【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第17話 【温泉、引き込み作戦始動!】

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 「ほう……これが噂の湯か」
 湯けむりの向こうで、ダーレンが腕を組み、険しい目で湯船を覗き込んでいた。鼻孔をくすぐる硫黄の匂いに、彼の口元が僅かにほころぶ。
「悪くないな。だが、この量と温度が安定して出るのかは別の話だな」

「だから試しにあんたのとこにお湯を引かせてほしい、ってことね」
ミサトは腰に手を当て、正面からダーレンを見返す。
「いいわよ!その代わり条件をつけさせてもらうわ。作業はうちのゴブリンたちと村人が中心。あんたらは技術だけ貸して」

「ほう、それはまたずいぶん強気だな」
「そりゃそうよ。こっちは資源を持ってる。変な契約結ばされて、あとから“全部持っていかれました”なんてのはゴメンだわ」

 リリィの声が、キューブからさらりと流れた。
『はい。ミサト。強気交渉モード、発動確認。交渉術教本、初級編第12章でも開きますか?』

「いらなーい!ってかその教本ってなにっ!!」
「おやおや、その怪しい機械を参考にしないのか?」
 ダーレンがニヤつく。

「あぁん!?こっちは社畜8年!!体に染みついた技術は裏切らない!感覚でいけるっ!」
 ミサトは両手をパタパタと振った。

◇◇◇

 お湯引きテストは、山の斜面を利用し、竹と木板で仮設の樋を作る作業から始まった。
 ダーレンの部下たちは手際がいい。
 けれど、ミサトの指示で動くゴブリンたちも負けていない。
「ゴブ次郎、その板は逆だって!」
「おお、こっちかっ!」ゴブ次郎は舌を出し、すぐ直す。
「……おいミサト、これ竹を割るだけじゃ水圧に負けるぞ」ダーレンが指摘する。
「じゃあこっちは蔓で補強する!」ゴブ三郎が声を張り、仲間たちが一斉に動く。

 だが途中、想定外の事態が起きた。
 岩盤に打ち込んでいた支柱のひとつが、作業中の振動でずれてしまい、湯の流れが急に変わったのだ。

「わっ! 熱っ!」湯が足元にぶちまけられ、ゴブ五郎が飛び跳ねる。
「止めろ! このままだと樋が壊れる!」
 ゴブ次郎たちは声を掛け合い、熱湯を浴びながらも支柱を押さえる。
「三! 蔓持ってこい! 五! そこ塞げ!」
 まるで長年のチームのような息の合い方に、ダーレンの部下たちが目を丸くする。

 やがて湯は安定して流れ、仮設の樋を通って下の試験槽へとたどり着いた。
「……やるじゃないか」
 ダーレンが腕を組み直し、表情を引き締める。
「だから言ったでしょ。この村とゴブリンたちはやれるって」ミサトは胸を張る。

◇◇◇

 夕暮れ、村に戻ると、仮設の槽で湯気を上げるお湯を前に、村人とゴブリンたちが「うおぉぉ!」」と歓声を上げた。

「温泉、ひとまず完成だな!」ゴブ次郎が嬉しそうに湯をすくい、指先で確かめる。
「触るだけなんかい!」ミサトが突っ込む。
『はい。ミサト。体感テストはとても有効ですが、長湯によるのぼせにもご注意ください』
「もぉ、そういうデータっぽい口出しはやめて~!」

 その夜、ミサトは囲炉裏の前でリリィのキューブを置き、交渉の次の手を考えた。
「ねぇ、リリィ?正直、ダーレンとはうまく組みたいけど、全部持っていかれたくはない」

『はい。ミサト。信頼構築の初期段階では、小規模共同事業から始めるのがセオリーです』
「それって、つまり“お試しコラボ”するってこと?」
『はい。ミサト。今なら“温泉まんじゅう”の試作品などが効果的かと』

「……あんた、それ食べたいだけじゃないの?」
『はい。ミサト。そうですね、、データによれば、私には味覚はありません』
「いや!その割に饅頭推し強よっ!あははっ!」
 ミサトは笑いながらも、湯気の立つ村を見回した。

 この温泉は、ただの湯じゃない。
 村を守り、豊かにするための大切な資源だ。
 、、絶対に、変な奴らには渡すわけにはいかない。

◇◇◇

 その夜、仮設の湯船に村人とゴブリンたちが順番に入り、あちこちから笑い声と湯の音が聞こえてきた。

「おお……これが“おふろ”ってやつか!」
 ゴブ次郎は湯面を覗き込み、顔をしかめる。

「なにその警戒心。怪しい薬じゃないってば!」
 ミサトが笑いながら背中を押す。
「ボス!押したらいけねぇって!だって熱いぞ! 体が溶けるかもしれない!」
『人体は四十二度前後では煮えません。またゴブリンであっても同じです。ゴブリンの体が溶ける温度は…、、』
 リリィが淡々と口を挟む。
「溶ける温度なんて言わないでぇぇぇぇ!……それに数字で言われても安心できないよ!」
 ゴブ三が首をぶんぶん振る。

 やがて勇気を出したゴブ次郎が肩まで浸かると、、
「ふぅわぁぁぁあぁ……なんだこれは……」と半ばとろけた声を上げた。

「ね? いいでしょ?あっ!しっこマンしちゃダメよ!」ミサトも湯船の縁に座り、足だけ浸す。

『はい。ミサト。温泉によるリラックス効果により作業効率が翌日15%向上する可能性があります』
「ほら~、ちゃんと効率も上がるんだって!」

「えっ?……じゃあ毎日入る!」
 ゴブ五郎が即答し、周囲から笑いが起きた。

 湯上がり後、囲炉裏の前で、ミサトは湯気をまとったままリリィのキューブを磨く。
「ねえ、リリィ?この温泉どうやって活かすのが一番儲かると思う?」
『はい。ミサト。そうですね、、観光業、療養施設、食品加工、イベント開催など複数の選択肢があります』
「食品加工って……あ、リリィ推しの温泉まんじゅうのことか?」
『はい。ミサト。試食担当を私に任せていただければ、、』
「いやっ!あんた味覚ないでしょ!」
『はい。ミサト。失礼いたしました。でも“見た目判定”は可能ですよ』
「まんじゅうの見た目判定って!茶色~!味に重きをおいて~!」

 外ではまだ、湯船の方から楽しげな声が響いていた。
 村の夜は、いつもより少しだけ暖かく、そして騒がしかった。


          続
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