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第五章ー聖女と魔法使いとー
遠慮無く
しおりを挟む「恥ずかしい!!!」
「すみません。でも…あそこを通らないと食堂に行けなかったので…。」
そうです、ルナさんは何も悪くないんです。
エディオル様に、だっ…抱き締められたりした訳ですが…そこが…玄関入ってすぐの所だった…事をスッカリ忘れていたんです。ルナさんをはじめ、色んな人達が…気を使ってってくれて見てないフリをしてくれていたらしいんです。でも、流石にこのままでは夕食の準備が間に合わない─と、ルナさんが申し訳なさそうに…声を掛けてくれたんです。
『カルザイン様、そろそろハル様をお離しいただけますか?申し訳ありませんが、ここを通らなければ、私達も仕事ができませんので…。それと、そろそろ、ハル様も限界かと…』
ー“限界”正しくそうでしたー
私、きっとあのままだと倒れてたよね…。あんな所を見られてて恥ずかしかったけど、ルナさんには感謝だ。それから、エディオル様は客室へ、私は自室へと戻って来た。
「それで…ハル様は、パルヴァンには、帰らないんですか?」
「え?帰りますよ?」
「「えっ!?」」
これには、ルナさんだけではなく、リディさんも同時に反応した。
「もともと帰る予定で王都に来たわけだし。一度パルヴァンに帰って、皆にちゃんと私の…気持ち?も説明して、皆に今までのお礼とか挨拶をしてから…また王都に出て来ようかな?って。」
エディオル様と離れるのは…ちょっぴり寂しい…けど、このままパルヴァンに帰らずに─何て事は考えられない。還れなかった私を、優しく受け入れてくれた場所なんだ。
「兎に角、一度、ゼンさんと一緒にパルヴァンには帰ります。」
レフコースにとっても、久し振りのパルヴァンだよね?って…あれ?そう言えば…レフコース、まだ帰って来てないよね?何処かで昼寝でもしてるのかな?
『主、ただいま。』
そう言いながらレフコースが帰って来たのは、夕食を食べ終えた後だった。
「レフコース!少し遅いから、心配したよ!?何かあった?」
『散歩していたら、王都の外れ迄行ってしまったのだが、そこでいい昼寝場所を見付けてな?グッスリ眠ってしまっていたのだ…』
と、少し恥ずかしそうに俯いて、前足で顔を掻く…
ーって、それ!可愛いなぁ!!ー
と、勿論抱き付きました!!やっぱりレフコースは癒しです!今日もありがとうございます!
ひとしきり、レフコースをモフモフした後、レフコースと一緒にゼンさんの居る執務室に行くと、そこには何故かエディオル様も居た。
「あ、すみません。また出直した方が良いですか?」
と訊くと、エディオル様が
「いや、こちらの話は終わったから大丈夫だ。それより…今からの話に、私もここに居ても良いだろうか?」
と、逆に訊かれたので、大丈夫ですと答えて、そのまま3人で話をすることになった。
「先ず、私がパルヴァンに帰るのは…予定よりも少し遅くなりました。一週間後になります。それと、イリス=ハンフォルト様からお願いをされたのですが…。パルヴァンに戻る前に、ベラトリス王女様に会って欲しいと。王女殿下は今視察で王都にいらっしゃらないそうですが、4日後に帰城され、5日後には時間が作れるそうです。どうしますか?」
ーベラトリス様かー
「はい、ベラトリス様と…サエラさんには…会いたいです。」
「分かりました。では、イリス様に連絡をとっておきます。それで─」
と、ゼンさんはチラリとエディオル様を見た後、また私に視線を戻して
「ハル様も、一週間後、私と一緒にパルヴァンに帰る─と言う事で良いのでしょうか?」
「…はい。一緒に帰ります。」
レフコースの耳がピクッと反応したのと同時に、エディオル様が息を呑んだのが分かった。
「それで…パルヴァン様とシルヴィア様に私の気持ちを伝えて…お世話になった人達にお礼と挨拶ができたら…また、王都に戻って来ようかなと…思っています。」
私の気持ちを伝えると、レフコースはまた尻尾をフリフリしだし、エディオル様はフッと息を吐いた。
そしてゼンさんは、優しい目をしていて
「そうですか…。」
とだけ、呟いた。
*ハルが寝た後の執務室にて*
「ハル様が…」
と呟いた後、ゼン殿が固まった。
ーこれは、声を掛けずに黙って待っておくのが良いだろうー
と思い、黙ったままゼン殿を見ていた。
「娘を…嫁に出す心境とは…辛いものなんですね…」
ー“嫁”!?いや…気が早すぎないか?悪くない響きだがー
「気が早いとか思ってるだろう?」
ー出たな…裏のゼン殿がー
「パルヴァンと王都がどれだけ離れていると?パルヴァンから…私達の手から離れて行ってしまうんだ。エディオル様も、逃がす気は微塵もないだろう?ならば、嫁に行くのも同然だろう。」
ーハル殿は、本当にパルヴァンの三強に可愛がられているんだなー
と思うが─。ハル殿がパルヴァンを出て、王都に来ると言うなら…ゼン殿が言う通り、逃がす気は微塵も無い。遠慮なく捕まえるだけだ。
「あぁ、勿論逃がす気なんてないから、遠慮無くいただきますよ。」
と、エディオルはニッコリ微笑んだ。
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