【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第28話 【情報網拡大と情報戦の始まり】

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 温泉事業が動き出して一週間。
 現場は日々、木槌と笑い声で賑わい、湯けむりが山の斜面を優しく包んでいた。

 だが、ミサトの表情は浮かれていなかった。

「ねぇ、リリィ?……ダルネからの報告だと、カッサ村の中にも不満分子がいるって話だね」
『はい。ミサト。戦わずに終わったことを“弱腰”と呼ぶ人々は、どこにでもいます』
「ん~。戦わないことが正義の世界になればいいのにね~☆やっぱり放っておけないか~」
『はい。ミサト。戦わず解決するのは体を持つ人類の課題かも知れませんね。はい。カッサ村との温泉の共同事業を守るには、情報の流れを押さえる必要があります』

 ミサトは手元の羊皮紙に「情報網計画」と大きく書いた。
 戦いの勝利は外交の入り口に過ぎない。
 この先、噂や誤情報で信用が揺らげば、せっかく築いた協力関係も崩れかねないのだ。

◇◇◇

 会議室代わりの村長宅。
 そこに集まったのは村長、ミサト、カイル、そしてカッサ村代表のダルネだった。

「ミサトのその話し…情報網……ってことか?」
 ダルネが眉をひそめる。
「我々は商人や旅人から話を聞く程度。村人同士の噂話ならともかく、広域の情報となると……」

「そう。だから、両村とシルヴァン村とトーレル商会を繋ぐ“情報中継”を作りたいんだよね~!」
 ミサトは羊皮紙に簡単な図を描く。
 中心に湯ノ花の里、少し離れてシルヴァン村、その北にカッサ村、西に都市、さらにその先の商会拠点。

「よしっ!こんなもんかな? それでね、この地域の旅商人、郵便配達、鉱夫、果ては行商まで、、
 ありとあらゆる経路を利用して情報を集めて、整理して、必要な人に流していこうと思うんだ!」

「ほぉ……まるで都市の諜報網みたいじゃな…」
 村長の声に、カイルがうなずく。
「俺も商会で似た仕組みを使ったことがある。ただ、維持には金も人も要る…デマも流れるしな…」

「そこの資金は温泉の売上から捻出する。情報こそ最大の防衛手段だって、前の世界で学んでんだから!デマ情報に関してはその都度、手を打たないと厳しいけど…」
『はい。ミサト。素晴らしいです。資金源を確保した上での情報戦構築。帝王学的にも高得点です』
「採点方式やめてくれない?あとそのいつも言う、帝王学って何?私、存じ上げないんですが!」

◇◇◇

 情報網作りは早速動き出した。
 まずは両村の若者たちから“耳の早い”者を選抜。
 カイルが連絡用の暗号符号を教え、簡易の報告用紙を用意する。
 都市へ向かう商隊にも協力を依頼し、物資と一緒に情報も運んでもらうことになった。

 ミサトは試験運用として、昨日の都市市場での出来事をそれぞれに報告させた。
 驚いたことに、同じ事件でも人によって内容が全く違っていた。
「うわぁっ…目撃証言って、人によってこんなにバラバラなんだね……」
『はい。ミサト。だからこそ複数ソースの照合が必要なのです』

 情報網が動き出すと、思わぬ効果も出てきた。
 都市から帰った旅商人が、新しい香辛料や珍しい布の情報を持ち込み、村の女たちは目を輝かせた。
 子どもたちは「都市ではカラフルな飴が売ってるんだって!」と走り回り、男たちは「山向こうに獣油を安く売る集落があるらしいぞ!今度行ってみるか?」と話し込む。

「あはは、、情報って……便利すぎない?」
 ミサトは笑いながら、羊皮紙の束を机に置いた。
『はい。ミサト。便利さの裏には責任も伴います。誤った情報一つで、商機も人の心も失われる』
「うん。わかってるよ。前の世界で流れてくるニュースによく騙されてたわ…。……だからこそ、ちゃんと整えて流さないとね」

 村に流れる空気は確かに変わっていた。
 小さな村だったはずが、目に見えない糸で遠くの世界と繋がっている、、
 その感覚は、かつて会社で働いていた頃のネットワーク社会を、ミサトに思い出させた。

◇◇◇

 三日後、、最初の“大きな噂”が入ってきた。
「えっ、……第三勢力?」
 ミサトは報告紙を読み上げる。
 内容は、山向こうの小領地が最近急速に武装を強化している、というものだった。
 武器や防具の仕入れ量が明らかに増え、兵士の訓練も盛んになっているらしい。

「ほぉ、、これは……我々の脅威になり得るな」
 ダルネの声が重い。
「ただの防衛強化なら問題はないが、もし周辺領地への進出を狙っているなら、、事だぞ…ミサト!」

『はい。ミサト。こういうときはまず“彼らの利害”を読むことです』
「んっ?利害……?」
『はい。ミサト。戦争を仕掛けるには目的が必要です。資源か領地か、人材か。情報を集めれば、相手の動機も見えてきます』

◇◇◇

 情報網のテストは一気に実戦へと変わった。
 若者たちは夜遅くまで報告の整理を行い、カイルは各経路の精度を評価して回る。
 エルナと村長は都市商会への公式書簡を準備し、ダルネはカッサ村の古老から過去の領地争いの記録を集めてきた。

「うへ~、……なんか、戦いは終わったはずなのに、別の戦場が始まってる気がするよ…」
『はい。ミサト。情報戦は矢や剣よりも静かですが、結果は国をも動かします』
「物騒な話しだけどさ……でも、国を動かす…嫌いじゃないね!」
『はい。ミサト。その感覚こそ、帝王学の芽生えです』
「またそれ~!なんでもそう言えばいいと思ってない??」

◇◇◇

 そしてある夜。
 カイルが静かに部屋へ入り、分厚い報告束を机にドサッと置いた。
「ミサト、、悪い噂だ…この第三勢力……武器の一部がカッサ村経由で流れてるって話しだぞ…」
「えっ?カッサ村経由?……それって…」
「あぁ、カッサ村内部に仲介者がいる可能性が高い」
「それって、ダルネが他の村を使ってこの村をまだ狙ってるってこと?」
「この村なのか、他の村なのか、そしてダルネが手を引いてるかはわからない…だが、火のない所に煙は立たないって事だな…!」
 
 ミサトは深く息を吸い、天井を見上げた。

 温泉の湯気のように、平和はまだ揺らめくばかり。
だが、彼女の心には不思議な高揚感が宿っていた。
 ミサトは悪戯っ子の様に笑い
 「ひひひっ!……よし、ならこっちも仕掛けよう」

 リリィが微笑むような声で囁いた。
『はい。ミサト。まさに帝王学の動きですね』
「リリィ…うるせっ!あははっ!」


          続
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