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第三章ーパルヴァン辺境地ー
アイスブルー
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「ハル殿、大丈夫だったか?」
ティモスさんとダルシニアン様と別れて別邸に戻ると、シルヴィア様が居た。
今日、パルヴァン様達が鉱山の視察へ出立した後、急にダルシニアン様に森に入らせて欲しいとお願いされたそうだ。おそらく、森には私が居るだろうと思ったけど、王都からの指示を受けての事だろうし、断る事の方が不審がられるだろうと思い、森に立ち入る事を許可をしたそうだ。
「シルヴィア様、大丈夫でしたよ。ティモスさんも居ましたから。ルナさん達と言ってたんですけど、容姿が全然違いますからね。ダルシニアン様も、全然気付いていませんでしたよ。」
「あぁ…確かに容姿は全くの別人だが…動きはハル殿のままだろう?」
ー動き…また出た…動きってー
「とにかく…ハルは元の世界に還ったと思われているし、容姿も変わってるので、そう簡単にはバレないなと思います。」
「まぁ…確かに…そうかもしれない…のか?」
シルヴィア様は、少し納得いかないようだけど、実際、オーブリー様もダルシニアン様も結構近い距離で話したのに気付かなかった。比較的よく話していた2人でこれなら、あまり話した事がない王太子様とカルザイン様も、私に気付く事はないだろう。
「ま、どっちにしろ、後2日だ。明日は邸で今回の視察についての話し合いで、1日本邸に居る。それで、明後日はお昼を食べてからの出立になる。」
「分かりました。」
そして、そろそろグレン達が帰って来るからーと言って、シルヴィア様は本邸へと帰って行った。
その日のゼンさんは特に問題もなかったので、アンナさんが帰った後も私は本邸には行かず、別邸の自分の部屋で夜を過ごした。
翌日(視察5日目)の早朝、元気になったゼンさんが態々別邸に居る私の所にお礼を言いに来てくれた。
「ハル様、今回の事、本当にありがとうございました。また、今日から仕事に復帰いたします。」
「ゼンさんが元気になって良かったです。それでも、病み上がりなので、無理はしないようにして下さいね。」
「はい。」
そう言うと、ゼンさんは本邸へと帰って行った。
自室に戻り、秘密のポーチから、昨日大樹から取って来た魔石を取り出す。
ーやっぱりくすんでるー
何故、あんな所にあったのか…いつからあるのか…結構深い傷痕だったし、結構古い傷だったから、今迄誰も気付かなかったんだろう。
その魔石を両手で包み込む様にして持ち、両目を瞑り、魔石を浄化する。一瞬、手の平が温かくなりーそっと手を広げると…
「綺麗な…アイスブルーの魔石…」
何処かで見た色だと思った。夢?違う…これは…
『ようやく……った。後は……わ…の…な………べ』
頭の中に響く声。
『あ…じ……ずっと……る…』
懐かしく感じる様な…何だか怖いようなその声は、切な気な声だ。
ーこれは、誰の声だった?ー
ーこれは、誰の色だった?ー
「ハル様?」
名前を呼ばれてハッとする。
あれ?また…寝てた?
「お疲れのようですね…。今日は、早目にお風呂の用意をするので、早目に寝ましょうか?」
ルナさんとリディさんが、心配そうに私を見て来る。
「…そう…ですね…。今日は早目に寝ます。」
疲れてる訳ではないと思うけど…寝たら、あの声が聞けるかもしれない。あの色が誰か分かるのかもしれない─そう思って、その日は早目に寝る事にした。
ー綺麗なアイスブルーの瞳ー
私をじっと見据えているそれは、私の目の前に居るのに、そこから動かない。
『やっと…繋がった……じ、後は…の……を……』
「何?よく…聞こえない。」
『今は…これが限界か?』
「限界?」
『お…せ…わ……の……を。そして……べ…』
その声が段々小さくなる。それも見えなくなってくる。
「待って!お願い、あなたは誰?」
手を伸ばしてそれを掴もうとするけど、全然届かない。すると、それは
『ずっと……っている…』
と言って、消えてしまった。
視察も無事に終え、とうとう王太子様一行が王都に帰る日になった。
「予定通り、お昼を食べてから出立されるそうです。それで、王都…王族の関係する視察ですから、邸総出でお見送りする事が決まりなんですが…ハル様はどうされますか?」
別邸の自室で朝食を食べている時、リディさんにそう訊かれた。
「総出かぁ…なら、私も行った方が良いですよね?多分、私の事なんて、居ても居なくても分からないと思うんですけど…一応、ダルシニアン様とオーブリー様とは挨拶を交わしてしまったし…。」
「そう…ですね。でも、結構な人数が居ますし、後ろの方に居れば大丈夫だと思います。」
何しろ、容姿が違う。この邸の人達に紛れていれば、大丈夫だろう─と、私も王太子様一行のお見送りに参加する事にした。
「パルヴァン殿、今回の視察では色々とお世話になりました。この辺境地を治めるのは大変だと思うが、これからも宜しく頼みます。」
「承知した。私も大分老けてしまいましたが、剣を持てる間は、精一杯頑張りますよ。」
王太子様とパルヴァン様がお別れの挨拶を交わすと、王太子様と宰相様が同じ馬車に乗り込んだ。遠目なのでよく分からないが、ダルシニアン様とオーブリー様がティモスさんと何やら言葉を交わしてから、ダルシニアン様は王太子様とは違う馬車に、オーブリー様は馬の居るの方へと移動した。
暫くした後、騎馬隊を先頭にして一行が動き出した。その行列の様は圧巻だ。これで、次は何年後かは分からないけど、次の視察がある時迄会う事も見る事もないだろう。
王太子様の乗った馬車が、(私は後ろの方に居る為、距離はあるが)私の目の前を通り過ぎる。その馬車の斜め後ろに、騎乗したカルザイン様が居た。
ーあ、カルザイン様だ。結局、ネックレスのお礼も、私の態度の謝罪もできなかったなぁー
と思いながら見ていると
鋭く観察するような目のカルザイン様と目があったー
その瞬間、カルザイン様が大きく目を見開いた様にみえた。
ーえ?何?私を…見てる?ー
ドクリッー
と、嫌な心音を響かせたが、そのまま、カルザイン様を含めその一行は止まらずそのまま進み続け、パルヴァン邸を後にした。
目が合ったのも、気のせいかもしれない。結構距離はあったし、この容姿だし…。
少し…ほんの少しだけカルザイン様の様子が気にはなったが、これでようやく普通の日々が戻って来る喜びで、その事はすぐ思考の波から外れていった。
ティモスさんとダルシニアン様と別れて別邸に戻ると、シルヴィア様が居た。
今日、パルヴァン様達が鉱山の視察へ出立した後、急にダルシニアン様に森に入らせて欲しいとお願いされたそうだ。おそらく、森には私が居るだろうと思ったけど、王都からの指示を受けての事だろうし、断る事の方が不審がられるだろうと思い、森に立ち入る事を許可をしたそうだ。
「シルヴィア様、大丈夫でしたよ。ティモスさんも居ましたから。ルナさん達と言ってたんですけど、容姿が全然違いますからね。ダルシニアン様も、全然気付いていませんでしたよ。」
「あぁ…確かに容姿は全くの別人だが…動きはハル殿のままだろう?」
ー動き…また出た…動きってー
「とにかく…ハルは元の世界に還ったと思われているし、容姿も変わってるので、そう簡単にはバレないなと思います。」
「まぁ…確かに…そうかもしれない…のか?」
シルヴィア様は、少し納得いかないようだけど、実際、オーブリー様もダルシニアン様も結構近い距離で話したのに気付かなかった。比較的よく話していた2人でこれなら、あまり話した事がない王太子様とカルザイン様も、私に気付く事はないだろう。
「ま、どっちにしろ、後2日だ。明日は邸で今回の視察についての話し合いで、1日本邸に居る。それで、明後日はお昼を食べてからの出立になる。」
「分かりました。」
そして、そろそろグレン達が帰って来るからーと言って、シルヴィア様は本邸へと帰って行った。
その日のゼンさんは特に問題もなかったので、アンナさんが帰った後も私は本邸には行かず、別邸の自分の部屋で夜を過ごした。
翌日(視察5日目)の早朝、元気になったゼンさんが態々別邸に居る私の所にお礼を言いに来てくれた。
「ハル様、今回の事、本当にありがとうございました。また、今日から仕事に復帰いたします。」
「ゼンさんが元気になって良かったです。それでも、病み上がりなので、無理はしないようにして下さいね。」
「はい。」
そう言うと、ゼンさんは本邸へと帰って行った。
自室に戻り、秘密のポーチから、昨日大樹から取って来た魔石を取り出す。
ーやっぱりくすんでるー
何故、あんな所にあったのか…いつからあるのか…結構深い傷痕だったし、結構古い傷だったから、今迄誰も気付かなかったんだろう。
その魔石を両手で包み込む様にして持ち、両目を瞑り、魔石を浄化する。一瞬、手の平が温かくなりーそっと手を広げると…
「綺麗な…アイスブルーの魔石…」
何処かで見た色だと思った。夢?違う…これは…
『ようやく……った。後は……わ…の…な………べ』
頭の中に響く声。
『あ…じ……ずっと……る…』
懐かしく感じる様な…何だか怖いようなその声は、切な気な声だ。
ーこれは、誰の声だった?ー
ーこれは、誰の色だった?ー
「ハル様?」
名前を呼ばれてハッとする。
あれ?また…寝てた?
「お疲れのようですね…。今日は、早目にお風呂の用意をするので、早目に寝ましょうか?」
ルナさんとリディさんが、心配そうに私を見て来る。
「…そう…ですね…。今日は早目に寝ます。」
疲れてる訳ではないと思うけど…寝たら、あの声が聞けるかもしれない。あの色が誰か分かるのかもしれない─そう思って、その日は早目に寝る事にした。
ー綺麗なアイスブルーの瞳ー
私をじっと見据えているそれは、私の目の前に居るのに、そこから動かない。
『やっと…繋がった……じ、後は…の……を……』
「何?よく…聞こえない。」
『今は…これが限界か?』
「限界?」
『お…せ…わ……の……を。そして……べ…』
その声が段々小さくなる。それも見えなくなってくる。
「待って!お願い、あなたは誰?」
手を伸ばしてそれを掴もうとするけど、全然届かない。すると、それは
『ずっと……っている…』
と言って、消えてしまった。
視察も無事に終え、とうとう王太子様一行が王都に帰る日になった。
「予定通り、お昼を食べてから出立されるそうです。それで、王都…王族の関係する視察ですから、邸総出でお見送りする事が決まりなんですが…ハル様はどうされますか?」
別邸の自室で朝食を食べている時、リディさんにそう訊かれた。
「総出かぁ…なら、私も行った方が良いですよね?多分、私の事なんて、居ても居なくても分からないと思うんですけど…一応、ダルシニアン様とオーブリー様とは挨拶を交わしてしまったし…。」
「そう…ですね。でも、結構な人数が居ますし、後ろの方に居れば大丈夫だと思います。」
何しろ、容姿が違う。この邸の人達に紛れていれば、大丈夫だろう─と、私も王太子様一行のお見送りに参加する事にした。
「パルヴァン殿、今回の視察では色々とお世話になりました。この辺境地を治めるのは大変だと思うが、これからも宜しく頼みます。」
「承知した。私も大分老けてしまいましたが、剣を持てる間は、精一杯頑張りますよ。」
王太子様とパルヴァン様がお別れの挨拶を交わすと、王太子様と宰相様が同じ馬車に乗り込んだ。遠目なのでよく分からないが、ダルシニアン様とオーブリー様がティモスさんと何やら言葉を交わしてから、ダルシニアン様は王太子様とは違う馬車に、オーブリー様は馬の居るの方へと移動した。
暫くした後、騎馬隊を先頭にして一行が動き出した。その行列の様は圧巻だ。これで、次は何年後かは分からないけど、次の視察がある時迄会う事も見る事もないだろう。
王太子様の乗った馬車が、(私は後ろの方に居る為、距離はあるが)私の目の前を通り過ぎる。その馬車の斜め後ろに、騎乗したカルザイン様が居た。
ーあ、カルザイン様だ。結局、ネックレスのお礼も、私の態度の謝罪もできなかったなぁー
と思いながら見ていると
鋭く観察するような目のカルザイン様と目があったー
その瞬間、カルザイン様が大きく目を見開いた様にみえた。
ーえ?何?私を…見てる?ー
ドクリッー
と、嫌な心音を響かせたが、そのまま、カルザイン様を含めその一行は止まらずそのまま進み続け、パルヴァン邸を後にした。
目が合ったのも、気のせいかもしれない。結構距離はあったし、この容姿だし…。
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