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第四章ー王都ー
エディオル=カルザイン
しおりを挟むー何故、彼女が…騎士団訓練場に居る?ー
少しずつおかしくなっていったランバルトを、グレン様が訓練に引き摺り出して行った日。そのランバルト─王太子としてからの命を受け、聖女様の護衛をしていた。
「エディオル様、私…ランバルト様の訓練の様子が見てみたいです。」
と願われた。
ー誰が、いつ、名前呼びを許した?ー
その言葉を呑み込むように口にグッと力を入れ、ソレとは違う言葉を吐き出す。
「分かりました。では、聖女様の準備が整い次第…訓練場に向かいましょう。」
今日の指導者はグレン様だ。きっと…皆、やられているだろう…。
そう思いつつ、聖女様を訓練場迄案内した。
「エディオル!」
訓練場に着くと、第一騎士団団長である父に名を呼ばれる。すると、ビックリするように目の前に居る女性が振り向いた。
また、ドクンッと、心臓が反応する。
2日前に見た時は気を失っていて、見れなかった─淡い水色の瞳。
ーあぁやっぱり彼女だ。本当に綺麗な瞳だー
と見惚れてしまっていると
「まぁ…今日は酷い惨状ですね?誰がこんな酷い事を?怖いです…」
と言いながら、聖女様は俺の腕にしがみついてきた。
思わず眉間に皺が寄る。
それから、グレン様がキレかけたのを、彼女がなんとかその場を収めてくれた。
『あのパルヴァン伯付きの薬師は天使だった』
と、第一騎士団の騎士達の間で言い広がって行った。勿論、否定はしない。
それから数日後、彼女が改めてグレン様と共に国王陛下に謁見する為に王城にやって来た。何故か、俺も同席するようにと言われた。
そして、彼女はこれからこの世界で、“ルディ”ではなく、“ハル”として生きて行く為に来たと言う。
ーそうか、彼女は、もう逃げずにこの世界で前に進む事にしたのかー
ならば、俺は動くだけだ。
次があれば間違えないと、手放さないと決めていた。
すぐにパルヴァン辺境地に帰ってしまうだろうから、どうやって引き留めるか…と思案していたが…ランバルト達に感謝…だな…。
特に酷く影響が出ているのがランバルト。それと、第一と近衛の騎士数名と、イリス。調べると言うのなら、案内と護衛も兼ねていて、ランバルトと第一と近衛の騎士にイリスと、全て俺と接点がある所ばかりだから、俺が適任だろうと思い、付き添いを申し出た。そこに、魔導師としてクレイルも口を出してくる。
彼女からは、どっちでも良いとか…他の人でも良いとか言われたが…。
国王陛下や宰相、グレン様の生暖かい目は、正直居たたまれなかったが、彼女と共に行動ができる事になったから、よしとする。
クレイルは、彼女を気に入っている…と言うか、好きなんだろう。クレイルの彼女を見る目は、とても優しい。俺は、クレイルの事は幼馴染であり友であり、これからランバルトを共に支えて行く、よき仲間だと思っているし、魔導師としてのクレイルを尊敬している。
だけど─
ー彼女だけは譲れない。譲る気なんて微塵も無いー
そんな時、クレイルに声を掛けられた。
「確かに…ハル殿の事は、好きなんだと思う。でも、それ以上に、エディオルがハル殿と幸せになれれば良いのにと思ってるんだ。」
「クレイル…」
本当に、こう言う奴の事を“男前”と言うんだろう。
「でもね…エディオル…」
「ん?」
「私が、ハル殿を“可愛い”と思う位は許して欲しい。」
ー…は?ー
「好きとか、ハル殿とどうこうなりたいとかは関係無く、可愛いと思ってしまうのは仕方無いだろう?その度に、お前が目で私を殺しに掛かって来るのは…止めて欲しい!可愛いと思う事位は許して欲しい!」
「……」
「…何か反応してくれる?コレ、言ってて結構恥ずかしいんだよ!?」
「あぁ…恥ずかしい自覚はあったんだな…」
「流石にあるよ!」
顔を真っ赤にするクレイルなんて、初めて見た気がする。女性に関しては、比較的自由奔放だったクレイルだが、浄化の旅以降は浮いた話一つとしてなかった。その事に、クレイル本人は気付いているんだろうか?
ー彼女だけは譲らないけどー
「ははっ…許すも何も、思うのは自由だ。それに反応してしまうのも…自由だと思うが?」
「嗤うな!自由って事も分かってるよ。でもね、お前のあの目、本当に怖いんだよ!だから、恥を忍んでお願いしているんだ!」
「必死になってるお前も、ある意味怖いけどな…」
「──っ!!煩いよ!と…兎に角、可愛いと愛でる事位は許してもらうからな!はい!この話はコレでおしまい!」
それじゃあ、神殿に帰るから!と言って、早足で去って行った。
6歳程年下の女の子に、2人揃って振り回されるなんて…誰が予想できただろうか?と、思わず笑みがこぼれた。
「では、明日、王太子様のお話を聞かせて下さい。」
そう言って、彼女はグレン様と王都のパルヴァン邸へと帰って行った。
ー明日ー
明日もまた、彼女─ハル殿に会える。挨拶も正式に交わした。もう、この世界から消えることはない。
「ハル…殿──」
愛しい人の名前を──ようやく呼ぶ事ができた。
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