【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
46 / 179

第46話 【囁かれる噂と逆手の一手】

しおりを挟む

 使者が帰って行った、朝の市場。
 湯ノ花の里の広場には、野菜を売る農夫や、菓子を売る子どもたちの声が飛び交っていた。
 だが、その日だけは空気がどこか違った。笑い声の合間に、不安を帯びた囁きが混じっていたのだ。

「なぁ……聞いたか? この村、港町に逆らってるって」
「あぁ!聞いたよ!もし交易を止められたら、この村なんてひとたまりもないぞ」
「そうだ。食糧も塩も、ほとんど港経由で来てるんだ。港町の機嫌を損ねたら……」

 噂はまるで湯気のように、広場全体へ広がっていく。最初は数人が囁くだけだったのに、気づけば大人から子どもまで「そうらしい」と口にするようになった。

 ミサトは屋台を回っていた時に、その空気を肌で感じ取った。
「うげぇ~、……なるほど。もう動いてきたわけね…お仕事が早いですねぇ~!」
 ミサトのポケットでリリィが小声でささやく。
『はい。ミサト。昨夜、怪しい動きが観測されています。港町の使者が農夫二人を買収していました』
「やっぱり……。じゃあ噂の発信源は、ほぼほぼそこで確定ってことね」
『はい。ミサト。その通りです。噂の速度から考えると、放置すれば三日で村全体を覆います』
「三日? 人の噂って早いなぁ~…」

 ミサトは腕を組み、少しだけ考え込んだ。そして不意に笑みを浮かべる。
「ん~……だったら、その噂を逆に利用しちゃおっか☆」
『はい。ミサト。逆手、ですか?』
「うん。要は“港町が怖いぞ”ってことをあいつらは広めたいんでしょ? じゃあその恐怖を、もっと上手に拡大して、こっちのカードに変えればいいんじゃない?」
『はい。ミサト。 なるほど。恐怖を利用した合意形成。それもまた帝王学の一種です』

 昼過ぎ。
 ミサトは村の集会所に人々を集めた。商人、農夫、子どもを抱えた母親まで、噂に不安を覚えた者たちが次々に顔を見せる。
 ざわつく声を受けて、ミサトはあえて朗らかな調子で口を開いた。

「みんな、ちょっと聞いたわ。『港町に逆らったら交易を止められる』って噂って話しね」
 その一言で、場が静まり返る。誰もが目をそらし、唇を噛んだ。
 ミサトはあえて間を置き、にっこりと笑った。
「でもね、それ、、正しい部分もあるし、間違ってる部分もあるの」

「えっ……?」
 誰かの声が漏れる。

「確かに港町は力を持ってる。交易を止める力だってある。でもね、、」
 ミサトは言葉を切り、全員をゆっくりと見回した。
「もし港町が交易を止めたら、誰が困ると思う?」
「……俺たち、じゃないんですか?」農夫が恐る恐る答える。
「ううん。違うの…一番困るのは、港町の商人たちなんだな~♪」

 ざわ、と会場が揺れた。

「だってさ、湯ノ花の里は今、山から魚、森から薬草、そして温泉まんじゅう! 売れる物がい~っぱいある。もし港町が交易を切ったら、それを買えなくなるのはあっちの商人たちなんだよ~」
「……あ」
「そ、そうか……」

 人々の顔に理解の色が広がる。ミサトはその流れを逃さず、さらに畳みかけた。
「だから、うちが怖がる必要はないの。むしろ大事なのは……『私たちがどう立ち回るか』よ」

 カイルが横で声を張った。
「ミサトは、すでにトーレル商会をはじめ複数のルートを確保している! 港町が一つ止めても、他の道が残るようにしてあるんだ!」

 会場に驚きと安堵が走る。
 ミサトは笑って、もう一つ付け加えた。
「それにね、こう考えてみて。、、港町が湯ノ花の里を恐れて噂を流すってことは、それだけ私たちの存在が大きくなってるっめ証拠なのよ!」
「……おお……!」
「確かに……!」
 
 でも村人一部のざわつきは止まらなかった。

「港町に逆らったら、交易が途絶える!」
「塩も穀物も、全部高値になっちまうぞ!」
「俺たちは……食っていけるのか!」
 叫ぶ声に混じって、うずくまる若者や、子を抱きすくめる母親の姿があった。恐怖が、確かに場を支配しかけていた。

 ミサトは一歩進み出て、声を張った。
「その不安、ぜんぶ分かります。わたしだって怖いです。だからこそ、ここで選ばなきゃいけないんです」
 視線をゆっくりと人々に向け、ひとりひとりに言葉を投げる。
「交易がなくなるのが怖い? なら、自分たちで新しい道を作っちゃおうよ!」
「塩や穀物が心配? 私たちには山がある、森があり、仲間がいる。工夫すれば必ずやり抜けます」
「……何より、この温泉はもうどこの誰にも真似できない。“湯ノ花の里だけの宝”です!」

 最後の一言に、場がはっと静まる。
 その瞬間、ゴブ次郎が声を張り上げた。
「ボスの言うとおりだー! オレらが誇らねぇで、誰がこの湯を守るんだー!!」
 ゴブ次郎の叫びに、若者がうなずき、母親が涙を拭った。
 不安の声は、次第に力強い拍手と歓声へと変わっていった。

 人々の胸に、不安ではなく誇りが芽生えていく。

『はい。ミサト。……これは“敵の脅威を誇りに変換する”典型的な指導術です。帝王学的に言えば、ナポレオンの“敵に恐れられること自体が力”という発想に近いですね』
「ナポレオンさんの登場~!ふふっ、そんな大層なもんじゃないよ。ただのポジティブ変換!異世界に来てまでネガティブじゃやってらんないでしょ!」

 集会が終わった後、人々の表情は晴れやかになっていた。誰もが帰り道で「湯ノ花の里は強い」と口にする。その様子を、遠くから見つめる影があった。

 港町の使者である。
 彼は唇を噛みしめ、低く吐き捨てた。
「……この女、ただの田舎者ではないな。だが次に来る波に耐えられるかな…くっくっ!」

 その夜、リリィが報告する。
『はい。ミサト。噂の広がりは完全に逆転しました。“港町が恐れている”という認識が、里の多数派意見となっています』
「よしっ。これで村の結束は固まったね」
 ミサトは窓の外に広がる星空を見上げた。

 噂は恐怖の種だった。
 だが逆手に取れば、それは誇りの炎に変わる。

 、、次の手を打つ準備は、すでに整いつつあった。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...