【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第45話 【港町からの使者】

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 カッサ村からの連絡から数日後。
 湯ノ花の里に、一行の客人がやって来た。

 港町を拠点とする【湾岸商業連合】の使者だと名乗り、豪奢な馬車に揺られて現れたその姿は、いかにも都市育ちの風格をまとっていた。衣の縁には銀糸が施され、腰には宝石をちりばめた短剣。護衛は三人、全員が無言で周囲を睨んでいる。

 ミサトは村長宅の広間で客を迎えた。足元には新しく敷かれた畳、湯気の立つ茶が並べられている。
「遠路はるばる、お疲れさまです。湯ノ花の里へようこそ」
 笑顔を浮かべて頭を下げると、使者は薄く笑みを返した。

「噂は聞いておりますよ、ミサト殿。小さな里ながら、温泉と商才で急速に勢力を伸ばしているとか。実に面白いですね」
 言葉は褒めているようで、どこか含みを持っていた。

 カイルが横で小声を漏らす。
「……来ちゃったねぇ~ 上から目線!」
 ミサトは小さく頷き、表情を崩さず応じた。

「ふふふ、面白いと思っていただけるなら光栄です。ですが、私たちはただ人々の疲れを癒し、少しでも人々の笑顔を増やしたいだけですよ」
 穏やかに告げるその声に、使者は鼻を鳴らした。

「とはいえ、力を持ちすぎるのも考えものですね。周囲の村々が、あなた方を恐れていることをご存知ですかな?」
 広間に張り詰める空気。村長たちの顔が強張り、ゴブ次郎でさえ落ち着かぬ様子で視線を泳がせた。

 ミサトは静かに茶を口にし、ふっと息を吐く。
「恐れを招いているのなら、それは私の至らなさ。ですが、恐れを解くためにこそ、今こうして皆で力を合わせているのです」
「……ふむ」
 使者の目が細くなる。その奥に、計算高い光がきらめいた。

 場が落ち着いたところで、使者は懐から巻物を取り出した。
「本題に入りましょう。我ら湾岸商業連合は、湯ノ花の里との“交易独占契約”を望んでおります」
「独占……?」
 カイルが眉をひそめる。使者は涼しい顔で頷いた。

「そう。我らとだけ取引をするなら、港町から必要な物資を優先的に供給しましょう。鉄、塩、布、何でも揃います。あなた方のような山里にとって、悪い話ではないはず」

 村長たちがざわめく。物資不足は常に悩みの種だ。だがその条件は、同時に他の村との繋がりを断ち切ることを意味する。

「では、独占契約を結ばなければ?」
 ミサトが問い返すと、使者は唇の端を吊り上げた。
「そうですねぇ??……他の村々には別の支援をすることになりましょうな。たとえば、カッサ村に新しい井戸を掘ってやるとか…ね」

 露骨な揺さぶり。
 村長たちは目を見交わし、重苦しい沈黙が広がった。
 ミサトは一度目を閉じ、ポケットの中の小さな震動を感じる。脳内でリリィに呼びかける。
『はい。ミサト。港町の戦術は“分断”。ここで即答せず、逆に時間を稼いでください。彼らは急いでいます』
 短いやりとりを胸に、ミサトは再び口を開いた。
「独占契約は、私たちの理念には合いません。けれど……物資の件は大変ありがたいお話です。皆で相談する時間をいただけませんか?」
 あくまで柔らかく、しかしきっぱりと。

 使者は一瞬だけ目を細め、それからゆっくりと笑みを浮かべた。
「ふむ、なるほど。慎重で賢いご判断だ。結構。待ちましょう。ただし、我々もあまり長くは待てませんがね」
 その声に、脅しとも期待とも取れる色が混ざっていた。

◇◇◇

 使者一行が宿に引き上げた後、広間に残った空気は重いままだった。
「やっぱり、あれ?脅しだよな……?」カイルが吐き捨てるように言う。
「港町が本気で動けば、交易の大部分を止められる。湯ノ花の里は干上がるぞ」村長も声を震わせた。

 ゴブ次郎が拳を握りしめる。
「ボス、やべぇっすよ。あの連中、ただの商人じゃねぇ。周りに居た奴らの体付きが軍隊っすよ」

 ミサトはみんなの視線を受け止め、深く頷いた。
「うん。だからこそ、簡単に乗っちゃいけない。……私たちは温泉と食で勝負してきた。戦う場所を間違えちゃだめ」

 リリィの声が静かに響く。
『はい。ミサト。今こそ“帝王学”の応用です。強者の土俵で戦わず、自らの舞台へ引き込む。今回、それが勝機です』

 ミサトは立ち上がり、縁側の風を吸い込んだ。
 、、試されている。ここからが、本当の情報戦の始まりだ。

◇◇◇

 その夜。
 客人として泊まるはずの使者は、護衛の一人だけを連れてこっそり外へ出ていた。

 向かった先は、村の片隅にある酒場。昼間は賑やかだが、今は人影もまばら。そこで彼は二人の男を呼び寄せ、懐から小袋を差し出した。
「……これが分かるな?」
 袋の中でジャラジャラと硬貨が触れ合う音が響く。

 村の若い農夫たちが顔を見合わせ、唾を飲み込んだ。
「は、はい……それで、俺たちに、何を?」
「な~に、簡単だ。ただ噂を広めてもらうだけでいい。“湯ノ花の里は港町に逆らっている。交易を止められれば飢える”、、そう囁くだけだ」

 男たちの顔に迷いと欲が交じる。使者は冷たい笑みを浮かべ、さらに言葉を重ねた。
「心配はいらぬ。いずれ我らが支配すれば、君らは優遇される。小さな村に忠義を尽くすより、賢く未来を選ぶことだ」

 農夫の一人が小袋を握りしめる。もう一人はまだ逡巡していたが、その手を引き寄せるようにして頷いた。
 使者は満足げに立ち上がる。
「では頼んだぞ。夜明けには里の空気が少し変わっていることを期待している」

 闇の中、足音が遠ざかっていった。
 湯ノ花の里を揺さぶる策は、ゆっくり、静かに仕込まれていった。

            
          続
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