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1 吉岡翠
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私は10歳の頃、気を失った状態で倒れていたところを助けられた。
ただ、意識が戻ったところで、私にはそれ迄の記憶が全く無くて……自分の名前さえ分からない状態だった。
それから記憶が戻らないまま2年程保護施設で過ごした後、私を助けてくれた夫婦と養子縁組をする事になり、吉岡翠となった。
『貴方の瞳の色は、綺麗な翠色ね。』
と、私の母となった人が、私につけてくれた名前だ。髪色も茶髪で、黒目黒髪の両親とは見た目は違っていたし、どこの誰とも分からない私の事を、両親はとても優しく育ててくれた。
もともと、母は体が弱く子供を生む事ができなかったそうだ。確かに、よく季節の変わり目には風邪をひいては、父がいつも心配しながら仕事に行っていたのを覚えている。
ー2人とも、本当にお互いを想い合っているんだなぁー
と、娘の私が見ても分かるぐらいに、とても仲の良い夫婦だった。そんな2人の愛情をたっぷり受けてすくすく育った私が15歳で気付いたのは──“2人がお人好し過ぎる”と言う事だった。そこからの私は……今なら分かるけど……斜め上に頑張った……色々と……。
そんな両親が突然、交通事故に巻き込まれて亡くなってしまったのは、私が20歳になった時だった。それから暫くの間は何も手を付ける事もできなかったけど、『大学は行って欲しい』と言われて入った大学。その願いを守る為にまた頑張って大学に通い、4年で卒業し、今ではその大学で事務員をしている。
唯一、両親に言えなかった事。
それは──記憶を取り戻している事。
私が倒れていたのを見付けた両親は、私が小さくて細かった為、10歳には見えなかったと言っていた。体中にあった青や赤色のあざには、思わず泣いてしまったとも言っていた。
何故、私がそんな状態だったのか──嫌でも今ではハッキリと思い出せる。記憶を取り戻したのは15歳の時だった。取り戻した時は、パニックになって、まともに両親とも顔を合わせる事ができなかったけど、『反抗期か?』と、両親は逆に嬉しそう?にしていた。そんな両親を見ていると、このままここに居たいと思ってしまい、そのまま記憶を取り戻した事を言えなくなってしまったのだ。
ーあそこには、戻りたくないー
あんな状態だった私を、喩え記憶を取り戻したからと言って、あの両親が私を親元へ返す─と言う事はしないだろうし………
それに───
帰りたいと願ったとしても……帰れないだろう。なら、記憶が戻っていたとしても、過去の私は要らない。私は“吉岡翠”として生きていきたい。喩え、両親や親戚が居なくても。事実、両親には親戚と言う人が居なかった。その為、両親は“もしもの時の為に”と、私の為にお金も貯めていてくれていて、両親が事故で亡くなった後も、何も困る事なく大学生活を送る事ができたのだ。もう二度と会えることはないけど、あの両親の娘になれて良かった─と思う。
ー本当に…彼等とは大違いだー
あっちとも、もう二度と会う事はないだろうけど、会ったら……少しは……立ち向かえるだろうか?
「…………」
フルフルと首を振ってから、軽く息を吐く。
ーそもそも、比べる基準が違うんだよねー
「よし、今日もしっかり働こう!シルヴィ、行って来るね!」
『──ワフッ』
“シルヴィ”とは、私が倒れていた時に、私の側に居てくれた珍しい白銀の毛色をした犬……だ。今でも変わらず、私の側に居てくれている。そのシルヴィの頭を一撫でしてから、独り暮らしにしては広過ぎる、3LDKのマンションの自室の鏡の前で気持ちを切り替えてから、私は職場である大学へと向かった。
❋新作始めました。お付き合いいただければ幸いです❋
。.:*♬*°(✿•͈ᴗ•͈) ヨロシク オネガイシマス°*♬*:.。
ただ、意識が戻ったところで、私にはそれ迄の記憶が全く無くて……自分の名前さえ分からない状態だった。
それから記憶が戻らないまま2年程保護施設で過ごした後、私を助けてくれた夫婦と養子縁組をする事になり、吉岡翠となった。
『貴方の瞳の色は、綺麗な翠色ね。』
と、私の母となった人が、私につけてくれた名前だ。髪色も茶髪で、黒目黒髪の両親とは見た目は違っていたし、どこの誰とも分からない私の事を、両親はとても優しく育ててくれた。
もともと、母は体が弱く子供を生む事ができなかったそうだ。確かに、よく季節の変わり目には風邪をひいては、父がいつも心配しながら仕事に行っていたのを覚えている。
ー2人とも、本当にお互いを想い合っているんだなぁー
と、娘の私が見ても分かるぐらいに、とても仲の良い夫婦だった。そんな2人の愛情をたっぷり受けてすくすく育った私が15歳で気付いたのは──“2人がお人好し過ぎる”と言う事だった。そこからの私は……今なら分かるけど……斜め上に頑張った……色々と……。
そんな両親が突然、交通事故に巻き込まれて亡くなってしまったのは、私が20歳になった時だった。それから暫くの間は何も手を付ける事もできなかったけど、『大学は行って欲しい』と言われて入った大学。その願いを守る為にまた頑張って大学に通い、4年で卒業し、今ではその大学で事務員をしている。
唯一、両親に言えなかった事。
それは──記憶を取り戻している事。
私が倒れていたのを見付けた両親は、私が小さくて細かった為、10歳には見えなかったと言っていた。体中にあった青や赤色のあざには、思わず泣いてしまったとも言っていた。
何故、私がそんな状態だったのか──嫌でも今ではハッキリと思い出せる。記憶を取り戻したのは15歳の時だった。取り戻した時は、パニックになって、まともに両親とも顔を合わせる事ができなかったけど、『反抗期か?』と、両親は逆に嬉しそう?にしていた。そんな両親を見ていると、このままここに居たいと思ってしまい、そのまま記憶を取り戻した事を言えなくなってしまったのだ。
ーあそこには、戻りたくないー
あんな状態だった私を、喩え記憶を取り戻したからと言って、あの両親が私を親元へ返す─と言う事はしないだろうし………
それに───
帰りたいと願ったとしても……帰れないだろう。なら、記憶が戻っていたとしても、過去の私は要らない。私は“吉岡翠”として生きていきたい。喩え、両親や親戚が居なくても。事実、両親には親戚と言う人が居なかった。その為、両親は“もしもの時の為に”と、私の為にお金も貯めていてくれていて、両親が事故で亡くなった後も、何も困る事なく大学生活を送る事ができたのだ。もう二度と会えることはないけど、あの両親の娘になれて良かった─と思う。
ー本当に…彼等とは大違いだー
あっちとも、もう二度と会う事はないだろうけど、会ったら……少しは……立ち向かえるだろうか?
「…………」
フルフルと首を振ってから、軽く息を吐く。
ーそもそも、比べる基準が違うんだよねー
「よし、今日もしっかり働こう!シルヴィ、行って来るね!」
『──ワフッ』
“シルヴィ”とは、私が倒れていた時に、私の側に居てくれた珍しい白銀の毛色をした犬……だ。今でも変わらず、私の側に居てくれている。そのシルヴィの頭を一撫でしてから、独り暮らしにしては広過ぎる、3LDKのマンションの自室の鏡の前で気持ちを切り替えてから、私は職場である大学へと向かった。
❋新作始めました。お付き合いいただければ幸いです❋
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