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第三章ーパルヴァン辺境地ー
空っぽ
しおりを挟む「とにかく、視察予定は二週間後。視察期間は5日。その間はこの邸に滞在する。」
「5日間…長くないですか?」
2~3日だと思ったら、まさかの5日間。
「まぁ…仕方無いんだ。ここは辺境地だから、王族としても大事に扱いたいところだが、そんなにしょっちゅう来れる所ではないだろう?。だから、来る時は、大体5日から一週間は滞在するんだ。」
「成る程…」
一週間よりは…マシだったと思う事に…しよう。
「その間、ハル殿は別邸の方で過ごしてもらおうと思ったんだが、どうだろうか?主だった4人は本邸に、同行する騎士達は騎士邸で寝泊まりするから、ハル殿が別邸に居れば会うことはないと思う。」
確かに。別邸は本殿より奥まった所にあるし、騎士邸は本邸を挟んで真反対にある。
“騎士邸”ーこのパルヴァン辺境地だからこそある邸。森に現れる魔獣を討伐しなければいけないので、常に騎士を待機させておかなければならない。その為、パルヴァン邸の中に騎士様専用の邸と訓練場があるのだ。
「殿下達がレオンに用事があったとしても、レオンが本邸に来る事になるから、殿下達が別邸に行く事は無い。」
「…そうですね。下手に街の宿とかに泊まった方が、遭遇率が上がりそうですよね…」
よく分からないけど…もう終わってると思うけど…『街で偶然会っちゃった☆』って、乙女ゲームのあるあるとか…フジさんが言ってた気がする…。
ーそんな遭遇いらないー
「全力で別邸に居ます!」
「いや…そこは全力じゃなくて、おとなしくだろう…。」
「二週間後か…」
その日、ベッドに入り考える。
別に…嫌いなわけじゃない。宰相様は最初から優しかったし、ダルシニアン様とは普通に話せる位になってたし。カルザイン様は…最初の出会いこそ最悪だったけど、謝罪をされ、それを受け入れた。それからは助けてもらったのに…私のあの態度だ。逆に嫌われていても…おかしくないかもしれない。王太子様は…何と言うか…うん。嫌いではない。
会いたいかと訊かれれば…会いたくない。今の私は聖女様召喚に巻き込まれたハルではなくて…薬師のハルだ。王族とも貴族とも…関係が無い…ただのハル。
『自分の名前が言えないとか、呼んでもらえないって寂しいけど、暫くは我慢…ですね?』
『そうね…。でも、日本に還ったらいっぱい呼んであげるわ!』
そう言ってくれたのは…フジさんだったか…。
空っぽのハルだな…。この世界では、何もかもが私じゃない。ハルなんて名前じゃない。薬師だって…魔法使いの恩恵だ。実力じゃないくせに、自分の足で立ちたいなんて言っているんだ…。
「還りたい…還りたかったなぁ…」
それ以上は何も考えたくなくて、布団に潜り込み、ギュウッと目を瞑り眠りに就いた。
ー王都、王城の王太子執務室ー
「パルヴァンでの視察が終わったら、私の婚約者選びが始まるらしい。」
王太子の執務室に、私ークレイルーとエディオルとイリスだけになった時に、王太子であるランバルトが前触れもなく話し出した。
「丁度1年だ…。父も、よく待ってくれたと思う。」
そうーランバルトは、聖女様の1人、ミヤ様が好きだった。ミヤ様はランバルトに靡く事は…全くなかった。それは、面しろ…いや、可哀想になる位。そして、聖女様3人とハル殿はアッサリと元の世界へ還って行った。それからのランバルトは、暫くの間は使い物にならなかった。王太子としてはどうかと思わなくもないが…全く分からないと言う事もない。
ー喪失感ー
なんだろうと思う。私だって…
「ランバルトに婚約者が決まれば、エディオルもクレイルも逃げられなくなるね?」
笑いながら言うのはイリス=ハンフォルト。現宰相の息子であり、次期宰相の有力候補。いや、ほぼ確定だろう。
「イリスは良いよな?お互い好き同士だから。」
「そうですね。婚約者殿に関しては、私は何の文句も問題もありませんね。何なら、早く婚姻を結びたいところですよ?」
イリスはニッコリと笑う。
イリスの婚約者はーベラトリス王女。
2人は幼馴染だった。本当に小さい頃から仲が良かった…と言うか、イリスが王女様にベタ惚れだった。王女様を囲いに囲いまくって婚約者の座を獲得したのだ。ただ、王太子より先に結婚するのは良くないとされ、結婚が先延ばしになっているのだ。今笑っているのも…恐らく、ランバルトに圧を掛ける為だろう。
「私は、父が恋愛結婚だったから、無理矢理婚約者をあてがわれる事はないから、そのへんは心配はしていないけどね。エディオルもそうだろう?」
「そうだな、嫡男の兄上は結婚して子供もいるし、私は次男で近衛騎士だから、無理矢理婚約者を作る必要はないな。有難い事に、うちの親も恋愛結婚だったし。」
「ーと言う事で…」
と、イリスはまたニッコリと笑い
「王太子殿下、パルヴァンの視察が終わったら、可及的速やかに、婚約者を選定して、最短コースで結婚して下さいね?」
「ゔっ…」
と、傷心引き摺るランバルトにとどめの一撃を喰らわせた。
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