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第五章ー聖女と魔法使いとー
届かなかった手紙
しおりを挟む「手紙が…届いていなかった?」
「はい。こちらには、父からは勿論の事、カルザイン様からの手紙も一切届いていません。」
その瞬間、サッと血の気が引いたのが分かった─。
同じ王城に居たにも関わらず、何日かぶりにゼン殿と会ったなと思ったら
『問題が起きました。今すぐパルヴァン邸に戻ります。陛下の許可も取っています。』
と、強ばった顔をしたゼン殿に言われるがままにランバルトの執務室を後にした。
事の始まりは、ハル殿があの魔法使いと面会をして、その面会時の話の内容を聞いてからだった。もともと、そうかも知れない─と、疑ってはいた。
ランバルトを始め、おかしくなった者達。その者達の共通の接点が、聖女様─カオル=ミヤシタ─だったのだ。ただ、魔導師長の鑑定では、聖女様には浄化の力しかなかった。その為、偶然か?と、思われたりもしていた。
『…誰か─までは口にしませんでしたけど、あの魔法使いは“彼女”を幸せにする為に”と言っていたんです。』
ハル殿はそう言った。“彼女”とは、おそらく聖女様の事だろう。そして、真名でハル殿を操ろうとした魔法使い。しかも、2人は同郷だ。繋がっている可能性がある。
「どうも、聖女様は、エディオルとレフコース殿に執着しているようだな。」
「は?俺に?」
暫くの間、聖女様を監視していた魔導師の報告書に目を通しながら、ランバルトが言った。
「私達の前では何も言わないが、聖女様付きの侍女達には、“あの薬師が、嫌がるエディオル様に纏わりついていて、エディオル様が気の毒で─”とか、“本当は、私と一緒に居たいと言っているのに…”とか…ある事ない事言っているみたいだぞ?」
「それさぁ…寧ろ…逆だよね?纏わり付いているのは、エディオルの方だよね?」
と、クレイルがボソッと呟く。
ークレイルの言っている事が間違っていないから…反論できないー
「だよね?私もそう思ったし、知ってる者はそれが嘘だと分かるんだけどね…。でも、実際はそう甘くないみたいだよ?」
そう。ハル殿の存在は皆が知っている訳ではない。逆に、聖女様は王国内の人が知っているだろう。聖女様とは国を救ってくれる尊い存在。清廉潔白なイメージがある。だから、聖女様の言う事を疑うと言う事がないのだ。
「でもね…監視した者からは、面白い情報も上がって来てる。あの聖女様、目下の者には…容赦ないね。私達権力者や見目麗しい貴族にはか弱い姿しか見せないけど…特に目下の女性には、当たりがキツイみたいだね。」
しかし、彼女はボロを出さない。その上、ハル殿のあのやらかしが、今になってネックになっているのだ。
「苛められている」
と訴えても、それを疑われる。しかも、逆に
「聖女様は本当に、優しい。」
と言う者も居る為、苛められていたとしても余計に信じてもらえないのだ。
そんな感じで、王城内の秩序も乱れつつあり─
「エディオル=カルザインと、恋仲になった様に思わせて、油断させて、ついでに魔法使いとの繋がりをハッキリさせて纏めて片付ける。その間のハル殿との接触は禁止。この件についても…内密に。」
「は?ランバルト、何言ってるか分かってる?ハル殿と接触禁止の上に内密って…ソレは無しだろ!?」
と、俺よりも先にクレイルが反論した。
「…俺もそう思う。魔法使いを捕まえる為なら…聖女様の相手位…するが、ハル殿に伝えられないなら…俺はやりたくない。」
そう言うと、ランバルトは苦しそうな顔をして
「エディオル=カルザイン。これは貴族院で決定された─王命に近いものがある。今日、これ以降から聖女─カオル=ミヤシタ─の付き添いを命じる─。」
クレイルが睨むようにランバルトを見つめている。
「……承知…しました。」
スッと頭を下げる─しかできない。
「…本当に…知らないからね?」
クレイルはランバルトにそれだけ言って、俺の肩を優しく叩くと、そのまま執務室から出て行った。
「…すまない…エディオル。貴族院は、これ以上、ハル殿を危険に晒したくないらしい。魔法使いが、王太子を助け、グレン殿やゼン殿も助けた薬師に興味を持っている…と、貴族のお偉い方にバレたんだ。貴族院は、薬師としてのハル殿を…失いたくないと─。」
父である第一騎士団長と宰相様は、最後まで、ハル殿には言うべきだと反論していたそうだが、その薬師を守るべきだ─と最終的には、貴族院に押し切られたそうだ。
「接触禁止だが…手紙のやり取り位は…大丈夫だろう。」
ハル殿がパルヴァンに戻る迄、更に囲い込むつもりだった。確かに、あの魔法使いを野放しにしておくのも危険だ。
ーハル殿には、手紙を飛ばそうー
そして始まった、聖女様の付き添い。
そして、以前と同じように、異様な早さで広まる俺と聖女様の噂。
ー噂は信じないで欲しい。終わったら全て話すから、待っていて欲しいー
ーずっと側に居たいと思うのは、ハル殿だけだー
ーハル殿に…会いたいー
恥ずかしい─何て言っていられない程に、不安な気持ちを掻き消すようにハル殿に手紙を飛ばした。
その手紙が…一切ハル殿には届いていなかったのだ。
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