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第三章ーパルヴァン辺境地ー
2人の騎士の思い
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*本日、2話目です*
†ステファン=オーブリー†
『んー…じゃあさ、これは…この世界で俺と会った思い出として…もらってくれるか?それに、たいした物じゃないから、安心してくれ。』
“たいした物じゃない”と言うのは本当の事だった。
『…多分…これでもう、話せる時と言うか会う事は…無いと思う…。どうか…元の世界に還っても…元気で…。』
精一杯の虚勢を張っていたのだと…今なら判る。そんな俺に対して、彼女は
『はい。オーブリー様も…お元気で。』
本当に嬉しそうに綺麗な笑顔でそう応えたのだ。還れる事が…嬉しいのだと…。その笑顔を見ると嬉しさと、それが何だか腹立たしくもあって…彼女の手をとってキスを落とした。途端に、彼女は固まったようだった。そんな彼女の顔を敢えて見ずに、踵を返して訓練場まで走った。
ーあのブレスレットを見る度に…身に着ける度に思い出せばいいー
一緒に居たのはほんの少しの間だけ。会話だってそんなに交わしていない。エスコートできたのも一度だけ。
彼女達が還った後も、俺は普通に過ごせていたと思う。思っていたー
『…パルヴァン邸付きの薬師です。』
『パルヴァン邸付きの薬師の“ルディ”です。お騒がせして…すみませんでした。』
“薬師”─そう聞いて…チクリと胸が痛みを訴えた。そこで初めて気が付いた。
俺はこの1年、“薬師”を避けていた事に。訓練で怪我をしても、魔力を消費して疲れても…薬師の元には行かなかった。
ー行けなかったのだー
診療室に行っても…薬師である彼女が居ないから。その現実を受け入れたくなかったんだろう。自分でも気付かないうちに、彼女の存在がここまで大きくなっているとは…自分自身が一番驚いていて…動揺した。動揺し過ぎて、ルディ殿に挨拶を返しもせず王太子殿下の居る部屋までやって来てしまった。
1年経ってから気付くとは…呆れを通り越して嗤えるな。この視察が終わって王都に帰ったら、飲みにでも行くか…。
そう思いながら、王太子殿下の待つ部屋の扉をノックした。
††ティモス††
「本当に…穢れが全く出てないんですね…」
魔導師であるクレイル=ダルシニアン様が、やや引き気味に囁いた。
確かに、1年前に来た時は体が重く感じる程の穢れがあった。フェンリルが現れた後の穢れは、更に酷かった。それでも、あの聖女様達は更に凄かった。
ーもう、“凄かった”としか言いようがなかったなー
もともと浄化のペースは早かったが、(後でそれがハルだと知ったが)同行した薬師がフェンリルと対面して危なかったと言う事を知るや否や、更にペースが早くなり、且つ、浄化の力も強くなったのだ。
そんな聖女様が3人も居た。
そのお陰で、この森は未だに穢れ知らずだ。
「本当に、色々と規格外な聖女様達だったな。今頃は……。きっと、あのままな4人で元気に過ごしているんだろうな…。」
王太子殿下のその囁きに、僅かに反応してしまう。
ーハルは還れなかったんだー
と、口から出そうになるのをグッと耐える。王太子殿下も、宰相も…国王陛下すら知らないんだ。4人とも還ったと信じているんだ。
ハルが泣いたところなんて、見た事がない。1年前のあの日、俺が問答無用で拘束した時も、地下の牢屋でパルヴァン様と再会した時も。もう、元の世界に還れないと判った時も泣かなかったらしい。
『別に、感傷に浸っている訳じゃないですからね?逆に、何となく…落ち着く感じがするんですよね。なので、変な気は使わないで下さいね!』
そう言って笑っていた。ハルはいつも笑っている。だから、逆に心配になる。俺のこれは、決して恋心ではない。ハルとキスしてそれから…
ーうん。無いな。全く想像できないしー
それに…ハルにも、誰かハルの事を好きになって側で支えてくれる奴が現れてくれたら良いのにとさえ思う。そして、ハルもこの世界で好きな男と幸せになってくれたら良いなと。それはきっと、俺ではないし、俺もそれを望んではいない。“妹”みたいなもんだろうな。それが一番しっくり来る。
ー独り暮らしの事は、もう少し先にしてもらおう。まだまだ心配だー
視察中にも関わらず、そんな事をつらつらと考えていると、前を進んでいたパルヴァン様が
「そう言えば、あのフェンリルはどうなりました?」
「あのフェンリルは、あれ以降おとなしくしているから、あのまま様子をみているんだが…」
と、王太子殿下が言い淀み、その後をダルシニアン様が引き継ぐ様に話し出した。
「自分を拘束した私とエディオルにだけ無関心なんです。殿下に至っては、無関心な時と探るような仕草を取る時があります。この3人以外に対しては、暴れはしないが殺気を放つので、近付く事すら難しいんですよね。」
拘束した相手に無関心?意味が分からない。その反対なら分かるが…。
そう言えば…フェンリルが現れた時、確かに、“怒り”を感じたが、ただそれだけだった。“殺気”は感じなかった。その事に何となく違和感を感じたなと思い出した。
†ステファン=オーブリー†
『んー…じゃあさ、これは…この世界で俺と会った思い出として…もらってくれるか?それに、たいした物じゃないから、安心してくれ。』
“たいした物じゃない”と言うのは本当の事だった。
『…多分…これでもう、話せる時と言うか会う事は…無いと思う…。どうか…元の世界に還っても…元気で…。』
精一杯の虚勢を張っていたのだと…今なら判る。そんな俺に対して、彼女は
『はい。オーブリー様も…お元気で。』
本当に嬉しそうに綺麗な笑顔でそう応えたのだ。還れる事が…嬉しいのだと…。その笑顔を見ると嬉しさと、それが何だか腹立たしくもあって…彼女の手をとってキスを落とした。途端に、彼女は固まったようだった。そんな彼女の顔を敢えて見ずに、踵を返して訓練場まで走った。
ーあのブレスレットを見る度に…身に着ける度に思い出せばいいー
一緒に居たのはほんの少しの間だけ。会話だってそんなに交わしていない。エスコートできたのも一度だけ。
彼女達が還った後も、俺は普通に過ごせていたと思う。思っていたー
『…パルヴァン邸付きの薬師です。』
『パルヴァン邸付きの薬師の“ルディ”です。お騒がせして…すみませんでした。』
“薬師”─そう聞いて…チクリと胸が痛みを訴えた。そこで初めて気が付いた。
俺はこの1年、“薬師”を避けていた事に。訓練で怪我をしても、魔力を消費して疲れても…薬師の元には行かなかった。
ー行けなかったのだー
診療室に行っても…薬師である彼女が居ないから。その現実を受け入れたくなかったんだろう。自分でも気付かないうちに、彼女の存在がここまで大きくなっているとは…自分自身が一番驚いていて…動揺した。動揺し過ぎて、ルディ殿に挨拶を返しもせず王太子殿下の居る部屋までやって来てしまった。
1年経ってから気付くとは…呆れを通り越して嗤えるな。この視察が終わって王都に帰ったら、飲みにでも行くか…。
そう思いながら、王太子殿下の待つ部屋の扉をノックした。
††ティモス††
「本当に…穢れが全く出てないんですね…」
魔導師であるクレイル=ダルシニアン様が、やや引き気味に囁いた。
確かに、1年前に来た時は体が重く感じる程の穢れがあった。フェンリルが現れた後の穢れは、更に酷かった。それでも、あの聖女様達は更に凄かった。
ーもう、“凄かった”としか言いようがなかったなー
もともと浄化のペースは早かったが、(後でそれがハルだと知ったが)同行した薬師がフェンリルと対面して危なかったと言う事を知るや否や、更にペースが早くなり、且つ、浄化の力も強くなったのだ。
そんな聖女様が3人も居た。
そのお陰で、この森は未だに穢れ知らずだ。
「本当に、色々と規格外な聖女様達だったな。今頃は……。きっと、あのままな4人で元気に過ごしているんだろうな…。」
王太子殿下のその囁きに、僅かに反応してしまう。
ーハルは還れなかったんだー
と、口から出そうになるのをグッと耐える。王太子殿下も、宰相も…国王陛下すら知らないんだ。4人とも還ったと信じているんだ。
ハルが泣いたところなんて、見た事がない。1年前のあの日、俺が問答無用で拘束した時も、地下の牢屋でパルヴァン様と再会した時も。もう、元の世界に還れないと判った時も泣かなかったらしい。
『別に、感傷に浸っている訳じゃないですからね?逆に、何となく…落ち着く感じがするんですよね。なので、変な気は使わないで下さいね!』
そう言って笑っていた。ハルはいつも笑っている。だから、逆に心配になる。俺のこれは、決して恋心ではない。ハルとキスしてそれから…
ーうん。無いな。全く想像できないしー
それに…ハルにも、誰かハルの事を好きになって側で支えてくれる奴が現れてくれたら良いのにとさえ思う。そして、ハルもこの世界で好きな男と幸せになってくれたら良いなと。それはきっと、俺ではないし、俺もそれを望んではいない。“妹”みたいなもんだろうな。それが一番しっくり来る。
ー独り暮らしの事は、もう少し先にしてもらおう。まだまだ心配だー
視察中にも関わらず、そんな事をつらつらと考えていると、前を進んでいたパルヴァン様が
「そう言えば、あのフェンリルはどうなりました?」
「あのフェンリルは、あれ以降おとなしくしているから、あのまま様子をみているんだが…」
と、王太子殿下が言い淀み、その後をダルシニアン様が引き継ぐ様に話し出した。
「自分を拘束した私とエディオルにだけ無関心なんです。殿下に至っては、無関心な時と探るような仕草を取る時があります。この3人以外に対しては、暴れはしないが殺気を放つので、近付く事すら難しいんですよね。」
拘束した相手に無関心?意味が分からない。その反対なら分かるが…。
そう言えば…フェンリルが現れた時、確かに、“怒り”を感じたが、ただそれだけだった。“殺気”は感じなかった。その事に何となく違和感を感じたなと思い出した。
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