1 / 59
1 プロローグ①
しおりを挟む
「エリナ、学校の帰りにケーキを食べに行かないか?今月の新作も美味しいらしいよ」
「行く!」
「よし!それじゃあ、この荷物を片付けて来るからエリナは教室に戻って鞄を取って来てくれる?それで、正門の所で待ち合わせしよう」
「分かったわ」
そうして、私は、婚約者であるアランと約束をした後、手を振って別れた。
私─エリナ─は、貴族とは名ばかりの平々凡々の男爵令嬢。茶髪に茶色い瞳の平均的な顔をしている。そんな私の婚約者のアランは子爵家の嫡男。アランもまた、私と同じ茶髪に茶色い瞳をしているけど、綺麗な顔の母親譲りの綺麗な顔をしている。私には勿体無いぐらいで、性格もとても優しい。そんなアランと私は幼馴染みで仲が良く、祖父母の代からの付き合いもあり、10歳の頃に婚約を結んだ。
そして、15歳で学校に入学し3年で卒業した後、直ぐに結婚する事になっている。この国の貴族ではよくある事だ。
学校に入学するのと同時に、週末はアランの家に訪れて花嫁修業をする事になった。花嫁修業と言っても、アランのお母様は私にはとても甘い。『顔だけが良い無愛想な息子より、エリナの方が可愛いわ!』と言って、実の息子のアランよりも私の事を可愛がってくれている。嫁姑問題は無さそうだ。
学校生活はとても穏やかで楽しい毎日だった。
そして、お互い卒業試験も合格し、後2週間程で卒業式を迎えると言う日、お世話になった先生達に挨拶をして帰る─と言うところで、アランの提案でデートをする事になったのだ。
放課後、待ち合わせてデートをしてから家に帰る
それは、3年の学校生活の間よくしていた事だった。だから、その日もごくごく当たり前のようにデートをする事になった。
ただ、それだけの事だった──
ー新作のケーキかぁ…楽しみだなぁー
アランと私のお気に入りのお店は、毎月新作のケーキが出る。その新作のケーキが出ると、必ず2人で食べていた。きっと、これからも続くんだろうな─と思うと、嬉しい気持ちになる。
「んー…アラン遅い──っ!きゃあっ!!」
「見付けた!!」
アランが来るのが遅い為、校内に戻ろうかな?と校舎の方に視線を向けようとした時、ふいに右腕を掴まれた。
「見付けた!」
「えっ!?な……何!!??」
『見付けた』
笑顔でそう言いながら私の腕を掴んでいるのは、茶髪に金色の瞳をした長身で、騎士のような体格の男性だった。
そこから私にとっては、恐怖でしかなかった。
「なんて奇跡だろう!私と一緒に来て欲しい」
「は?え?きせき?いっしょ?きゃあ─っ!」
その男性がそう言うと、私を横向きに抱き上げ勢いよく走り出した。
「エリナ!!」
「──っ!」
ーアラン!ー
名前を呼ばれて振り返ると、そこには正門の向こうから走って来るアランが目に入った。
「エリナ!」
「──っ!」
アランも走っているのに、私とアランとの距離はどんどん離れて行く。
私を抱き上げたまま走っているのに、とても速いのだ。落ちたら怪我をする─そう思うと怖くて声も出せず、ただただその男性にしがみつく事しかできなかった。
******
それから気を失ってしまったのか、次に私の目に入って来たのは、とても豪華な部屋の天井と─
「あぁ、やっと目を覚ましたかい?良かった」
「──っ!?」
私を抱き上げて走っていた男性だった。
私はあれから、2日間眠ってしまっていたそうだ。そして、その間に色んな事が変わってしまっていた。
「私と……アランとの婚約が……解消?」
「あぁ。もう既に解消されて、君は今は私の婚約者だ」
「何を………」
ー婚約を解消?後2週間程で結婚式を挙げるのに?ー
「君は、私の番なんだ」
「っ!」
“番”
人間の私だって知っている単語だ。
番は、獣人にとって何よりも優先される存在だ。運命、本能で結ばれる相手であり、番に出会った獣人はその番以外と結ばれる事はない。
そして、子供ができ難い獣人にとって、番とは子供もできやすいそうで、子孫を残す為に国からも番との婚約、結婚を優先する流れがある事も知っている。
何より驚いたのが、この男性だ。
“アーティー”
熊の獣人で公爵家の嫡男で私より5つ年上で、現在第一騎士団に所属している騎士だった。
モテるだろうな─と思う程の容姿をしている。きっと、男爵令嬢でしかない私にとって、これ以上無い程の相手だろう。誰もが憧れるような………
ーアランが居なければー
親同士が決めた婚約とは言え、私はアランの事が好きだった。でも、その婚約が解消され、アーティー様と婚約が調っていると言う事は、もう、アラン側もその事を受け入れていると言う事だろう。
受け入れられなかったとしても、相手は公爵だ。子爵や男爵では受け入れるしかないだろう。
ーせめて、最後にアランに会ってお別れができたら良いなー
結局、そんな細やかな願い事すら叶う事はなかった。
『大切な番を守る為に』
と言われ、実家にも帰してもらえる事はなく、そのまま公爵家で過ごす事となったのだった。
「行く!」
「よし!それじゃあ、この荷物を片付けて来るからエリナは教室に戻って鞄を取って来てくれる?それで、正門の所で待ち合わせしよう」
「分かったわ」
そうして、私は、婚約者であるアランと約束をした後、手を振って別れた。
私─エリナ─は、貴族とは名ばかりの平々凡々の男爵令嬢。茶髪に茶色い瞳の平均的な顔をしている。そんな私の婚約者のアランは子爵家の嫡男。アランもまた、私と同じ茶髪に茶色い瞳をしているけど、綺麗な顔の母親譲りの綺麗な顔をしている。私には勿体無いぐらいで、性格もとても優しい。そんなアランと私は幼馴染みで仲が良く、祖父母の代からの付き合いもあり、10歳の頃に婚約を結んだ。
そして、15歳で学校に入学し3年で卒業した後、直ぐに結婚する事になっている。この国の貴族ではよくある事だ。
学校に入学するのと同時に、週末はアランの家に訪れて花嫁修業をする事になった。花嫁修業と言っても、アランのお母様は私にはとても甘い。『顔だけが良い無愛想な息子より、エリナの方が可愛いわ!』と言って、実の息子のアランよりも私の事を可愛がってくれている。嫁姑問題は無さそうだ。
学校生活はとても穏やかで楽しい毎日だった。
そして、お互い卒業試験も合格し、後2週間程で卒業式を迎えると言う日、お世話になった先生達に挨拶をして帰る─と言うところで、アランの提案でデートをする事になったのだ。
放課後、待ち合わせてデートをしてから家に帰る
それは、3年の学校生活の間よくしていた事だった。だから、その日もごくごく当たり前のようにデートをする事になった。
ただ、それだけの事だった──
ー新作のケーキかぁ…楽しみだなぁー
アランと私のお気に入りのお店は、毎月新作のケーキが出る。その新作のケーキが出ると、必ず2人で食べていた。きっと、これからも続くんだろうな─と思うと、嬉しい気持ちになる。
「んー…アラン遅い──っ!きゃあっ!!」
「見付けた!!」
アランが来るのが遅い為、校内に戻ろうかな?と校舎の方に視線を向けようとした時、ふいに右腕を掴まれた。
「見付けた!」
「えっ!?な……何!!??」
『見付けた』
笑顔でそう言いながら私の腕を掴んでいるのは、茶髪に金色の瞳をした長身で、騎士のような体格の男性だった。
そこから私にとっては、恐怖でしかなかった。
「なんて奇跡だろう!私と一緒に来て欲しい」
「は?え?きせき?いっしょ?きゃあ─っ!」
その男性がそう言うと、私を横向きに抱き上げ勢いよく走り出した。
「エリナ!!」
「──っ!」
ーアラン!ー
名前を呼ばれて振り返ると、そこには正門の向こうから走って来るアランが目に入った。
「エリナ!」
「──っ!」
アランも走っているのに、私とアランとの距離はどんどん離れて行く。
私を抱き上げたまま走っているのに、とても速いのだ。落ちたら怪我をする─そう思うと怖くて声も出せず、ただただその男性にしがみつく事しかできなかった。
******
それから気を失ってしまったのか、次に私の目に入って来たのは、とても豪華な部屋の天井と─
「あぁ、やっと目を覚ましたかい?良かった」
「──っ!?」
私を抱き上げて走っていた男性だった。
私はあれから、2日間眠ってしまっていたそうだ。そして、その間に色んな事が変わってしまっていた。
「私と……アランとの婚約が……解消?」
「あぁ。もう既に解消されて、君は今は私の婚約者だ」
「何を………」
ー婚約を解消?後2週間程で結婚式を挙げるのに?ー
「君は、私の番なんだ」
「っ!」
“番”
人間の私だって知っている単語だ。
番は、獣人にとって何よりも優先される存在だ。運命、本能で結ばれる相手であり、番に出会った獣人はその番以外と結ばれる事はない。
そして、子供ができ難い獣人にとって、番とは子供もできやすいそうで、子孫を残す為に国からも番との婚約、結婚を優先する流れがある事も知っている。
何より驚いたのが、この男性だ。
“アーティー”
熊の獣人で公爵家の嫡男で私より5つ年上で、現在第一騎士団に所属している騎士だった。
モテるだろうな─と思う程の容姿をしている。きっと、男爵令嬢でしかない私にとって、これ以上無い程の相手だろう。誰もが憧れるような………
ーアランが居なければー
親同士が決めた婚約とは言え、私はアランの事が好きだった。でも、その婚約が解消され、アーティー様と婚約が調っていると言う事は、もう、アラン側もその事を受け入れていると言う事だろう。
受け入れられなかったとしても、相手は公爵だ。子爵や男爵では受け入れるしかないだろう。
ーせめて、最後にアランに会ってお別れができたら良いなー
結局、そんな細やかな願い事すら叶う事はなかった。
『大切な番を守る為に』
と言われ、実家にも帰してもらえる事はなく、そのまま公爵家で過ごす事となったのだった。
1,063
あなたにおすすめの小説
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる