129 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー
居場所
しおりを挟む「本当に…そうかなぁ?だってさぁ…フェンリルと名を交わしたと言っても、真名じゃないだろ?それ、意味ないからね─」
「─え?」
「本来、真名じゃないと名を交わしても繋がれる事はないんだ。でも、繋がれた。それは、あんたの中に微かだけどパルヴァンの巫女の魔力が流れているから。その魔力に“レフコース”の魔力が反応しただけ。だから…あんた達の繋がりは…とても脆い。そこに、本当に繋がる筈だった宮下香が割り込んで来たら…どうなるんだろうね?」
目の前に居る魔法使いは、本当に愉快そうに嗤う。
「“強制力”って分かる?例え違うように進んだとしても、結局は基在るところに向かうんだよ。あんたが真名で交わさなかったのも…後々あのフェンリルが宮下香と改めて名を交わす為だったんじゃない?あんたは自分で選んだと思ってるかもしれないけど…そうじゃないかもね?」
それから、その魔法使いは「はははっ」と声を出して嗤った後、少し真顔になり
「モブなんて、所詮そんな存在なんだよ。俺だって“魔法使い”だからやりたい放題してるようにみえるけど…俺だって本来はこのゲームに存在しない者なんだ。国に保護されて…自由なんてなかった。居場所もなかった。記憶が戻って…それも腹立たしくなって…。大人しくしてるのも嫌になって…。気が付けば、俺の作ったゲームのシナリオも変わっていて、更に腹が立った。それで思ったんだ。俺がこの世界に転生したのは、そのシナリオを正す為だったんじゃないかって─。」
魔法使いは、両肘を机に着いたまま両手を組んで、その上に自身の顎を乗せ、私をしっかりと見据える。
「─なぁ、ハル。俺のところに来い。ここはハルの場所じゃない。俺が作ってやる。」
お互いに視線を逸らさず、沈黙が続く。
先に視線を逸らしたのは─魔法使いだった。
「…ここまでか…。」
隣の部屋─寝室で寝ているレフコースが、起きた気配がしたのだ。私が軽く眠りの魔法を掛けていたのだけど、その魔法が切れたようだ。
「なぁ、さっき言った事、本気で考えておいて?きっと、これから宮下香は…あんたの居場所を奪って行く筈だから。それと─俺はこの世界では─“リュウ”と呼ばれてる。俺のところに来る気になったら、俺の名前を呼んでくれ。じゃあね。」
そう言って、魔法使い─リュウは一瞬にして姿を消し去った。
『主?』
隣の寝室に繋がる扉が開き、首を傾げながらレフコースが私の足元まで寄って来た。
『どうか…したか?』
スリッと私の左手に顔を擦り付けるレフコース。
ー本当に可愛いなぁー
しゃがみ込んでワシャワシャと撫で回した後、レフコースの首にギュッと抱き付く。
「嫌な…怖い夢を見ちゃって…眠れなくなっちゃって…。」
『ふむ。なら…あの騎士でも呼んで話でもするか?』
「いやいやいや!それは絶対しちゃ駄目だからね!?しちゃ駄目なやつだからね!?」
『?あの騎士なら…喜んで来ると思うぞ?』
と、首をコテンとするレフコース…可愛い筈なのに…何となく小悪魔に見えるのは…私が疲れているから…と言う事にしておこう。
『─なぁ、ハル。俺のところに来い。ここはハルの場所じゃない。俺が作ってやる。』
首をふるふると振り、そっと息を吐く。
ー惑わされるなー
ここは、私が居て良い場所─なんだ。大丈夫。
そっと自分に言い聞かせた。
「やっぱり…ルナさんとリディさんは…ゼンさんと一緒に騎士団の訓練に行ってるんですね…。」
「はい。ロンも行ってますよ。」
今日は予定通り、第一騎士団の訓練に差し入れを持って行く為に、朝早く起きて調理場に向かうとクロエさんが待っていてくれていた。
「クロエさんは行かなくても良かったんですか?」
「義父は別として…私は、あの3人程の腕前が無いので、行きたくても行けないんです。」
「…あのー…ひょっとして…ルナさんとリディさんって…凄いんですか?」
と訊けば、クロエさんは何も言わずにニッコリと微笑む。
ーやっぱりかー
うん。分かってました。パルヴァン様の訓練を見に行った時に…あの2人は…元気に立っていたもんね…無傷で。そんな凄い2人が…私の侍女兼護衛って…可笑しくない?無駄遣いしてない?これはちょっと相談案件だよね?
「あぁ、ハル様は何も気にする必要はありませんよ?あの2人はハル様の侍女になりたくて、勝ち抜いた2人ですから。無駄遣いではありません。」
「…ソウナンデスネ…」
ーだから、何で、皆、私の思ってる事が分かるの!?ー
「ハル様は分かりやすいですからね。まぁ…そこがハル様の可愛いところですよね?ふふっ」
ーえー…“凄い”を通り越して“怖い”ですよ?ー
「えっと…取り敢えず…時間も限られてますから…サクサクと作りましょう!」
と、自分に言い聞かせて差し入れの準備を始めた。
191
あなたにおすすめの小説
水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います
黒木 楓
恋愛
伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。
異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。
そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。
「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」
そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。
「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」
飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。
これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる