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第五章ー聖女と魔法使いとー
伝わっていなかった想い
しおりを挟む元ハル殿の部屋の庭で、ハル殿と出くわした。
ー何故…ハル殿がここに?ー
心臓が嫌な音を立てる。
すると、俺に寄り添うように立っている聖女様が
『あなた…前に訓練場に居た人ですよね?何故、一般の人がこんな所まで入って来てるんですか?』
などと言う。それに対し、レフコース殿とルナ殿が庇うようにハル殿の前に立つ。王城付きの女官も、聖女様に反論する。
ーあぁ…この女官は、ランバルト付きの女官だー
女官に反論されるとは思っていなかったのか、
『そんなに怖い顔して怒らないで下さい。私はただ、この庭の花を見たかっただけなんです。』
と、目を潤ませながら、更に俺にしがみついてきた。
それを目にしたハル殿は…遠い目をしていたから、コレは仕方無く付き合っているのか…と、理解してくれているのだと思った。
でも、その後、聖女様が何かを囁きレフコース殿を撫でた直後、ハル殿の様子が一変した。
ー聖女様は、何を囁いた?ー
ハル殿は、今にも倒れそうな位顔を真っ青にして
『あ…ごめんなさい…あの…私…帰りたい…』
と言い、俺を一瞥する事さえなく、ルナ殿と共に俺の横を通り過ぎて行った。
『騎士。我はまた後で戻って来る故…話を聞かせてもらうぞ?』
と、レフコース殿がそう言いながらハル殿達を追い掛けるように去って行った。
『辛い事があるなら、それらからハル殿を守りたい。』
そう言ったくせに。今すぐに駆け出してハル殿の元に行きたいのに…。
不安で不安で…たまらなかったが、手紙には素直な気持ちを書いていたから、大丈夫だ─と…。
それなのに
その手紙が、一切届いていなかった。
俺の気持ちは届かずに、ハル殿自身が目にして、耳にした事だけが真実として映っていただけだった。
「ハル様は、昨日から、ここには帰って来ていません。いえ…ハル様が出掛けたところさえ、誰も目にしておりません。」
と、ロン殿が言う。
「どう言う事だ?レフコース殿はどうした?」
ゼン殿が焦ったように、ロン殿に訊くと
「それが…レフコース殿も、ハル殿の魔力が途切れたと言って…何処に居るのか分からないと…。おそらく、今も探し続けていると思います。」
ーあれから、レフコース殿も見付けられてないのか!?ー
「それと…」
と、ロン殿が少し躊躇うように、少し口を噤んだ後
「ハル様が大切にしていた…ハル様の世界の服が…なくなっているようです。」
「─服?あの服は…領地の邸に置いて来ているだろう?」
これには、ルナが答えた。
「あの…その服は持って来るつもりはなかったのですが、荷物に紛れ込んでいたようで…。」
ーそんな事が…あるのか?ー
どうして、こんなにも嫌な方へと流れるんだ?
「…兎に角…俺も…ハル殿を探して来ます。」
じっとしている事ができなくて、俺はパルヴァン邸を出た。
その日もハル殿は帰って来なかった。
その次の日の夕方。
『主は…帰って来ているか?』
そう言いながら、レフコース殿が久し振りにパルヴァン邸に帰って来た。どうやら、レフコース殿も、ハル殿を見付ける事ができなかったようだ。
「レフコース殿。ハル殿の魔力が途切れたとは…一体どう言う事だ?名を交わしていても、繋がりが切れる事があるのか?」
『…隠していても…仕方無いが…主─“ハル”は…真名ではない。』
ー真名じゃない?ー
『我と、真名ではない主と繋がれたのは、主にパルヴァンの巫女の魔力が流れていたからだ。我は、それでも─真名でなくても名を交わしたくて、少し嘘をついて名を交わしてもらったのだ。我は…主のあの、温かい魔力が…優しい主が好きで…守りたかった故にな…。もともと…脆い繋がりだったのだ…。それに…』
と、レフコース殿は耳を垂らして俯いて
『今、繋がりが切れたのは…主の…意思だ…。』
「ハル殿が…自分で繋がりを切った?」
『主は…何処に居る?』
ーハル殿が自らレフコース殿を?ー
本当に、何が起こっている?ハル殿は無事なのか?
そこへ、ゼン殿とロン殿もやって来たが、やはり、誰もハル殿を見付ける事ができていなかった。
その日の夜、パルヴァン邸には、久し振りにハル殿以外の顔ぶれが揃った。夕食後、そのままサロンに移動し、これまでの事を話し合った。
他言無用と言われたが、ここまで来ると隠しておくのも腹立たしくて、ゼン殿と共に全てを話した。
「ハル殿が…あの店に…居た?」
「…はい。カルザイン様が…その聖女様と奥の部屋から出て来たのを見ると、ハル様は隠れてしまって。ですから、私達も合わせて隠れていたんです。」
ーアレを見られていた!?ー
あの日は…本当に最悪だった。
「街で買い物がしたい。」
あの日の朝、あの聖女が急に言い出し、聖女付きの女官や侍女達が外出の許可を取り、街に出る支度を始めた。支度を終えた聖女を見た時、思わず叫びそうになった。聖女が着ていたワンピースの色が…俺の瞳と同じ色だったのだ。しかも、その日、俺が佩帯していた剣─第一騎士団の訓練用の剣─には、黒色の魔石が填まっていた。
それに、あの日、聖女があの店で自分で購入したのは…青色の宝石が付いたネックレス。
ーそれを見たハル殿は…どう思った?ー
「ハル様は、大丈夫ですと笑ってましたけど…笑えてなくて…それで…少し1人にして欲しいと言われて…それから…ハル様を見掛けていません。」
バクバクと心臓が速い速さで脈打つのが分かる。何故、こんなにも嫌な偶然が重なる?
ーいや…偶然…なのか?ー
グッと手を強く握りしめた時、場違いな声が響いた
「あんた達、俺を探してる?」
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