。
箱入り娘と言えど、甘やかされて育った訳では無く、流石は筆頭公爵家。既にマナーは完璧で、いつ社交会デビューしても問題はないし、このまま王太子妃になっても大丈夫なほどである。
ただ、表面上はキリッとした美人でありながらも、庇護欲をを唆るのがうまい。そして何より、上昇志向が強い。2年生になり、今年入園した第一王子─メルヴィルが生徒会長を務める生徒会の役員の1人に選ばれた。これでは、他の4人の候補者達と不公平にはならないか?とも思ったりもしたが、成績は常にトップであり筆頭公爵家の令嬢だ。当然と言えば当然だから仕方無いのか─と。
まぁ、メルヴィル自身もティアリーナ様を特別視しているような感じがないから大丈夫だろう。他の候補者達とも定期的に交流を持っているようだ───でも。
何故か、メルヴィルの幼馴染みだと言うフェリシティ=エルダイン嬢の事だけは…扱いが違うようだ。いや、変わってしまったようだ。直接会った事も話した事もないが、昔はとても仲が良かったらしい。なのに──
「あんなに無表情で居られると、何を話せば良いか分からないし、お茶の味も分からない。」
と言い出したのは、いつからだっただろうか?
「メルヴィル様を目の前にして、緊張してるのでは?」
と、エルダイン嬢を気遣うように言葉を吐くティアリーナ様。でも、誰も気付いていないだろうが、よく見ると、口元が笑っている。
今迄、メルヴィルの婚約者に一番近いのはエルダイン嬢だと言われていた。それが、今や一番遠い位置になり、ティアリーナが一番近い位置にいるのだ。ついつい……笑ってしまうのだろう。
そう。さっきの言葉も、エルダイン嬢を気遣っているようで、優しい自分をアピールしているに過ぎないのだ。殆どの人はそんな事には気付かずに、ティアリーナ様は優しいな─で終わっているだろうけど。どうしても、私自身が腹黒いからか、同類の人間は分かるのだ。ティアリーナ様も──真っ黒人間だ。それこそ、将来の王妃に向いているかもしれない。
そんな私が、今一番気になっているのが…フェリシティ=エルダイン嬢だ。
メルヴィルの婚約者候補で、王妃教育があるにも関わらず領地へと引き篭もった令嬢。怠慢だな─と呆れていたが─。
実は、その王妃教育がほぼ終わっていた事。ティアリーナ様より語学が堪能だったと話しているのを、偶然耳にした時は驚いた(この事は、エルドと私だけの秘密にしておいた)。
そこで、私は初めてエルダイン嬢に興味がわいた。
メルヴィルからは、“冷たい”としか聞かない令嬢。
メルヴィルの近くに居るのだ、学園に入園さえすれば直ぐに会って挨拶もできるだろう─と思っていたのに──。
まさか、入園してから3ヶ月も掛かるとは思ってもみなかった。しかも、図書室で会えたのも、本当に偶然だった。
それに、既にエルドとは挨拶を交していたと言う事実に、少しだけイラッとした。
それに!かの令嬢は、メルヴィルにも挨拶をそこそこに、直ぐにその場から立ち去ろうとしたのだ。それがまた…何となく苛つき、立ち去ろうとするかの令嬢の言葉を遮って声を掛けた。
すると、かの令嬢はスッと私の方に視線を向けた。
その、薄い藤色の瞳がとても綺麗だなと思った。
そのまま挨拶を交わし、ニッコリと微笑む。私が微笑むと、大抵の令嬢は顔を赤らめるが──エルダイン嬢は違った。表情こそ変わらなかったが、胡散臭いモノをみるような……そんな感じだった。そんな反応をされるのは初めてだった。
ー面白いなぁー
いや、勿論、他人のモノに手を出す趣味は無い。ただ、エルダイン嬢とは一体どんな女性なのか?と、興味がわいただけ。
ー“面白いモノを見付けた”時の感覚だろうかー
そんな事を口にすると、エルダイン嬢の幼馴染みのオルコット嬢の婚約者であるエルドに何を言われるか分かったモノではないから、心の中に閉まっておく。
ーさあ、これからどうなる?ー
笑いそうになる口を引き締めて、私は去って行くエルダイン嬢の背中を見つめた。
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