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第1章ー前世ー
王都での出来事
しおりを挟む「アドリーヌ!」
「お父様!お母様!」
修道院に来てから1年。1年ぶりに、父と母が私に会いに修道院へとやって来た。
もう、戸籍上では親子関係は無いが、“侯爵様”、“侯爵夫人”と呼ぼうものなら、母からは涙攻撃を受けてしまったから、誰も居ない時は─と、“お父様”、“お母様”と呼ぶ事になった。
そして、今は院長の計らいで修道院の応接室に私達3人だけにしてもらっているから、周りを気にすることなく話もできるようになった。
「アドリーヌ…最後に会った時より元気そうで良かったわ。」
「そうだな。少し…ふっくらしたか?」
「まぁ、お父様!でも……そうね……最近では食べる物全てが美味しくて。少し太ってしまったかも…ふふっ…」
毎日洗濯したり、掃除をしたり、たっぷり働くと、その分食事がとても美味しく感じて、ついつい食べ過ぎてしまったりしている─のだけど──
『何を言っているの!?アドリーヌのその量は、ようやく人並みになったってだけよ!もっと食べなさい!』
と、アーニーさんには怒られた。
ー解せないー
「さあ、アドリーヌ!アドリーヌの好きだったクッキーを持って来たから、一緒に食べながら…話でも聞かせてくれ。」
「はい!お父様!」
と、私は元気良く返事をした後、久し振りに3人でお茶をしながら話に花を咲かせた。
「アドリーヌも落ち着いたようだから…アドリーヌが知りたいと言うのなら……王都でのこの1年の間にあった話をするつもりで来たんだ。勿論、お前が必要無いと言うなら、私から話す事は無いが…どうする?」
と、ある程度話をした後、父が少し困ったように目を細めて、私を見つめている。
私は既に侯爵家からは除籍され、ただの平民─修道女となっている。もう、王族や貴族とは無縁。“聞きたくない”、“必要ない”と言えばそれで終わるけど──
「お父様。私も……どうなったのか……知っておく必要がある─と思っているので……教えて下さい。」
「分かった。それならば、私は嘘偽り無く全てをお前に話すが、どうしても不安になったり気分が悪くなったら、我慢せずに言う事。分かったね?」
「──はい。」
コクリ─と静かに頷くと、私の隣に座っていたお母様が私の手を優しく握ってくれた。
私も知っていた通り、第二王子とジョアンヌ様の婚約は続いていて、婚儀の日取りも決まっていて、ジョアンヌ様は王城で過ごしながら公務も行っていた──のだが。
「お前が修道院に入ってから半年程経った頃に、子爵令嬢が妊娠したんだ。第二王子との子をね」
そう。実は、第二王子と子爵令嬢の関係は……続いていたのだ。
あの時、私から見た彼女は被害者だった。でも…実際は違っていた─と言う事だ。被害者ぶっていたのだ。ギュッ─と、握りしめる手に力が入る。
では、あの時の、彼女の私に縋る様な行動は何だったのか──
身分は子爵令嬢だが、彼女は光属性持ち─聖女だ。王太后様は“子爵”と言う血が王家に交じることを疎んじたが、運良く?悪く?王太后様の体調が悪くなり、そのまま王家所有の保養地に療養の為に引き籠もる事になり─
「それを機に、公爵側が一気に動いてな。第二王子とジョアンヌ様の婚約を解消させ、子爵令嬢をその後釜に据えたんだ。子爵令嬢だとしても、聖女は聖女だ。誰も反対はしなかった。あの娘本人も………喜んでいたよ。」
そう言った父は笑ってはいたけど、目には、どこか冷たいモノがあった。
そして、婚約を解消したジョアンヌ様は、隣国の王太子様自らが公爵邸を訪れて、ジョアンヌ様にプロポーズをしたらしい。友好関係にあった両国で、王太子と、第二王子の婚約者として会う事がよくあり、お互い、秘めた想いがあったのかもしれない。プロポーズをされて、隣国の王太子の婚約者となってからのジョアンヌ様は、とても幸せそうなんだとか─
ーそれなら…良かったー
色々気になる事やお礼やお祝いもしたいから、ジョアンヌ様に手紙でも書いてみよう。
「──それで……婚約者だった彼の……話も聞くかい?」
今でもハッキリと覚えている。
あの目に…もう、怯える事はないけど──
「───はい。」
1年前、私をこの修道院に送り届けて王都に帰ってから1週間程してから、父が彼の邸に訪れて、彼とその両親である侯爵夫妻にも、私を侯爵家から除籍し修道院に入った事を説明し、婚約解消を伝えたそうだ。
「オレ──私は、解消なんてしたくない!嫌です!」
それでもなお、彼は婚約解消を拒否したそうだけど、両親達が婚約解消を受け入れ、無事に解消する事ができた。ただ、彼だけは、私の居場所を必死になって探していたらしい。
その彼は彼で、“元婚約者に手を上げた”と言う噂が広がり廃嫡となったのだが、隣国のとある女公爵の目に留まり、その公爵家に婿入りする事が決まったそうだ。
ちなみに、その女公爵は結婚と離婚を3回程繰り返した──38歳になる女公爵だそうだ。
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