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32 招かれざる客②
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*カイルス視点*
「ハッキリ言わせていただく。私が貴方を大切にしていたのは、貴方が私の婚約者だったからだ。嫌いではなかったし、婚約者を大切にするのは当たり前の事だろう?でも、大切に思っていたのは私だけで、貴方は私を裏切った。“公爵家の令息に声を掛けられたら断れない”と言われれば仕方無いとも思うが、でも、貴方はそんな関係になってから何年もの間、私には何も言わなかった。それならそうと言ってくれていたら、対処するなり解消する事もできたのに」
「それは───」
「それなのに、貴方は子ができたからと言って一方的に私を切り捨てた」
今では、切り捨てられて良かったとさえ思う。
「そんな貴方を好きになれる筈はないし、一緒に居たいとも思わない。迷惑でしかない」
こうして2人きりで話している事も嫌で仕方無い。マシロと2人きりなら、その時間がいつまでも続けば良いのにと思うのに。
「これからは、自分の子に恥じないような行動をとって欲しい」
身分を笠に元婚約者に近付いたり、守護竜を疑い無礼な振る舞いをする。それらの行いは、自分だけではなく、身内の者達にまで影響を及ぼすのだ。
「それは、本当にカイルスの意思なの?それとも、マシロ様が──」
「それ以上、マシロを侮辱するのは止めてくれないか?我慢するのも限界だ。それとも、本当に正式にハイエット公爵家に抗議文を送られたいのか?」
「…………」
「話はここまで。今すぐ戻って守護竜マシロ様に謝罪すれば、今回の事は穏便に済ませますが、これが最後通牒です」
「分かっ……分かりました」
「では、失礼します」
と、俺はジャスミーヌに頭を下げる事も無く挨拶をした後、彼女に背を向けて離宮の門を潜った。
「…………」
背後で、羽ばたきの音は聞こえて来ない。
ここは浮島にある離宮だ。竜化した者か鳥化した者しか来る事ができない。ジャスミーヌが本宮に戻る為には竜化しなければならない。直ぐに戻ると言うのなら、羽ばたきの音が聞こえる筈なのに、その音が聞こえないと言う事は───
「本当に、何もかも予想通りな事をしてくれるんだな」
今通って来た門を振り返る。勿論、そこには門があるだけで、ジャスミーヌ=ハイエット公爵の姿は無い。
「本当に愚かだな」
「あれ?カイルス様、どうしたんですか?まだ、交流会の途中では?」
予定外の来訪があると報せが行くようになっていて、今もこうして門衛がやって来た。
「マシロ様の遣いで、リシャールに手紙を持って来たんだ」
「そうでしたか。他に誰か──」
「暫くの間は放っておいて良い。後で俺かキースかマシロ様が対処するから」
「承知しました」
東西南北の守護竜の離宮には、主が認めた者しか入宮できない。招かれざる客がその門を潜れば、主の許しが出る迄、そこに閉じ込められてしまう。その空間は闇が支配しているそうだ。歩けば歩く程、右も左も分からないどころか、地に足がついているのか、上が天井なのかも分からなくなるらしい。勿論、主である守護竜が閉じ込められる事は無い。
「これで、自分が守護竜ではないと言う事を、身をもって知る事ができるだろう」
『ハイエット公爵は、カイルスさんと2人で話したい事があるようだから、2人きりになれるような隙を作れば、喰らいついて来ると思います!』
と言ったのは、メイだった。
『ああ言う勘違いタイプの女は、早いうちに痛い目に遭わせて思い知らせた方が良いと思います!』
『そこで、メイと考えたんですけど……』
と、リシャールが提案したのが、離宮の門の特性を利用した計画だった。
ジャスミーヌを離宮まで誘導して、門前で話をして拒絶して追い返す。
『でも、きっと、そう言う女が素直に戻る事はないから、そのままカイルスさんの後を追って門を潜って来ると思うんです』
一般的に、門の特性は知られていない。だから、月に何人かは門の中で彷徨う者が居る。
『“既成事実を作ればこっちのもんだ”って思って』
どうやら、メイは意外と物事をハッキリ言うタイプのようだ。リシャールには丁度良いのかもしれない。
『門を潜ったら、後は放置しても勝手に身をもって知るでしょう?自分が守護竜ではない事も、カイルスさんに好意を持たれてもないと言う事も』
『暫くの間は、彷徨い続けさせれば良いんですよ。マシロ様を馬鹿にし過ぎでしたから』
リシャールにとっても、マシロは大切な存在のようだ。本当に、あの両親に似なくて良かった。
そんな訳で、何もかも予想通りに動いてくれたジャスミーヌには感謝しかない。
「この手紙を、リシャールに渡してもらえるか?俺は、マシロ様の元に戻るから」
「承知しました。お気を付けて」
そうして、俺はまた、マシロの元へと向かった。
マシロの元に戻ると、コルダー公爵がプラータ王子の戒めの拘束で縛り上げられた後だった。
「新たな守護竜様がこれ程までとは!これで、竜王国も安泰ですね」
「もう、子竜だからと、誰も言えなくなりますね」
「コルダー公爵には驚きだわ。まさか、魔獣を放つなんて」
これで、マシロに文句を言う者は居なくなるだろう。ある意味、コルダー公爵にも感謝だ。勿論、コルダー公爵もジャスミーヌにも罪は償ってもらうが。
「あれ?カイルスさん、戻って来たの?そのまま休んでもらって良かったのに」
と言いながら、俺の側までやって来たマシロ。
「離宮に居てもマシロが居なくて寂しいからね」
「そっ………そっか!!」
気持ちを通じ合わせてからは、俺の言葉を素直に聞いてくれるようになったようで、直ぐに顔を赤くして慌てるようになった。そんな様子が可愛過ぎてたまらない。
「ハッキリ言わせていただく。私が貴方を大切にしていたのは、貴方が私の婚約者だったからだ。嫌いではなかったし、婚約者を大切にするのは当たり前の事だろう?でも、大切に思っていたのは私だけで、貴方は私を裏切った。“公爵家の令息に声を掛けられたら断れない”と言われれば仕方無いとも思うが、でも、貴方はそんな関係になってから何年もの間、私には何も言わなかった。それならそうと言ってくれていたら、対処するなり解消する事もできたのに」
「それは───」
「それなのに、貴方は子ができたからと言って一方的に私を切り捨てた」
今では、切り捨てられて良かったとさえ思う。
「そんな貴方を好きになれる筈はないし、一緒に居たいとも思わない。迷惑でしかない」
こうして2人きりで話している事も嫌で仕方無い。マシロと2人きりなら、その時間がいつまでも続けば良いのにと思うのに。
「これからは、自分の子に恥じないような行動をとって欲しい」
身分を笠に元婚約者に近付いたり、守護竜を疑い無礼な振る舞いをする。それらの行いは、自分だけではなく、身内の者達にまで影響を及ぼすのだ。
「それは、本当にカイルスの意思なの?それとも、マシロ様が──」
「それ以上、マシロを侮辱するのは止めてくれないか?我慢するのも限界だ。それとも、本当に正式にハイエット公爵家に抗議文を送られたいのか?」
「…………」
「話はここまで。今すぐ戻って守護竜マシロ様に謝罪すれば、今回の事は穏便に済ませますが、これが最後通牒です」
「分かっ……分かりました」
「では、失礼します」
と、俺はジャスミーヌに頭を下げる事も無く挨拶をした後、彼女に背を向けて離宮の門を潜った。
「…………」
背後で、羽ばたきの音は聞こえて来ない。
ここは浮島にある離宮だ。竜化した者か鳥化した者しか来る事ができない。ジャスミーヌが本宮に戻る為には竜化しなければならない。直ぐに戻ると言うのなら、羽ばたきの音が聞こえる筈なのに、その音が聞こえないと言う事は───
「本当に、何もかも予想通りな事をしてくれるんだな」
今通って来た門を振り返る。勿論、そこには門があるだけで、ジャスミーヌ=ハイエット公爵の姿は無い。
「本当に愚かだな」
「あれ?カイルス様、どうしたんですか?まだ、交流会の途中では?」
予定外の来訪があると報せが行くようになっていて、今もこうして門衛がやって来た。
「マシロ様の遣いで、リシャールに手紙を持って来たんだ」
「そうでしたか。他に誰か──」
「暫くの間は放っておいて良い。後で俺かキースかマシロ様が対処するから」
「承知しました」
東西南北の守護竜の離宮には、主が認めた者しか入宮できない。招かれざる客がその門を潜れば、主の許しが出る迄、そこに閉じ込められてしまう。その空間は闇が支配しているそうだ。歩けば歩く程、右も左も分からないどころか、地に足がついているのか、上が天井なのかも分からなくなるらしい。勿論、主である守護竜が閉じ込められる事は無い。
「これで、自分が守護竜ではないと言う事を、身をもって知る事ができるだろう」
『ハイエット公爵は、カイルスさんと2人で話したい事があるようだから、2人きりになれるような隙を作れば、喰らいついて来ると思います!』
と言ったのは、メイだった。
『ああ言う勘違いタイプの女は、早いうちに痛い目に遭わせて思い知らせた方が良いと思います!』
『そこで、メイと考えたんですけど……』
と、リシャールが提案したのが、離宮の門の特性を利用した計画だった。
ジャスミーヌを離宮まで誘導して、門前で話をして拒絶して追い返す。
『でも、きっと、そう言う女が素直に戻る事はないから、そのままカイルスさんの後を追って門を潜って来ると思うんです』
一般的に、門の特性は知られていない。だから、月に何人かは門の中で彷徨う者が居る。
『“既成事実を作ればこっちのもんだ”って思って』
どうやら、メイは意外と物事をハッキリ言うタイプのようだ。リシャールには丁度良いのかもしれない。
『門を潜ったら、後は放置しても勝手に身をもって知るでしょう?自分が守護竜ではない事も、カイルスさんに好意を持たれてもないと言う事も』
『暫くの間は、彷徨い続けさせれば良いんですよ。マシロ様を馬鹿にし過ぎでしたから』
リシャールにとっても、マシロは大切な存在のようだ。本当に、あの両親に似なくて良かった。
そんな訳で、何もかも予想通りに動いてくれたジャスミーヌには感謝しかない。
「この手紙を、リシャールに渡してもらえるか?俺は、マシロ様の元に戻るから」
「承知しました。お気を付けて」
そうして、俺はまた、マシロの元へと向かった。
マシロの元に戻ると、コルダー公爵がプラータ王子の戒めの拘束で縛り上げられた後だった。
「新たな守護竜様がこれ程までとは!これで、竜王国も安泰ですね」
「もう、子竜だからと、誰も言えなくなりますね」
「コルダー公爵には驚きだわ。まさか、魔獣を放つなんて」
これで、マシロに文句を言う者は居なくなるだろう。ある意味、コルダー公爵にも感謝だ。勿論、コルダー公爵もジャスミーヌにも罪は償ってもらうが。
「あれ?カイルスさん、戻って来たの?そのまま休んでもらって良かったのに」
と言いながら、俺の側までやって来たマシロ。
「離宮に居てもマシロが居なくて寂しいからね」
「そっ………そっか!!」
気持ちを通じ合わせてからは、俺の言葉を素直に聞いてくれるようになったようで、直ぐに顔を赤くして慌てるようになった。そんな様子が可愛過ぎてたまらない。
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