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第三章ーパルヴァン辺境地ー
心残り
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「今回の視察で、全て吹っ切ろうと思っていたのに…逆効果だった…」
パルヴァン邸を出から2日目の宿泊地、王家所有の離宮にある、ランバルトの部屋で、ランバルトとクレイルとエディオルの3人でお茶を飲みながら寛いでいた時、またまたランバルトが徐に話し出した。そして、項垂れている。
「え?ランバルト…この視察で吹っ切れると…本気で思ってたの?」
ランバルトの言葉に、クレイルが呆れた顔をしながら言い放った。
「ぐぅっ…クレイル…もう少し優しくできないのか!?」
「えー?優しくする必要ありますか?」
「くそっ…」
ランバルトは、そのままテーブルに突っ伏した。
「はぁー。ランバルト。ランバルトが、聖女様だからじゃなくて、ミヤ様だから好きだったって事は…俺はちゃんと分かってるつもりだよ?だから、この視察で、視察だけで吹っ切れる事なんて出来ないって分かってた。それは、ランバルト自身も分かってただろう?」
「…クレイル…」
ランバルトが軽く顔を上げてクレイルを見る。
「でもね、仕方無いだろう?聖女様達には…皆元の世界に婚約者が居たそうだし、その婚約者の元に還りたいと言っていたんだから。」
「…クレイル…お前は、俺を慰めたいのか?それとも…心を抉りたいのか?」
「どっちもかな?」
と、クレイルは綺麗な笑顔で答えた。その、ご令嬢が見れば卒倒しそうな程の綺麗な笑顔は…
「エディオル、何故クレイルは機嫌が悪いんだ?」
クレイルの機嫌が悪い、若しくは、キレている時の笑顔だ。
「……」
「エディオル?」
いつもなら、この2人のやりとりに口を挟んで来る筈のエディオルだが、ランバルトの呼び掛けにも反応しなかった。不思議に思い、ランバルトとクレイルはエディオルの方を見ると、心此処に有らずと言った感じで、じっと手に持っているティーカップ見詰めていた。
「エディオルは…どうした?」
「さぁー…でも、この二日間…パルヴァン邸を出た辺りから妙に静かですね…」
「エディオル?」
もう一度、ランバルトがエディオルの名前を呼ぶと、ようやく呼ばれた事に気が付いた。
「あぁ…すまない。何ですか?」
「何ですかって…お前、大丈夫か?疲れているなら、もう部屋に下がって休んで良いぞ?」
困ったようにランバルトが言うと
「そうだな…」
と言って、エディオルは自身に充てがわれた部屋へと下がって行った。
「それで?王都に帰ったら、ちゃんと婚約者の選定が出来るの?いや、やらなきゃいけないんだけどね。イリスが居るから、絶対逃げられないだろうし…大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないかもしれないが、選ぶしかないだろう?私は…王太子だ。結婚しない訳にはいかないからな。今更だが、最後に思いっきりフラれてしまった方が良かったと思うよ。」
ランバルトは、政治的手腕と言うか、王としての素質は十分あるのだが…恋愛面ではダメダメなのだ。
ハル殿の一件以降、それ以上ミヤ様に嫌われたくないランバルトは、優しい王子をもっとうにミヤ様に接していたのだ。気持ちを押し付ける事も、口にして伝える事もしなかった。それが、かえって心残りになっているのだ。
ー最後の最後でやらかして、ベラトリス王女に引き摺られて行ったけどー
せめて、最後に気持ちを伝えて、バシッとフラれていたら、ランバルトもここまで引き摺ってなかっただろう。
ー人の事は…言えないがー
最近では、無意識に左耳のピアスを触っている事がある。彼女達が消えた後に残った魔石。
ランバルトとエディオルは気付いていないと思うが、この魔石には何か魔力が込められている。それが何か…魔導師の私にもハッキリとは分からない。
そして、水色の魔石。
黒色は彼女達4人の色。水色は?
フードの下から見えた彼女の瞳は、淡い水色だった。
フルフルと頭を振る。
ハル殿の瞳は…茶色に近い黒だった。髪は勿論黒色だった。
同じ“薬師”と言うだけで、ハル殿と比べてしまっている自分に…本当に呆れる。居なくなってから気付くなんて…ランバルトより質が悪い。そんな自分に苛ついているのだ。
今回の視察で、思い出の地に来れば、何かが変わるかもしれないと思ったりもしたが…
「逆に思いが強くなったんじゃないか?」
思わず口から溢れた言葉に、ランバルトが反応する。
「う゛っ…そうかもしれないな…」
と、呻き声をあげながら、ランバルトはまたテーブルに突っ伏した。
うん。ランバルトは完璧にアウトだね。まぁ、イリスがキッチリと締め上げるだろう。王都に帰ったら、色々と忙しくなるだろう。
ー私とエディオルには無関心。ランバルトには無関心の時と探る様な時があるー
フッと何かが引っ掛かった。
この3人に共通するのは…このピアスだ。私とエディオルは、このピアスを手にしてから毎日着けている。ランバルトは…公務の時に外す事も…あった。
ーこの魔石に込められている魔力は…誰の魔力だ?ー
王都に帰ったら、私も忙しくなりそうだ…
そう思いながら、また左耳のピアスに手を当てた。
パルヴァン邸を出から2日目の宿泊地、王家所有の離宮にある、ランバルトの部屋で、ランバルトとクレイルとエディオルの3人でお茶を飲みながら寛いでいた時、またまたランバルトが徐に話し出した。そして、項垂れている。
「え?ランバルト…この視察で吹っ切れると…本気で思ってたの?」
ランバルトの言葉に、クレイルが呆れた顔をしながら言い放った。
「ぐぅっ…クレイル…もう少し優しくできないのか!?」
「えー?優しくする必要ありますか?」
「くそっ…」
ランバルトは、そのままテーブルに突っ伏した。
「はぁー。ランバルト。ランバルトが、聖女様だからじゃなくて、ミヤ様だから好きだったって事は…俺はちゃんと分かってるつもりだよ?だから、この視察で、視察だけで吹っ切れる事なんて出来ないって分かってた。それは、ランバルト自身も分かってただろう?」
「…クレイル…」
ランバルトが軽く顔を上げてクレイルを見る。
「でもね、仕方無いだろう?聖女様達には…皆元の世界に婚約者が居たそうだし、その婚約者の元に還りたいと言っていたんだから。」
「…クレイル…お前は、俺を慰めたいのか?それとも…心を抉りたいのか?」
「どっちもかな?」
と、クレイルは綺麗な笑顔で答えた。その、ご令嬢が見れば卒倒しそうな程の綺麗な笑顔は…
「エディオル、何故クレイルは機嫌が悪いんだ?」
クレイルの機嫌が悪い、若しくは、キレている時の笑顔だ。
「……」
「エディオル?」
いつもなら、この2人のやりとりに口を挟んで来る筈のエディオルだが、ランバルトの呼び掛けにも反応しなかった。不思議に思い、ランバルトとクレイルはエディオルの方を見ると、心此処に有らずと言った感じで、じっと手に持っているティーカップ見詰めていた。
「エディオルは…どうした?」
「さぁー…でも、この二日間…パルヴァン邸を出た辺りから妙に静かですね…」
「エディオル?」
もう一度、ランバルトがエディオルの名前を呼ぶと、ようやく呼ばれた事に気が付いた。
「あぁ…すまない。何ですか?」
「何ですかって…お前、大丈夫か?疲れているなら、もう部屋に下がって休んで良いぞ?」
困ったようにランバルトが言うと
「そうだな…」
と言って、エディオルは自身に充てがわれた部屋へと下がって行った。
「それで?王都に帰ったら、ちゃんと婚約者の選定が出来るの?いや、やらなきゃいけないんだけどね。イリスが居るから、絶対逃げられないだろうし…大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないかもしれないが、選ぶしかないだろう?私は…王太子だ。結婚しない訳にはいかないからな。今更だが、最後に思いっきりフラれてしまった方が良かったと思うよ。」
ランバルトは、政治的手腕と言うか、王としての素質は十分あるのだが…恋愛面ではダメダメなのだ。
ハル殿の一件以降、それ以上ミヤ様に嫌われたくないランバルトは、優しい王子をもっとうにミヤ様に接していたのだ。気持ちを押し付ける事も、口にして伝える事もしなかった。それが、かえって心残りになっているのだ。
ー最後の最後でやらかして、ベラトリス王女に引き摺られて行ったけどー
せめて、最後に気持ちを伝えて、バシッとフラれていたら、ランバルトもここまで引き摺ってなかっただろう。
ー人の事は…言えないがー
最近では、無意識に左耳のピアスを触っている事がある。彼女達が消えた後に残った魔石。
ランバルトとエディオルは気付いていないと思うが、この魔石には何か魔力が込められている。それが何か…魔導師の私にもハッキリとは分からない。
そして、水色の魔石。
黒色は彼女達4人の色。水色は?
フードの下から見えた彼女の瞳は、淡い水色だった。
フルフルと頭を振る。
ハル殿の瞳は…茶色に近い黒だった。髪は勿論黒色だった。
同じ“薬師”と言うだけで、ハル殿と比べてしまっている自分に…本当に呆れる。居なくなってから気付くなんて…ランバルトより質が悪い。そんな自分に苛ついているのだ。
今回の視察で、思い出の地に来れば、何かが変わるかもしれないと思ったりもしたが…
「逆に思いが強くなったんじゃないか?」
思わず口から溢れた言葉に、ランバルトが反応する。
「う゛っ…そうかもしれないな…」
と、呻き声をあげながら、ランバルトはまたテーブルに突っ伏した。
うん。ランバルトは完璧にアウトだね。まぁ、イリスがキッチリと締め上げるだろう。王都に帰ったら、色々と忙しくなるだろう。
ー私とエディオルには無関心。ランバルトには無関心の時と探る様な時があるー
フッと何かが引っ掛かった。
この3人に共通するのは…このピアスだ。私とエディオルは、このピアスを手にしてから毎日着けている。ランバルトは…公務の時に外す事も…あった。
ーこの魔石に込められている魔力は…誰の魔力だ?ー
王都に帰ったら、私も忙しくなりそうだ…
そう思いながら、また左耳のピアスに手を当てた。
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