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第29話 【温泉外交、湯けむりの握手】
しおりを挟むカッサ村の疑惑から数日後、、
湯ノ花の里は、まるで緊張の糸が切れたように賑わっていた。
温泉の湯気が立ちこめる中、村人たちは笑顔で桶やタオルを抱え、観光客に声をかけている。
それは小さな村にとって、ただの観光ではなく《商機》であり《外交の場》でもあった。
「おーい!ミサト例の招待状、届いたぞー!」
カイルが手紙を差し出す。封蝋にはシルヴァン村の紋章が押されていた。
「ありがとう!ふーん、どれどれ……温泉の共同利用と、新しい交易路の話、か」
『はい。ミサト。やるしかありませんね。お湯と物資の両方で利益を取れる可能性があります』
招待を受けたミサトは、湯ノ花の里の温泉施設の一角を貸し切り、各村の代表を迎える準備を始めた。
ゴブ次郎や村の若者たちは、道案内と荷物運びを担当。カイルは商談のための資料を揃え、リリィはシルヴァン村の経済状況と人物背景を調べ上げた。
◇◇◇
迎えた当日、雪解け水のような冷たい空気の中、湯ノ花の里の玄関口に三つの旗が翻っていた。
シルヴァン村、山岳の狩猟民マラ村、そして沿岸交易を担うツェル村。
小さな村のそれぞれが、温泉の利用権や物資供給で一歩でも有利に立とうと、代表を送り込んできたのだ。
「ようこそ。皆様、遠路遥々いらっしゃいませ。まずは温泉で疲れを癒していただければ」
笑顔で迎えるミサトの声は柔らかいが、その目の奥には鋭さがあった。
『はい。ミサト。温泉は武器です。相手に癒しを与えながら、こちらの条件を飲ませる、、まさに“柔の外交”ですね』
三村の代表は、半信半疑ながらも案内された露天風呂に身を沈めた。
木々の間から差し込む光、湯面を撫でる風、そして肌に沁みる熱。
警戒心がゆっくりとほぐれ、自然と口も軽くなる。
「ミサトさん…カッサ村との件、見事な手並みだったと聞きました」
ツェル村の女代表が湯煙越しにミサトに言った。
「いえいえ、私の手並など大した事ではなかったのですよ。全て村の皆の協力のおかげです」
ミサトは謙遜しつつも、会話の主導権を握る。
◇◇◇
そして湯上がりには、小さな宴席が設けられた。
温泉まんじゅう、山菜の天ぷら、塩焼きの川魚、、
「こういう地元の味、たまらないですね」とマラ村の代表が笑う。
そこにカイルが「我らトーレル商会としては交易で持ち帰れる形も考えています。よろしかったらこちらのパックもお買い求めください」と、試作品の真空パックを差し出す。
宴が進むにつれ、話は《温泉の利用枠》と《物資供給》の条件へと移っていった。
ツェル村は沿岸からの塩と干物の独占供給を提示。
マラ村は山岳の狩猟品と薬草を、定期的に湯ノ花の里へ卸すと提案する。
シルヴァン村はすでに同盟を結んでいるので、温泉の共同管理に乗り気で、他二村との調整役を買って出た。
その時、ミサトの脳内にリリィの声が響く。
『はい。ミサト。今ですね。三者三様の利を交差させ、一歩引いた形で湯ノ花を中心に据えるんです』
「おっ!タイミングかい?つまり……湯ノ花の里が全部を繋ぐハブになる、と」
『はい。ミサト。ミサトがハブであり続ければ、どこも湯ノ花を敵に回せなくなります』
ミサトは杯を置き、笑顔で言った。
「みなさん!少しお話し聞いて頂けますか? それぞれの強みを持ち寄って、みんなで利益を分け合いませんか。湯ノ花の温泉を中心にすれば、輸送路も守りやすくなります」
沈黙の後、ツェル村の代表が頷いた。
「んっ?悪くない。だが、湯の配分はどうなる?」
「あくまで公平に。ただし管理は湯ノ花で全責任を持ちます」
シルヴァン村の代表が「うん!それが一番だな」と背中を押し、話はまとまった。
◇◇◇
宴が終わり、客人たちが各宿へ散った後。
ミサトは片付けの手を止め、カイルを呼んだ。
「ねえ、リリィ?ツェル村の代表、あれ多分本音は全部じゃないよね」
『はい。ミサト。彼女は沿岸交易の影響力を保ちたがっています。干物と塩の供給条件は交渉余地ありです』
「となると……もう一回、非公式の席を作るべきかな?ねぇ?カイル?」
カイルが声を潜める。
「あぁ、マラ村の代表も同じだろうな、薬草の在庫量をわざと少なく言ってたんだろうからな…ツェル村だって、塩と干物の言ってる在庫の取引量だって眉唾物だろ…」
「ほぉ~ん……みんな温泉でぬくぬく丸くなっても、腹の中は計算高いってことね」
『はい。ミサト。それが人間です。人は癒やされても、利の計算は止めません』
ミサトはふっと笑い、湯飲みを置いた。
「なら、こっちも温泉を利用するだけじゃなく、“また来たくなる理由”を作ればいいだけ。一度でも来てもらえれば満足させる自信はあるっ!!そうすれば嫌でもお金を落としていくでしょ☆」
『はい。ミサト。宿泊時の特典や、村ごとの専用日で売り上げアップですね』
「うん。それに、ここで得られる情報も資産だよ~」
湯けむりの外交は、まだ始まったばかりだった。
◇◇◇
夜、客人たちを見送った後。
湯気の残る広間で、ミサトは椅子にもたれて深く息を吐いた。
「いや~……疲れた~!笑顔で話してたけど、内心はめちゃくちゃ計算してたよ」
『はい。ミサト。まさに帝王学の初歩ですね。相手の欲を見極め、利益を絡めて動きを制御する。お見事でした』
「あははっ!私、いつの間にそんなの学んだんだろうね」
『はい。ミサト。異世界転生から今日まで、あなたは常に実戦の中で学び続け、進化しています』
「あはは!進化って!ポケモンかよっ!?“ミサトはレベルアップした”なんてね!シャキーン☆あははっ!」
ミサトはポーズを決め、笑いながら湯けむり越しに遠くの山並みを見た。
この温泉は人を癒すだけでなく、力にも変わる。
そしてその力は、使い方次第で平和をも守れる、、
そんな確信が、胸の奥に静かに灯っていた。
続
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